Side-神堂-
「確かここを右に曲がった所の突き当りっと・・・」
ここは王都の一画、庶民区画と言われている場所だ。他には貴族区、兵舎区と呼ばれている区画が存在する。新興国と言っても規模は大きく、この庶民区だけでも結構距離がある。
「ここが例の物件か~」
その物件は庶民区としては似つかわしくない物件だ。大きさはちょっとした貴族の屋敷くらい大きく、装飾も他の庶民区と比べ彩り鮮やかであった。
「これをタダでくれるってんだから良いんだけど・・・ちょっと薄気味悪いな」
時刻は夜、元いた世界では22時を指す頃合いであった。時計と言うものはこの世界にも存在するのだが自分はそんなものを持っていない。元いた世界から持って来れたのは何もなく、強いて言うなら服くらいだ。
そして、今あるのは腰に収めている2つの剣とカンテラだけだ。ツラナギ曰く、この一つの剣は魔剣ではなく魔力を帯びている普通の剣だとのこと。素材に関しては専門外と言うので店主曰く竜の素材で出来ているのかは現状把握できていない。
もう一つはおまけで貰ったショートソードだ。こちらは特別な素材で出来ている訳でもなく、曰く付きでもない何処にでもある剣だ。カンテラは言わずもがな普通の物だ。
この2つの剣と爆破魔法だけが自分の武器だ。アンデッドは魔法に弱いので爆破魔法が通用するから問題ないとして、行方不明になると言われている件が一番の問題だ。アンデッドに殺られたのなら死体は普通に存在するが、そういった要素は無く入ったかどうかすら怪しいとまで言われている。
もしかしたら、黄泉の国へと連れて行かれたのかもしれない。そうなった場合、原典通り走って出口まで帰らなければならないかもしれない。
「怖いけど仕方ない!」
そう言って自分は幽霊屋敷の中へと入っていった。
中に入り、まず目にしたものは大きな絵画だった。中は暗く、近づいても良く見えないがとても美しい女性がこちらへ微笑みかけている。さながらモナ・リザのようである。他も幾つかの絵画が点在していたが、この絵には遠く及ばない。その絵を食い入る様に見ていたが直感的に危険を察知しその場から飛び退いた。
元いた場所を見ると下から無数の手が伸びていた。もしかしたら、こいつらが原因なのかもしれない。だが本体は分からず、こちらから手出しは出来なくどうしたもんかと困っていた。
すると、また伸びてきたので咄嗟に回避し入り口付近にまで戻ってしまった。次の回避場所を考えていると、ふと先程から伸びていた手が姿を表さなくなっていた。
「どういうことだ?」
そう言ってもう一度絵画へ近づくとまた手が伸びてきた。そして入り口まで戻ると出てこなくなる。
ここで、2つの可能性が脳裏を過ぎった。一つ目は、あの絵画は囮で本体は別の所にいる可能性。二つ目は、あの絵画が本体。だが、入り口まで戻ると襲ってこないのは謎だ。
自分の乏しいRPG知識だとあの絵画が本体であると思うのだが・・・もう少しこの屋敷を詮索してから考えようと思った。
「じゃあ本格的に行くか」
そう言って絵画を通り過ぎ、屋敷の奥へと足を運んだ。
ここは客室の一画。どうやら無数の手は玄関までしか届かないようで、絵画を通り過ぎてからは何にも無くここまでやってこれた。
「やっぱり絵が本体か?」
そう一人で呟いたら何か音がした。一瞬、ビクッとなったが慌てず音がする方向へ首を向けてみた。そこには一つの扉があり、そこからカタカタと物音がしていた。
「・・・」
一人で扉を開けるのはすごく怖かったが、恐怖を押し殺して扉を開こうとした。が、扉を開けようとした瞬間バチッと音と共に弾かれてしまった。
「一体何だ!?」
そう疑問を持ち、もう一度扉に触れてみた。次も同じくバチッと音と共に弾かれてしまった。
ここには何かあるのだが何回やっても弾かれてしまう。爆破魔法で吹き飛ばそうと試みたが、爆破するどころか反射して帰ってきた。
「危なっ!」
咄嗟に躱し、どうしようもないと判断し一先ずその場を後にした。
「どうしたものか」
あの後一通り散策したが特に何も無く、玄関にあった絵画と弾かれる扉しか異常はなかった。絵画の所にはあまり行きたくなかったので、また開かずの扉へと戻ってきた。
そのまましばらく扉の前にいて、ようやく意を決して扉へと手を伸ばした。
バチバチと火花を散らすが如く音を上げたが、手を放すことはなかった。パンドラの箱ならぬ、パンドラの扉を開くにはゴリ押しするしかないと考えたからだ。我ながら無鉄砲な行為を自傷しながら強く握りしめ扉を開けた。
扉を開けた先には一冊の本が置かれていて、それ以外は何もなかった。
「・・・」
見るからに怪しい本を手に取ってみた。
青い空、白い雲、澄み渡る空気、木々生い茂る森。どれを取っても美しく同時に、とても醜い。
なぜだか分かるだろうか。いや、誰にも分かってもらえないだろう。だからこそ私はこの本に書き留める。
ここは何処なのか、どうやって私はここへ来たのか自分でも分からない。一つ分かるとすれば、私は誰かと共に戦っていた。しかし、それ以外の記憶は無く途方にくれている。
腹が空いた。木になっていた実を食べてしまった。その実はとても甘く二口、三口、と口にした。物足りなく他にも生っていないか探してみようとした。
だが、そこにあったのは死体の山々。空気は淀み、雲はなく、空は赤黒かった。そして私の手には血が付いていた。それが何を意味していたのか理解し私は吐いた。何度も何度も吐いたが、あの実は出てこず得体の知れない物しか出てこなかった。
私は幻術に掛かったのだ。誰に掛けられたのか分からないが自然と私は口にした。
「スサノオ」
スサノオ。そう、確か共にいたのはスサノオと呼んでいた者だ。私はスサノオを探し探し、探し続けた。だが、彼は一向に現れず私は絶望した。
何処にいるのか、何故助けてくれないのだろうか。自分でも分かっている。彼はもういないのだと。
だが、私は探し続けた。でなければ私は助からない。だからこそ私は彷徨っているのだ。
「何だったんだ・・・今の・・・」
脳に直接流れ込んできた事に困惑し、そのまま棒立ちの状態だしばし続いた。
落ち着きを取り戻し手がかりになる本を持ち帰ろうとした時、本が無いことに気付いた。他を見渡しても何もなく隠す場所も無い。
「もうそろそろか」
カンテラの蝋燭を見てそろそろ切れることに気付いた。どうやら困惑していて結構時間が掛かったらしい。
この場に居ることが恐怖で限界に近づいてきたので、そそくさとその場を後にした。
「24時間やってないのか・・・」
ギルドはもう閉まっていて誰も入ることの出来ない状態になっていた。どうしたものかと考えながらふらついていると何やら音が聞こえてきた。
「貴方達!それ以上は違反とみなして追放しますよ!」
「追放ゥ?そんなのが怖くて冒険者なんてやってられっかよ!」
「それよりもさぁ、あんた結構人気なんだぜイヒヒ」
どうやら酔っぱらいに絡まれているようだ。こういう時冒険者なら格好良く決めていきたいな、なんて思いながらも普通に頭にリトルボムを食らわせてやった。とっさに起こった爆発に動転し後頭部を打ち付け気絶してしまった。一人を倒したことで二人がこちらへ目を向けてきたのでショットブラストで視界を塞ぎ、両足を引張り転ばせた。3人目も同じようにして倒し、後ろにいた女性に話しかけた。
「大丈夫ですか?」
「あなたは・・・神堂さん!」
薄暗くて最初は分からなかったが、視界が慣れてくるとレンさんだとわかった。
「奇遇ですね」
「そうですね・・・神堂さん、本当にありがとうございました!」
「いえいえ、それよりもレンさん、大丈夫でしたか?」
「はい!私は大丈夫ですよ。」
「なら良かった。・・・そうそうギルドはもう閉める時間なんですか?」
「はい。ですが、数人まだ中にいますよ」
「幽霊屋敷の報告だけさせてもらえませんか??」
「報告だけでしたら・・・」
そう言ってわざわざギルドを開けてくれた。
「絵画が原因だと?」
「ええ、自分が見た限りではですが」
あの後、何事も無くギルドへ戻ってくることが出来た。そして今日は絵画の事だけを報告し明日、また向かうことにした。
「わかりました。調査の続行を許可し、明日の報告次第では調査団を向かわせることにします」
「それで構いません」
そう言ってギルドの片隅にある席へ座り先の事を考えた。脳に直接入り込んできた記憶、実を食べたら景色は変貌、スサノオが関わっている。
「間違いなく黄泉の国だよなぁ」
黄泉の国とは、あの世を示す言葉である。日本神話で記されており、カグツチを産んで死んでしまったイザナミを追いかける事にしたイザナギが訪れた場所である。
黄泉の国へ行くには、黄泉平坂と言う場所を超え向かうのだが、日記の主はそこに飛ばされ黄泉の国へ入ってきたみたいだ。だが、どうやって入ったのかは日記の主にも分からず知っていそうなのはスサノオだけ。
「結局スサノオを探さないと行けないのか・・・」
この件を片付ける為にはスサノオを探すのが手っ取り早くいきそうだ。そのためにも、あの三人と早く合流せねばならない。
「あの~」
だがもし、別の解決策があったのなら?探し出したとして、スサノオすら分からなかったら?
どうもマイナスな方向へしか考えが浮かばず、首を振り考えることを止めた。
「あの~!」
「うわっ!」
「きゃっ!」
びっくりし声を上げてしまったと同時に、受付嬢レンさんが釣られて驚いてしまった。
「いきなり大声出さないで下さいよ」
「いやいや、さっきから呼んでましたよ!」
どうやら考え事をしていて耳に入ってこなかったようだ。これが酷いとツラナギの様になるのだろう。
「それで、何のようですか?」
「閉めるので出ていってもらえないかと」
「え?」
「ここのギルドは特例以外、指定の時刻になったら閉めるんですよ」
どうやらここは、コンビニのような24時間体制じゃ無いみたいだ。ギルドが24時間やってても深夜には誰も依頼を受ける者が来ないらしいので定時制となっているとの事。あと酔っ払いのせいで近所に迷惑が掛かるかららしい。
どうしたものか。この時間だと宿屋も閉まっているだろうし、行く宛がなくなってしまった。取り敢えず、レンさんに聞いてみる事にした。
「今から泊まれる場所って無いですかね?」
「今からですか・・・?」
「ええ。もう宿屋は閉まっていると思いますし」
「そ、それってその・・・」
「泊まれる場所、知ってるんですか?」
「し、知っていると言うかあると言うか・・・」
この際雨風が凌げる場所なら馬小屋でも良かったので教えてくれると凄い助かるのだが、何故か彼女は吃るばかりでいた。
「もしかして訳ありですか?」
「いえ!そんなことはないですけど・・・」
「けど?」
「い、良いんですか?」
何が良いのか分からないがとにかく眠いので適当に返事をした。
「ええ。そちらが良ければお願いします」
「じゃ、じゃあ閉める準備をするので待っていて下さい!」
そう言ってそそくさと奥へ行ってしまった。
レンさんが来るまで今日の出来事を振り返った。まずは爆破魔法[ショットブラスト]を覚えた。この技はダメージは小さいが、マシンガンの様に連続して放てる事から牽制に使えそうだ。それ以外にも、アジトを壊した時のように同じ箇所を連続して爆破することでダメージを蓄積させることが可能だ。まだ中級魔法を覚えていない身としては1,2を争う位に重宝することになるだろう。
次に幽霊屋敷。こちらは、玄関にある絵画に近づくと手が伸びてくると言うことが分かった。それは床だけではなく壁からも生えてくる。それさえ躱せば屋敷の中はいたって普通だ。
そして最後に、開かずの扉。この扉はもう開けてしまったのでどうでも良いのだが、中にあった日記の内容が気になった。日記の主は一体どうしてスサノオと共にし、何故黄泉の国へ着いてしまったのか。この件は謎が多くツラナギ達に相談してみることにした。
「お、お待たせしました!」
そう言ってやってきた彼女の顔はとても赤かった。いつもの黒を貴重とした制服とは真逆で、フリルの付いた白いドレスに身を纏っていた。もしかしたら貴族区出身なのかもしれない。
「へ、変でしょうか?」
モジモジした彼女は色気がありドキッとしてしまった。
「とても似合ってますよ。レンさんの良さが際立って見えます」
「そ、そうですか!」
そう言った彼女の笑顔が眩しいことこの上ない。怖い思いをし疲弊していた心が癒される。
「レンさん、どこに泊めてもらえるんですか?」
「それは・・・私の家です・・・」