3つめの魔法
「それで?」
自分たちは捉えた少年に尋問を行っていた。その表情は怒りと言うより憎しみに満ちていてとても会話が出来るような状態じゃなかった。
「これは困りましたねぇ・・・」
「いっその事指を一本を切「それ以上言っちゃいけない」」
「ではどうするんだ?」
ここはツラナギが適任だと思ったのだが、ツラナギが問うても返事をせず何を言っても無駄だった。何か気を引くものがあれば良いのだが・・・
「スサノオについてどう思う?」
ピクッと肩が震え答えた。
「スサノオはお父様を殺したんだ!だからその仲間のお前たちも許さない!!」
取り敢えず反応してくれて何よりだ。
「まぁまぁ落ち着いて。俺たちはスサノオを追ってここまで来たんだ。もし、スサノオに会いたいなら俺達に協力してくれないか?」
そう言ってなんとか宥めようとしたのだが話を聞く気は無いらしく、逆に火を点ける形となってしまった。
「誰がお前たちと協力するもんか!僕一人でスサノオを倒してみせる!」
話は一向に進まなく痺れを切らしたタケミカヅチが少年を脅した。
「死にたくなかったら答えろ。スサノオとお前の関係を!」
お前は悪役かとツッコみたくなったがそれを抑えて静観することにした。一向に進まないなら別のアプローチをしてみてはと思ったからだ。
「ヒッ!?」
まぁ怯えるのも無理はない。タケミカヅチは目で相手を殺そうとしているのだから。シナツヒコ曰く本当に殺すほど愚かではないとのこと。それを知ったとしても怖いものは怖い。
「あっ、あのっ・・・」
どうやら少年には結構キツかったらしく、そこまでと止めに入った。
「少ししたら落ち着くと思いますしこの辺で勘弁してあげてください」
「・・・わかったよ」
そう言ってタケミカヅチは少年から離れていった。
しばらくして少年は落ち着きを取り戻し何とか話し合いをすることが出来るようになった。
「初めまして、自分は神堂道影。訳があってスサノオを探しているんだ。こっちの三人は長身の彼がツラナギ、彼女がシナツヒコ、こっちの怖い人はタケミカヅチだ」
そう言ってこちらの簡単な自己紹介をした。その紹介が気に入らなかったらしくタケミカヅチが睨んできたが邪魔はするなとシナツヒコに止められていた。
「えっと・・・あの・・・」
「こちらから質問するから出来る範囲で良いから答えてくれないか?」
コクコクと首を縦に振ったので質問を投げかけてみた。
「まず、君の名前を教えてくれるかな?」
「トロヴァ・スレイ・ダレイ二世です」
「二世って事は初代、君のお父さんはどうしたんだい?」
「スサノオに刺されて・・・」
そう言った少年は今にも泣きそうな顔をしている。
「それは君自身が見たのかい?」
「いえ、家臣の者に聞きました」
この少年、トロヴァ少年は臣下の者に聞いただけでスサノオが初代トロヴァ王を殺したところは見てないとの事。もしかしたら嘘を付けられているのかもしれない。
「スサノオに直接聞いてみたいとは思わない?」
「え?」
訳もわからないという風に首を傾げたトロヴァ二世は、自分の言いたいことを察してか声を荒げた。
「家臣が僕に嘘を吹き込んだって言うんですか!?」
「落ち着いて。そうと決まったわけじゃないけど・・・直接聞いてみたほうが良いんじゃないかって思ったんだよ」
要はこの少年を仲間に引き入れようとしているのだ。彼の魔法は先の戦闘で光属性なのでは、と思ったからだ。光属性は珍しくその力は大きい。その力を持っている彼がこちら側へ付ければスサノオ探しが手っ取り早くなるかもしれないからだ。
それを察してかツラナギが助け舟を出してくれた。
「そうですよ。家臣の者に殺されたと聞いただけじゃ、事情が分からないじゃないですか。ならば直接本人に聞いてみては、と我々は思ったのですよ」
「断る!お前たちが僕を騙そうとしているって事はわかってるんだぞ!」
まぁ、直接殴り込みに行って更には誘拐なんてしているんだ。信用もへったくれもない。どうしたものかと悩んでいるとトロヴァ二世はこう提案してきた。
「けど・・・スサノオを捕まえるんだったらお前たちに情報をあげるよ。その代わり僕の知りたいことを喋ってもらうよ」
「う~ん」
そう言って一つの案を提示してきた。自分たちはまだこの世界の事を全然知らないのだ。だからこの提案はこちらにとっても美味しい話ではある。それを知ってか知らずかのこの提案。だが、もう一声欲しかったのが本音だ。まぁ交渉決裂よりはマシかと思い妥協しようとした時。
「こちらも条件があります」
そう言ってツラナギが割り込んできた。
「実は私達、拠点がここだけなんですよ。スサノオを捕らえ貴方の所へ連れてくるのは構いません。ですが、この場所だと野盗やら魔獣やらの対処で手一杯でして見つけるのが困難なんですよ・・・ですからスサノオを捕らえる代わりとして、王都に拠点を作ることを許してくれないかと」
確かにこの場所では魔獣や野盗がちらほらやってくるし、情報収集には向いていない。だが、王都なら人もたくさんいるし魔獣やらの襲撃の心配もない。提案としてはとても良い。もしかしたらツラナギは参謀などに向いているんだろうか。
「それなら良いけどこの場所を離れると魔獣どもが巣を作る可能性が出るし、その条件を飲むにはここを何とかしてからね」
「それならすぐ片付きますよ」
そういってニッコリとした笑顔を自分に向けてきた。
「頼みましたよ、道影君?」
爆破魔法ならこのアジトを潰すことなど容易いのだが、今の自分じゃ出来るかどうか・・・
「これも修行の一つですよ」
そう言って四人は先に王都へと戻って行った。王都まで自分の足で行かなきゃ行けないのか、そう思いながらアジトを潰す為に取り掛かった。
「リトルボムじゃ威力が低いしイグニッションは論外だからなぁ」
通常、魔法とは誰かに教わったり魔導書を見て練習するものなのだが、そう言った教えてくれる者はいないし、文字は読めないので魔導書を読むことも現状できない。三人が言うには魔法は自分の力で見出していくのが真の魔法使いになるのだ、と言って教えてくれないのだ。自分は魔法使いになりたかった訳じゃないんだが・・・
そうこう悩んでいるうちに日が暮れてきた。夜の森は魔獣も多くなるので夜になる前に終わらせたかったのだが、この調子じゃそれは無理そうだ。
「う~ん・・・」
悩んでも悩んでもいい魔法は浮かんでこない。いっその事リトルボムを連発して塞いでしまおうか。そう考えている時、一つの呪文が浮かび上がってきた。
「ショットブラスト!」
そう唱えた時、入り口を塞ぐようアーチ状に連続して爆破していった。威力はリトルボムと変わらないがこちらは一度唱えると連射が効くという利点があるらしい。
一発一発の火力は低いがそれが蓄積されれば大きなダメージとなり、やがてガラガラと崩壊し入り口を塞いでいった。
「これくらいやれば十分かな」
入り口は完全に塞がり誰も入れないようになった。3つめの魔法を覚えその嬉しさを噛み締めながら王都へと向かっていった。
「困った・・・」
どこで合流するか聞き忘れていた。金になるようなものは無くどうしたものかと悩んでいる時にギルドの事を思い出した。夜になってはいるがまだやっている時間なのでそこで情報を集めることにした。
「ここには来ていませんねぇ」
受付嬢、レンさんに聞いたところツラナギ達は来ていないとのこと。もしかしたら城にいるのかもしれないと思い行ってみることにしようとしたところ、レンさんに呼び止められた。
「あなたにお願いするのはなんですが・・・」
そう言って一枚の紙を手渡してきた。何が書いてあるのか全く読めないので代わりに説明してもらった。
「えっとですね。最近夜になると幽霊が出る物件がありまして、そこの調査をお願いしたいのですが・・・」
本来はそこに出ると言われる幽霊の討伐のようだったが、受注した人たちは皆行方不明になって帰ってこないとのこと。そこで駆け出し冒険者にはこの家の周囲の調査を担当してもらってるらしいのだが、行方不明になる事を聞くと皆依頼を拒否されるそうな。そこで困り果てている時に丁度自分が入ってきたから呼び掛けたらしい。
「報酬は普通の依頼より多めにしておきますのでお願いできないでしょうか?」
そう言って上目使いで見つめてきた。と言っても身長はほぼ同じなのだが。
「こちらの条件を飲んでくれたら良いですよ」
「はい!何なりとお申し付けください!」
「解決したら、その物件タダで貰えませんか?」
「え!?」
この物件、立て直したは良いが幽霊と言ったアンデッドの類が討伐してもまたすぐに出てくるらしい。だから買い手が付かずこの条件には驚いたらしい。
「アンデッドが出る物件ですが良いんですか!?」
「ええ構いませんよ。ただ、これは報酬の一部ということで通常の報酬も頂きますが」
「ギルドとしては構いませんが・・・家主さんに聞いてみますね」
「よろしくお願いします」
もしかしたらこの物件、スサノオの言っていた黄泉の国と何か関係があるんじゃないか。だったらこの家はかなり良い手掛かりになる。そんな期待を込めながらギルドで返事を待つことにした。