黄泉の幻影
ゴーレムの機能を停止した神堂はその場を後にした。
「まさか・・・ドラゴンの鱗の隙間すら突くとは・・・」
カーガル王はゴーレムに自身を持っていたが、神堂に傷一つ追わせることなく敗北し落胆している。対してトロヴァ王は大いに笑っていた。
「はっはっは!木偶の坊といえどあの速さで小僧に傷一つつけられんとはな!」
「笑いすぎだぞトロヴァ王・・・」
返事は返したもののその声は覇気が無かった。
「悪いな!だが、木偶の坊の弱点は分かった」
「それは?」
「・・・遊びが無いな」
「遊びだと?」
この場合の遊びと言うのは言うなれば無駄が無いという事だ。その遊びを利かせればもっと柔軟に動くとトロヴァ王は推察した。
「なるほど・・・流石トロヴァ王だな。あの一戦で弱点を見つけるとは」
「いや、あれはお主が過信し盲目になっていたからだぞ」
「先程から随分と辛辣だな。トロヴァ王よ」
「いやなに、お主の目を覚まさせてやろうと思ってな。別に敵対したい訳ではない」
「ならば、もう少し言葉を濁せ。大体貴様はいつも直球に言い過ぎなのだ」
なんだか王様達が騒がしいので、自分はレンさんとセレスさんを呼び出した。
「まさかあのスピードを凌げるなんて神堂様はどんな訓練をされているのでしょうか?」
「それは、自分たちに付いてきてからのお楽しみってことで・・・」
シナツヒコの鎌鼬とタケミカヅチの雷撃を同時に避ける訓練なんて聞いたら同行を断られそうなので誤魔化した。
「それで、私達を呼んだ訳は何でしょうか?」
「さっきトロヴァ王が言った事だよ。祖国に戻って防衛するか、一緒に行動するか」
「それは、神堂さんが勝ったから一緒に行くことになるんじゃ?」
「それがね・・・三人はどうもトロヴァ王に賛成しているんだよ」
「それはどういうことでしょうか?」
本来なら総力を持って挑むのが決戦であるが、あのスサノオすら行方をくらませている状況で皆で挑んでも全滅するのがオチなのではないかと議論しているようだ。
そして議論はツラナギ、シナツヒコ、タケミカヅチ、自分の四人が尖兵として赴き、黄泉の国の内部を調査しようと考えているらしい。
「そこで、二人には国に戻って黄泉の国の末端を排除してほしいらしい」
「それでは神堂さん達が犠牲になってしまうんじゃないですか!?」
「落ち着いて、レンさん。ちゃんと秘策はあるらしいですから」
「あるらしい・・・って、それでは神堂様もご存知でないのですか?」
「はい。だけど彼らは決して無理難題を押し付けても絶対に生きて返すと約束してくれましたから。自分はそれを信じるだけです」
正直不安もあるけど、あの三神が絶対と言っているんだ。自分だけ逃げ延びても必ず報いる策を練れるはず。
一人でも、そう出来るよう指導されてきたのだから。
「神堂さん。私は貴方と共にいると誓いました。ですからその申し出は聞き受けられません」
「私は強くなりたい。この国を真に守れるように。だから私も貴方様方の旅にご同行させてください!」
二人の目は真剣そのものだった。だが、三神の理由も分からなくもない。
もし、全滅してしまったら対抗できる人物がいなくなるのは何としても避けなければならない。
「それなら良いアイデアがあります」
突然ぬるっと出てきたツラナギに驚いた二人は尻もちを付いた。
「ツラナギさん。その登場の仕方何とかなりませんか?」
二人に手を差し伸べながら文句を垂れるが、そんな事は意にも返さず話を続けた。
「道影君。貴方はダレイ国に戻りなさい」
「はい?」
突然何を言っているんだ。黄泉の国の元凶を討伐するために付いてきたのにいきなり戻れと言われても、訳がわからない。
「そうですねぇ・・・端的に言ってしまえば、今回の元凶。道影君がいると厄介なことになると思うんですよ」
「それはどういうことですか?」
「これはありえない予想ですが・・・もしかしたら道影君の火の加護は」
その時だった。急に地面が揺れだし黒い瘴気が集まり人形となった。
「やはりお前たちだったか!!」
その黒い瘴気は人形を保ってはいたが形が朧げであり顔も見えない状態だった。
「シナツヒコ!今すぐ道影君とレンさんを逃してください!タケミカヅチは私と足止めを!」
「痴れ者が!」
黒い瘴気が辺り一面に霧散すると肉片と臓物の異空間へと変貌した。
一体何が起きたのか兵達は分からず、中にはその光景がおぞましくパニックを起こそうとしているものまでいる。
「トロヴァ王よ。貴殿はアヤツのような感じで我の前に出てきたのだぞ?」
「と、言うことは奴が元凶か・・・」
カーガル王は先程の戦闘でひしゃげた鎧と盾を、トロヴァ王は浄化後の疲弊を引きずったまま黒い瘴気へと向かっていった。
二人の連携は凄まじく、瘴気による触手のような攻撃を難なく切り伏せながら人形へと向かっていった。
「「もらった!!」」
二人の斬撃は人形を切り裂いたが直ぐに塞がってしまった。その光景に一瞬怯んだが、直ぐに風魔法でカーガル王は離脱。トロヴァ王は光速で瞬時に距離を取った。
「なるほど・・・これが不老不死か」
「あの死神なら倒せるらしいが・・・」
そう言って彼らの方を見た。
「なぜ逃げなくちゃいけないんですか!?」
「実力差がありすぎます。ここは私とタケミカヅチが抑えるので早くこの空間から脱出をしてください!」
「ですが、他の方々はどうするんですか!?」
「狙っているのは我々だけです。後は害する者だけです!」
「グッ!!」
口論をしている間にタケミカヅチが抑えてくれていたが、吹き飛ばされてしまった。このままでは自分たち諸共やられてしまう。
「しまった!!」
黒い瘴気が何本もの槍へと代わり自分たちを串刺しにしようと迫っていた。その時だった。
「ひとつ唄いましょ はばかりながらヨ 唄のあやまりゃ サーマ」
ふと、槍は留まった。三神たちも何が起きているか分からなかったが一瞬の隙きを突き、タケミカヅチが瘴気の薄い層に雷撃を噛ましシナツヒコが神風でレンさんと自分を脱出させた。
ダレイ国に到着して説明を要求した。実力差があり過ぎるのは分かっていたが他の人をあの空間に閉じ込めるのは酷だと。なぜ三神だけ狙われるのを知っているのかと。あの歌は何だったのかと。問い詰めたいことが山程あったが、シナツヒコは直ぐにカーガル国に戻ってしまった。
「私達・・・これからどうしましょう・・・」
「・・・とりあえずトロヴァ二世に報告をしに行こう。対策はそれからだ」
「わかりました」
ここはまだあの一件以来、不死の生物が蔓延っていないので街は賑やかだった。
王宮に向かっていると、竜殺しが帰って来たとか色々言われたが急いでいたので理由をつけて早々にトロヴァ二世に会いに行った。
王宮ではもう顔パスで入れるほど認知されていたので、無駄な手続きをせず簡単に入ることが出来た。
「それは本当なのか!?」
「はい。私もこの目で見ました」
「しかし、今はカーガル国で敵勢力と交戦しています」
「ならば直ぐに兵たちを向かわせなくては!!」
「それは駄目です!普通の人が不死の生物に傷を負わせても強化させるだけですから」
「ならばお前達はどうしてここにいる!」
「戦力差がありすぎる。そうツラナギさんに言われ逃されました」
「死神のくせに逃げたのか!?父上を見殺しにして!!」
その言葉に反論は出来なかった。なんせ自分は何もしていなかったのだから。
「貴様は我が国を裏切った罪人だ!即刻処刑せよ!」
「トロヴァ。気持ちはわかるけどあの三人がいないのには理由があるはずよ。話を聞いて、そして判断しましょう。それが逃亡者の戯言だったとしてもね」
「姉上・・・」
「さぁ、あなた達の知っていることを話しなさい」
そう言われ、自分たちがカーガル国に行ったこと。カーガル王と対決中に黒い瘴気を纏ったトロヴァ王が現れた事。そして謎の黒い瘴気を纏った人形が空間を作り変えたこと。最後に奇妙な歌を聞いたこと。
自分の知っている全てを話した。
レンさんも見たことを話したが自分と同じ内容であり嘘偽りのない眼差しで二世を見た。
「姉上・・・」
「・・・その話が本当であれば今頃カーガル国は戦場と化しているでしょうね」
「ならば!」
「ですが、その奇妙な歌であなた達の言っていた槍が止まった。と、言うことはその歌の人物が対抗しているかもしれないわ」
確かに。自分たちを逃がすためだけに歌を歌ったわけでは無いようだった。
それは魔を払うための祈りの様に感じた。
「とりあえず、ここはお父様達が帰ってくることを期待して待っていましょう。あなた達はこの国の護衛としてこの王宮で過ごしてもらいます」
「わかりました。ですが、ひとつお願いがあるのですが」
そう言ってレンさんが軽く手を上げた。
「ご両親に一度会いたいのですが・・・駄目でしょうか?」
「・・・良いでしょう。しかし逃げ出さないと言う保証も無いので監視を付けさせてもらいます」
「わかりました」
こうして一度レンさんはフォルニア家へ戻っていった。
自分はと言うと策を練っていた。どうしたら戦力差を埋められるのか。
一方、カーガル国では奇妙なことが起きていた。
突如として黒い瘴気が霧散し臓物で覆っていた空間が晴れたのだ。
「一体何が起こってやがる?」
「それが私にも・・・」
空間が晴れたことで人形の瘴気もいつの間にか消えていた。
「他の者は無事か?」
「私達以外は無事です。トロヴァ王とカーガル王も眼中に無かったのでしょう」
「それは良かった。それにしてもあの歌は・・・」
「気になりますね・・・しかし、今は対策を練ることが先決です」
「ヤツが瘴気と言えど出てきたってことはスサノオは満身創痍の状態かもな」
「取り敢えずは我々と道影君とは別行動にしましょう」
考え込んでいる三人にトロヴァ王とカーガル王がやってきた。
「三人はヤツが何者か分かっているのだな?」
「ええ、それはもう。我々の国では知らない神などいないほどですよ」
「ほう・・・あれがお主たちの神なのか」
「神と言うよりは悪魔ではないのか?」
「いえ、れっきとした神です。ただ事情があってあのようなお姿になられましてね」
「トロヴァ王の時みたくは出来んのか?」
「それができりゃ苦労はしねぇんだがなぁ・・・」
頭を掻きながらぶっきら棒に言葉を発したタケミカヅチはバツが悪そうに答えた。
「全部、あの人のせいじゃねぇんだよ・・・ただ悲劇にしちゃぁ酷な話でな」
「・・・その話は聞かないでおこう」
黒い瘴気の正体。それは黄泉の国から発しているものだ。その瘴気を幻影として出現させ自分たちに歯向かってきたのは、彼らにとってとても悲しい事だった。




