黄泉の者
剣が交わった瞬間、神堂たちの足元に黒い渦が出てきた。
「これは・・・」
二人はその場を離れ様子を見ていた。
すると地面からどんどん、どす黒い瘴気が人形となった。
「スサノオォォォォォォォォォォォ!!!」
その姿は黒い瘴気で分かり辛かったが、トロヴァ王の姿をしていた。
「トロヴァ王なのか!?」
その姿に焦りを隠せなかったカーガル王にトロヴァ王と思しき者が魔法を放ってきた。その魔法は初級の光魔法スピア・ライトだった。
この魔法は初級でありながら最大級の威力を持つトロヴァ王の十八番の技だった。
スピア・ライトが当たる寸前、タケミカヅチが放った雷でなんとか貫くことは無かった。
「動揺しているのなら下がっていろ!」
そう言ってシナツヒコがカーガル王を抱えアリーナの端へ移動させると、掻い摘んで説明を始めた。
「行方不明になった者がいることは知っているな?」
「ああ。我が国にも行方不明者が続出している。だが、トロヴァが行方不明になった等聞いてはおらんぞ」
「それには事情があってな・・・とにかく奴が本物のトロヴァ王であり、これから我々が奴を元に戻す。その間に闘技場にいる者を全員避難させろ」
「・・・終わったら詳しく聞かせてもらうぞ」
カーガル王の号令とともに、動揺していた兵士達が一斉に避難を開始した。
「これで良いのだな?」
「ああ。あなたも避難した方が良い。先程以上の技を持っている可能性がある」
「お主らはどうなんだ?」
「対抗策がある。合って間もない者を信じることは難しいかもしれんが、信じてほしい」
カーガル王はしばし考えた後、
「よかろう。そなた等の力を信じよう」
そう言ってアリーナを後にした。
「ようやく行ったか」
「遅くなったな」
「別に。ようやく体が温まってきたところだったぜ」
「では、あの方の呪いを絶ちましょうか」
そう言ってトロヴァ王を中心に三角形の陣を敷いた。が、トロヴァ王は瞬時に光魔法、ライト・ディフュージョンで周囲に魔法を放った。
ライト・ディフュージョンによって陣形は崩され、浄化は失敗した。
「道影君!レンさんと一緒に足止めを!」
「「了解!!」」
そう言ってレンさんはバーン・ブーストを、自分はイグニッションで急接近し近距離でショット・ブラスト、バーン・ブラストを放った。が、その攻撃は瘴気に阻まれ足止めすら出来なかった。
接近しすぎた自分たちにシナツヒコが文字通り風となって、トロヴァ王との距離を無理やり取らせた。
「攻撃が効かないんじゃどうしようにも・・・」
「神堂さん!祝詞なら効くんじゃないでしょうか?」
「だけどあれを使うには他の魔法が一時的に使えなくなるんだ。急接近するなんて無理だよ」
「なら、私が神堂さんの発射台になります!」
つまりはこうだ。自分が祝詞を唱え準備ができたと同時に、レンさんのバーン・ブーストで一気に接近し攻撃する。その後、ツラナギ達に浄化をしてもらうという作戦だ。
「それなら行けるかもしれないけど・・・レンさん、接近した後に急後退は出来ますか?」
「はい!短距離ですが近距離魔法を避けられるくらいなら出来ます!」
「話は纏まったようだな!」
レンさんと作戦会議をしている間に、対処してくれたタケミカヅチが言い寄ってきた。
「その作戦なら上手く行くがお前さんの保険は自分でなんとかしろよ?」
「はい!神堂さんの足を引っ張らないようにします!」
「そうか・・・なら接近した後は全力で逃げろ!」
「はい!」
作戦が決まり一気に仕掛けようとした時だった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
トロヴァ王が急に膝を付きもがき苦しんだ。
「私・・・は・・・私は屈しないぞぉぉぉぉぉ!!」
どうやら自我が少しあるようだ。
「神堂。今のうちだ!」
シナツヒコの合図とともにレンさんが自分を抱え、バーン・ブーストで一気に距離を詰めた。
「極めて汚も滞無れば穢とはあらじ」
もがき苦しむトロヴァ王の瘴気目掛けて剣を振り上げた。
「内外の玉垣清淨と申す」
トロヴァ王の瘴気は抵抗しようとしたがもう遅い。
「一切成就祓!」
剣を振り下ろし瘴気を絶ち切り、直ぐにその場からレンさんと共に離脱した。
「吐普加身依身多女」
三神が陣を描き祝詞と唱えた。
「寒言神尊利根陀見」
すると、トロヴァ王を覆っていた瘴気が蠢き出しトロヴァ王から離れようとしていた。
「逃さんぞ・・・私を貶めた者共め・・・!!」
トロヴァ王は瘴気を自分から逃れさせないようにした。
「波羅伊玉意喜餘目出玉」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
トロヴァ王も苦しんでいたがそれも後少しの辛抱だ。
「「「三種大祓!」」」
陣が輝き出し黄泉の瘴気が浄化されつつトロヴァ王本来の姿が露わになった。
黄泉の瘴気がしぶとかったので浄化は数分続いたが、なんとか無事トロヴァ王を救い出す事ができた。
「むぅ・・・ここは・・・」
「トロヴァ・・・なのか・・・?」
「カーガル王か・・・私は一体なにを・・・」
「ここは我が国である。そしてお主は何者かに操られここに来たのだ」
「説明不十分だぞ。カーガル王」
「すまぬな。突然の出来事で我も詳しくは知らんのだ。だからこの者らに聞いてほしい」
そう言ってこちらへ顔を向けた。
「そなたらは?」
「初めまして、トロヴァ王。私はツラナギと申します。」
続いてタケミカヅチ、シナツヒコと名前を言った。
「説明する前にトロヴァ王はどこまでの出来事を覚えていらっしゃるのですか?」
「確か私は・・・そう・・・誰かと一緒に王都を守りそして・・・」
「そして、気が付いたら知らない森へと飛ばされたってことですか?」
「ああ、その通りだ。して貴殿は?」
「初めまして。自分は神堂道影と言います。こちらはレン・フォルニアです」
そう言って二人共お辞儀をした。
「フォルニアのか。王都はどうなったのだ?」
「はい。無事にトロヴァ王とスサノオと言う方のおかげで壊滅は防げました」
「そうか・・・それは良かった」
そう安堵したのも一瞬、スサノオと言う言葉に反応した。
「そうだ。私はスサノオと王都と防衛して森へと飛ばされた・・・」
どうやらスサノオによって飛ばされたと勘違いしていたらしい。スサノオが黄泉の国へと誘う可能性は無いと思い、推測をトロヴァ王に投げかけてみた。
「おそらくですが、スサノオがトロヴァ王を森へと飛ばしたのではなく黄泉の国と言う者の仕業によって飛ばされたのかと思います。そしてそこでトロヴァ王は果実を食べてしまって・・・そこから記憶が無くなってしまったんだと思います」
「・・・そうだ。私は何日も何も食べず彷徨い続け果実へと手を伸ばしてしまったのだ。そこからは記憶が無くなり今の状況になってしまったのだ」
本来、黄泉の国の果実を食べるともう生きて帰ってこれないのだが、何故かトロヴァ王は帰ってこれた。
その理由は分からないが、助かった事に安堵しているようだ。
「黄泉の国・・・ああ。スサノオも言っていたな」
「どのような事を?」
「黄泉の国が進行してくる。直ぐに各国と共闘し戦の用意を、と」
「なるほど・・・道影君、これは相当な事になってますよ」
そう自分に振られ、問いただしてきた。
「これから先、転生した身であり加護を授かっていると言っても命の保証は出来ません」
「それは承知しています」
「もし、命が無くなってしまったら高天原に行くことも現世に戻ることも出来ませんよ。それでもよろしいのですか?」
「自分の命も大事ですが、大勢の命が懸かっているんです。せっかくの加護を授かって貰えたのに自分だけ逃げるわけにも行きませんしね」
「神堂と言ったか」
話の途中でトロヴァ王が話に入ってきた。
「今回の件、誠に感謝する」
そう言って深々とお辞儀をした。
「いえ、自分は何もできませんでした・・・四人がいたからこそ出来た事ですよ」
「謙遜するな。暴走状態とはいえ儂に一太刀浴びせたのはスサノオ以来なのだからな!」
「カーガル王とは模擬戦はしなかったのですか?」
「外交上そういった力量差を見せ合うのは民に示しが付かなくてな・・・」
なるほど。もしトロヴァ王が勝てばカーガル国はダレイ国より下に見られるわけだ。その逆も然り。ここは中立と友好関係を気付き親睦を深め合うことで外敵から身を護る事にしているようだ。
「それで、トロヴァ王は何か用が会ってきたのでは?」
「ふむ、実はな。フォルニアの娘がいるだろう?」
「はい」
「確かに力量は十分にある。だからこそダレイ国に置いておきたいのだ」
「それは・・・」
それは予想外の申し出であった。レンさんは確かに自分より万能だ。そして、この旅にもきっと役に立ってくれる。そのレンさんを引き抜きこの先黄泉の国に対抗できるのかが問題だ。それに、セレスさんの件もある。ここで引き抜かれてはセレスさんも国に残るだろう。そうなると大幅に戦力がダウンしてしまう。
「トロヴァ王、ひとつよろしいですかな?」
「言ってみよ。水の使い手」
「確かにレンさんを国に戻すと言うことは防衛力自体上がります。しかし、それではジリ貧です。ここは無理をしても黄泉の国に戦力を当てるべきかと」
「貴殿の言うことには一理ある。しかし、その間の防衛はどうするのだ?」
「そこは我も思った。だが、今こそ我が誇る兵器の出番になるのではないか?」
「一度見たことがあるが、あの木偶の坊がか?」
「お主が居なくなってから我が国でもドラゴンが現れてな。その素材と魔力を組み合わせた結果、鉄壁のゴーレムが完成した」
ゴーレムとは本来土で出来るものなのだが、そこに竜の素材、動力源に竜の魔力を組み込んだらしい。
「では、その強度を試しに道影君に試してもらいましょうか」
「なぜそこで振るんですか!?」
「実力的にも適任ですし道影君の持ってる剣もドラゴンから作られているんですよ」
「ほう・・・ならば切れ味には問題ないということか・・・」
「カーガル王よ、もし傷一つ付いたらどうする?」
「なに、傷が付こうが付かないかはどうでも良い。大事なのは守れるかが重要なのだからな」
「では、こうしましょう。道影君は色々な技をゴーレムに繰り出してください。そして勝敗はゴーレムが壊れるか道影君が降参するまでにしましょうか」
「よかろう。しかしこちらのゴーレムは防衛に徹している。攻撃を仕掛けるが良いか?」
「勿論です。そうじゃないと防衛の意味なんてありませんから!」
噂を聞きつけた兵たちが戻り観戦を始めた。
「では、各自観客席へ移った所で・・・始め!」
ツラナギの号令と共に一歩踏み出した。だが、ゴーレムはピクリとも動かない。もう一歩近づいてみたがそれでも動かない。
試しにイグニッションで急接近して切ろうとした途端、素早い右ストレートを噛ましてきた。それを剣で受け止めたがさすがの強度。一撃で手が痺れた。だが、ゴーレムはそんな事はお構いなしに両手を地面に叩き伏せたかと思うと、地面が揺れて足元をすくわれた。そこから再び右ストレートが飛んできた。
今度は防げなかったのでイグニッションで真横に避け新しい剣技、桜花必滅を繰り出した。
この技はフェリックスさんの急所を突く技とシナツヒコの剣技を合わせた4連撃の技だ。人形以外にはあまり効果が無いが、このゴーレムは人形になっているのだ。急所はドラゴンの鱗で守られているがその隙間を狙えば何とかなる。
「桜花必滅!」
右フックを仕掛けてきたゴーレムに僅かに出来た隙を付き右腕を再起不能にさせた。
右腕が使えないと考えたゴーレムは有ろう事か右腕を引きちぎり、左手の武器にした。
血の通っていない芸当なのだがそれが有効なのかまったくわからない。
だが、リーチが伸びた事により隙は大きくなったので少しは、やりやすくなったと思っていた。
リーチが長く振りが大きくなったのは良い事なのだが、自分が使ったイグニッションと同じ速度で振りかぶってきているのだ。こちらはさせるので精一杯になってきた。
どうやら、このゴーレムは相手の速度に比例して速くなるようだ。そのくせ巨体に見合う怪力と防御力を有している。
だが、ここで引いては黄泉の国には勝てない。どうするか・・・・
避けながら試行錯誤しているとある種の行動パターンが見えてきた。それはこちらが一定の距離を取ると急接近し近づくと武器で攻撃してくるというものだ。一見普通の行動に見えるが、それは最初に仕掛けた自分の行動と似ているのだ。
だとすると次の行動パターンは、近づいてきて突きの4連撃(桜花必滅)を繰り出すに違いない。あの技は急所を捉えるため、左右に避けることに関しては度外視している。ゴーレムは練度が足りずブレているが突きを避けるのにはシナツヒコの剣技で慣れているので簡単に交わすことが出来た。
「桜花必滅!」
今度は左腕を破壊しそこで試合終了となった。




