フォルニア家
ここはフォルニア家。今、レンさんの家族と会談中だ。
「それで?」
「・・・娘さんと一緒に旅をしたいと思いまして」
「断ると言ったら?」
その質問は想定内だ。自分もレンさんも離れたくないのだから答えは決まっている。
「反対を押し切ってでも連れて行きます」
「・・・」
顰め面をしてこちらを見た。どうやらこの発言は想定外だったようだ。
「あなた・・・」
「「・・・」」
しばし睨み合い、先に折れたのはフォルニア家当主、ナイゲル・フォルニアだ。
「君の意思の強さは伝わった。だが、レンはどうだ?」
「私は神堂さんと添い遂げたいと思っております」
「・・・何っ!?旅に出る話ではないのか!?」
「あらあら」
「ちょっとレンさん!今はまだ早いって言いましたよね!?」
「早いか遅いかの違いです♪」
時偶予想外の事を言ってくるので、レンさんが喋ると未だにドキドキしっぱなしだ。
「レ、レン!そういう年頃なのは理解しているが、いくらなんでも順序を飛ばしすぎだぞ!?」
「私達はもう誓い合いました」
「なっ!?」
「ですからこの度の会談は、お願いしにきたのではなく宣告しにきたのです」
「・・・」
ナイゲル氏は呆然としている。無理もない。実の娘が、男と添い遂げる事を急に言い出したのだから・・・
「・・・君はどう思っているんだ?」
「自分もレンさんと同じ気持ちです。一緒に旅をしたいですし、ずっと共にいたい。例えご両親が反対しても、レンさんが拒まなければ何処にだって連れていきますし付いていきます」
前日、レンさんと意思を確認しあった。簡単に言うと二人ともずっと共にいたいと言う事と、何があっても離れることはないと言う誓いを話し合った。だから、レンさんが嫌でなければ自分の旅に共にいてもらうという結果が出た。
「あなた。レン達の意思は堅いようですよ?」
「それくらい分かっている・・・だが、いくらドラゴンスレイヤーだろうとレンを守り抜く力を示さなくてはならぬ!でなければ私は認めぬ!」
「お父様・・・」
レンさんの表情は嬉しさのあまりに目元を潤ませた。のではなく、呆れていた。どうやら、自分とナイゲルさんの実力を分かりきっているようだ。
「お父様・・・彼は死神と言う異名をトロヴァ王から貰っているんですよ?」
「死神だとっ!?」
どうやら異名はその人の実力を示しているようだ。だから異名持ちに憧れ自分で名乗っている者もいるが、王族に言われた場合は、その人の実力が王族が保証してくれると言う証にもなるらしい。
その中でも死神の異名は特異らしく、不死の生物又は、不死に近い生物を討伐した者だけが名乗れる称号らしい。
「死神・・・とても信じられませんわ・・・」
そう言ってレンさんのお母さん、レナート・フォルニアは驚愕していた。死神の称号を得たという事は、不死の生物に近い存在を倒したという事になるからだ。それ以前に、不死の生物が存在する証明になってしまう事に驚いているようだ。
「だが、狼が不死になったと言う話も出ている・・・もしかして君が?」
「はい」
レンさんには事前にツラナギ達が倒したことを伝え、そして自分一人の方が何かと都合がいいと言うことも伝えてある。
「狼の他に、ファイアエイプも不死の存在になっていました。それは自分と彼女を含め4人が目撃し、同時に討伐しました」
「まて!ファイアエイプが不死になったのは初耳だ。それに一緒に戦ったなら、何故レンは称号をもらえないのだ?」
「それは神堂さんの攻撃以外、効かなかったからです。だから私達は囮に徹し、神堂さんの攻撃で倒したんです」
「・・・そういうことか。本来ならばパーティーで倒したのなら称号も一緒に手に入るが、一人の攻撃しか効かなかったなら別ということか・・・」
例えパーティーだとしても、全く歯が立たず囮に徹していただけじゃ倒した事にはならない。攻撃が有効な人物だけがその称号を与えられる。だからこそ、その称号目当てに突っ走る輩が出てくるわけだ。幸い、あの時のメンバーは称号に囚われていない者だったので助かったが・・・
「死神と言う特異な異名を持つ者なら、旅立たせても良いのでは、あなた?」
「いや・・・だが・・・」
「・・・ナイゲルさんは戦闘経験がお有りで?」
「ああ。私は貴族出身だが冒険者としても名を名乗っていたからな」
「なら、実力を見極めると言うのはどうでしょうか?」
「私自らが相手をしてやりたいのだが、年でな・・・」
「なら、レンさんと自分が戦うのはどうでしょうか?」
「「「えっ!?」」」
自分を除く、その場にいた全員が驚いていた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
そう申したのはレンさんだ。多分この場で一番納得がいかないのは彼女だろう。
「私は神堂さんと共にいたいとは言いましたが、対戦相手になりたいとは言ってませんよ!!」
そう。多分このままだとお互いの力関係が分からず、以前のレンさんの様に暴走しかねない。それを防ぐために対戦相手になってもらい、実力差をはっきりさせ無理をさせないようにしようと企てた。
「あなた・・・」
「・・・いいだろう」
一拍置き、赦しの返事を得た。
ここはフォルニア家の中庭。辺りには草一本もなく、石畳の床が続いている。
「本当にやるんですか?」
「ここで実力を見せないと一緒に旅立つなんて無理だと思うよ?」
「それはそうですけど・・・何で私と対戦するんですか!」
「こうした方がお互いの実力を見極めることが出来ると思ってね」
こうすればレンさんの実力と自分の実力、両方を見極められると思い提案した。と言うのは建前だ。
「・・・なら仕方ありませんね!」
ようやく納得してくれて、構えてくれた。自分も構え、戦闘準備にかかった。
ルールは、フォルニア家で用意された訓練用の剣、そして魔法、己の肉体を武器とした実戦形式の決闘だ。相手が降参または気絶した場合に勝敗は決定される。
「では・・・始め!」
ナイゲルさんの合図とともに、お互いに一気に近づいた。レンさんは地面を蹴って、自分は爆風で空を蹴ってお互い目の前まで迫った。
「「せいっ!」」
重なった声と攻撃。続いての一手も全く同じ動きだ。お互い切り合い、隙を見て魔法を放つ。片方は火、もう片方は爆破。両属性とも、大雑把とは言え同じ火属性に区分された魔法同士の戦いは辺りを焼けるような熱さにしていった。
暫く切り合い、魔法を放ち続け時偶武術を駆使し相手を倒そうとする。だが、お互いの攻撃は気絶させるには届かず、しばらく膠着状態が続いた。
一度距離を取り様子を伺ったが、レンさんは疲れている気配が全くない。自分も疲れてはいないが、力が入らない。やはり惚れた弱みと言うやつなのだろうか・・・
「本気、出してきて良いんですよ?」
レンさんが挑発し、それに応じる事にした。そろそろ本気を出さないとナイゲルさんに示しが付かない。
「じゃあ・・・いきますよ!」
そう言って距離をイグニッションで一気に縮めようとしたが、レンさんのバーンブーストで距離を取られた。バーンブーストは火属性版イグニッションと言った所だ。だが、その推進力はイグニッションには遠く及ばない。レンさんは爆炎を纏い後方に下がりながら、バーンショットを被せてきた。
その攻撃は読んでいたので、ゼリグナイトを前方へ展開し火の散弾を防いだ。あれからの鍛錬、ゼリグナイトを纏うだけじゃなく、防壁として使用できることを見つけ出しコントロールすることが出来るようになったのだ。
「センティニアル!」
イグニッションで得た加速によって、センティニアルは倍近くの発射速度を得てレンさんに迫った。レンさんはその攻撃を剣で弾き、バーンブラストを放ってきた。この技も火属性版センティニアルと言った具合の魔法だ。
「なんだか似てますね」
「ふふ、そうですね」
お互い一定の距離を保ちつつ相手の出方を伺いながら会話を弾ませた。
「魔法の質も似ているなんて不思議ですね」
「運命・・・だったりして♪」
にっこりと笑ったレンさんに自分ははにかみ、次いで言葉を紡いだ。
「運命の中に偶然は無い。て言葉、知ってます?」
「?」
当たり前だが、この世界では元いた世界の格言は無いらしい。
「続いてこう言葉があるんですよ。人間はある運命に出会う以前に、自分がそれを作っているのだって」
「それってどういう・・・」
「要は、運命ってのは自分の手で作り上げたものって事ですよ」
「・・・?」
レンさんは分からないと言った様子だが、仕方ないことなのかもしれない。自分たちは、お互いが見えるところで鍛錬をしていたのだ。だから無意識の内に、似た技を会得しあっていたのかも知れない。
「分からないなら構いませんよ。けど、これは必然って事だけを覚えていれば良いですよ」
「はぁ・・・」
そう言って試合は再開した。
まずは、イグニッションで近づきセンティニアルを放つ。レンさんも近づきバーンブラストで迎え撃つ。お互いの魔法がぶつかり合い霧散し、煙の中から剣撃を浴びせていった。
レンさんも同じ考えだったらしく、同じ様に剣を打ち合わせた。何度も何度も打ち合わせていく内に、やがて煙は晴れお互いの剣は割れてしまい、魔法と己の体のみが武器となった。
だが、この近距離で魔法を放つには近すぎるので体術のみの形となった。
自分が右手の掌底を打ち込もうとすると、レンさんはそれを捌き鳩尾に正拳を繰り出した。だが右手を前にしていたおかげで体を捻ることで容易く躱せ、遠心力を使って肘打ちをした。それを屈んで避けアッパーを繰り出した。
その攻撃は避けられず貰ったが、大きな隙を晒したレンさんに手刀を繰り出しレンさんの首に直撃した。だが、倒れることは無かったがお互い一歩引き下がり体勢を整えた。
「これが本気ですか?」
「・・・じゃあ次の一撃で終わらせます!!」
そう言ってより一層大きなイグニッションを発動させ、一気に懐に飛び込んだ。
「!?」
その速度について行けず、すかさず防御したレンさんだったが、見てから拳を当てる事ができてしまう。
「っ!?」
声にならない悲鳴を一瞬上げグッタリと地面に倒れた。当てた場所は鳩尾である。
「そこまでっ!」
これで終わった。と、同時にやりすぎたと思いレンさんの状態を確認した。
呼吸は少し乱れていたがそれ以外は問題なく、気絶しているだけだった。だが、心配だったのでフォルニア家唯一の治療魔法が使えるメイドさんにお願いして直してもらった。因みに治療魔法は水の力が関係しているとされ、区分は水属性となっていた。
「よくレンに土を付けたな」
「怒りましたか?」
「いや・・・むしろこの子の為に良くやったと褒めてやりたいぞ!」
そう言って肩をバンバン叩かれた。ちょっと力が入りすぎなのはどうかと思うが・・・
「それで・・・結果はどうです?」
「うむ・・・それがな・・・」
言い辛そうにしているのは父親としてなのだろうか。それとも・・・
「あなた。約束したはずでしょ?」
「しかしだな、レナート」
「言い訳無用ですよ!」
「うぐっ!」
どうやらこの家族は父親が尻に敷かれているようだ。自分はこうならないようにしようと思いながら、説教を眺めていた。
「いいですね!」
「は・・・はい・・・」
どうやら終わったようだ。そして向かってきて一言。
「娘をどうか幸せにしてくださいね!」
どうやら話は結婚の事になっていたらしい。今は旅立つことの許可を欲しかったのだが、これも良いかと思い返事をした。
「例え七難八苦が訪れようとも、最後には必ず幸せにしてみせますよ」
「しちなんはっく?」
「自分の国で、色々な困難って意味ですよ」
「なるほど・・・あなたの名前と言い不思議な国から来たのですね」
そう言ってニコリと笑った。その表情はレンさんにとても似ていた。
「自分からすればこの国の方が珍しいですよ」
「ものの見方の違いですわね」
「そうですね」
お互い笑い合い、今後の事を話した。
「それで、ですね・・・まだ旅立つ許可を貰っていないんですが」
「あら?無理矢理にでも連れて行くんではなくて?」
「拒めば、ですよ」
「どちらにしても変わらないじゃないですか」
「まぁ・・・そうなりますね」
「なら・・・私達から言うことは無いわ。あの娘がそれで良いって言うなら行かせてあげるわよ」
「ありがとうございます」
そう言って深々とお辞儀をした。そしてナイゲルさんにも深くお辞儀をし、レンさんの事は任せるよう言った。
「頼んだぞ・・・死神・・・」
そう一言呟いて項垂れてしまった。自分も父親になったらこうなるのだろうか・・・それはちょっと勘弁願いたい。
「任されました」
そう言ってレンさんが起きるまでの間、レンさんのご両親と色々な話をした。主に自分の国の事だが。
「すみません・・・わざわざこんな遅くまで居てくれて」
時刻は19時。あれから随分と経ってから目を覚ました。どうやら鍛錬の反動が一気に来たらしく一度は起きたものの、つい眠ってしまったらしい。因みにここはレンさんの寝室だ。心配になってつい上がり込んでしまった。
「気にしなくても良いですよ。ご両親とも色々と話しが出来ましたし」
「そ、それで・・・お父様とお母様は?」
「二人は食堂で待ってますよ」
「そうじゃなくて!」
そう言って焦らすなと言わんばかりに両手を降った。その仕草が愛らしく、ついからかってしまう。
「・・・二人は了承してくれたよ」
「じゃあ!」
「・・・死ぬその時まで一緒にって」
「・・・え?」
「ご両親。旅立つ事じゃなくて、添い遂げるって言ったことを気にしてたらしいよ」
「ええーーー!!」
レンさんは驚いていた。無理もない、自分も驚いたのだから。まさか旅立つ事じゃなくて、レンさんの言った添い遂げる方を気にしていただなんて。
「そ!それで、お父様とお母様は!?」
「お!落ち着いて!!」
思いっきり近づいてきたので仰け反ってしまった。後ろには背もたれが無く、倒れそうになりレンさんを掴んでしまった。
「やばっ!?」
「え?きゃあ!!」
「レン様!ご無事ですか!?・・・って」
自分の上にレンさんが覆いかぶさり、抱きしめる形で転んでしまった。それを見てメイドさんはたった一言。
「お子様のお名前は決まっていらっしゃるのですか?」
「「転んだだけですからっ!!」」
「と、言うことがあったんですよ・・・」
「あらあら♪それはそれは♪」
レナートさんは楽しそうに、ナイゲルさんは気難しそうに話を聞いていた。
「それで?娘には手を出さなかったのか?」
「だから出してませんって!!」
「あなた!」
「むぅ・・・」
レナートさんに言われ、ナイゲルさんは黙り込んでしまった。
「それでお父様、お母様。旅の事についてなのですが」
「それは先程、神堂さんと話したわ。あなたが望むのなら構わないわよ」
「私も構わん・・・ただし!手を出したらっっっ!!!!」
急に痛みだしたからどうしたのかと思ったが、ニコニコしていたレナートさんを見て察した。
「そ、それで!他にも三人お仲間がいるんですが!!」
「「・・・え?」」
二人がハモり、どういうことか説明された。
「神堂さん?どういうことですか?」
「二人だけでは無かったのか!?」
新婚旅行じゃあるまいし、二人だけでは辛すぎる。
事を掻い摘んで説明し、レンさんを改めて同行させて良いか尋ねた。だが、それは無用だったようだ。
「それなら早く説明しなさいよ。私ったらてっきり新婚旅行かと思ってしまったわ」
「私もだ・・・それより、そんな重大なことが起ころうとは・・・」
「この件に関しては、初めは自分と他の三人で解決しようと思ったんです。ですが、そこにレンさんも加わりたいと申してまして・・・」
「私はどんな困難だろうが、神堂さんと共にいます」
「・・・ふぅ。わかった。好きにするといい」
「お父様!」
「但し、自分の身の危険を感じたら直ぐにその場を離れるように!これは父親としてではなく武人としてお前に言う」
「・・・はい!」
「昔っから、こういうところは頑固なんだから・・・何を言っても無駄でしょうね。」
「お母様!」
「私からも一言。良い結果を残しなさい!」
「はい!」
そう言ってレンさんはお辞儀をした。自分もお辞儀をし感謝の言葉を紡いだ。
「ナイゲルさん、レナートさん。許可して頂き、ありがとうございます。改めてお礼申し上げます」
「いいわよ、気にしなくて・・・それよりも、娘をよろしくね?」
「傷一つ付けさせるなとは言わん。だが、可能な限り守ってやってくれ」
その言葉にたった一言、宣言するように言い放った。
「もちろんです!」




