神の加護
毎話2000字以上を目指します
「つまり、貴方達はスサノオを追ってきたと」
掻い摘んで説明すると彼らは突如、高天原に現れた須佐之男命を追ってきたのだと。その時、スサノオが言っていた事が気にかかった天照大神が命を彼らに下しスサノオを連れ戻しに来たのだと。
「大雑把だがな」
タケミカヅチがイラただしげに吐き捨てると宥めるようにツラナギがやってきた。どうやら独り言は終わったようだ。
「まぁまぁ、そんなに怒らない。この子が怯えてるでありませんか」
血まみれでイライラしてる人?を見ては誰でも怯えるだろう。それが神様の名を語っている者だと特に。
「苛ついてねえよ。で、こいつどうすんだ?」
「我々と共に来るか?」
血まみれで勧誘してくる姿は紛うことなき悪魔。あいたっ!
「君は随分と生意気なんだな」
どうやら自分の考えていることはお見通しのようだ。これからどうするか悩んでいるとツラナギが提案してきた。
「ここは神と人、ともに手を取り合おうではありませんか。あの方を捕まえないとあなたの居た世界に問題が起こるかもしれませんし」
「ツラナギ、喋りすぎだ」
どういうことか説明を要求すると、罰が悪そうにツラナギが答えた。
「えっとですね・・・高天原に来たスサノオが去り際にこう申したらしいです」
ー俺が止めないとこの世界は黄泉の国と同じになるー
その事に疑問を抱いたアマテラスはスサノオに説明を要求するが返答は無く去って行ったという。そしてツラナギ、シナツヒコ、タケミカヅチの三神はスサノオを追ってきたと。
「・・・そちらの事情は分かりました。ですが、自分は戦力外ですよ?」
そう、自分は人なのだ。神々と対等な立場に無くて当然なのだ。それが力を使うとなると特にだ。
「大丈夫だ。我々の力はこの世界の人と大差ないからな」
シナツヒコの言っている意味が分からない。それを察してかタケミカヅチが詳しく説明してくれた
「お前の居た世界なら人間にならずとも降りていけるんだが、この世界は異世界だ。ここに来るまでに色々な制約が課されてな・・・」
その内の一つが神として降臨出来ないことだ。そして武器も持ってこれないと言う。なんとも不便だなと思いながら一つ疑問が湧いてきた
「神様達はこの世界に人として転生したって事ですか?」
「ええ、その通りですよ。私達は今まで人として暮らしていました。そして神としての力は時間と共に戻ってきます」
なんでも、今までは肉体と精神が分離しあって満足に動けなかったらしい。しかしここ最近になって肉体と精神が融合し思うままに動けるようになったと。そして、時が経てば神としての力を取り戻せると。
「とは言っても、今はあくまで人が成し得ることしかできませんがね。例えば、空を飛ぶなんてことはできません」
そう言ってツラナギは宙に浮こうと跳ねたが地面に付いてしまった。
「その代わりと言ってはなんだが、この世界には所謂魔法と呼ばれるものが存在している」
そう言ってシナツヒコは宙に浮いてみせた。それを羨ましく思っていると、適正があれば人でも浮けるそうだ。
「魔法には驚かないんだな」
「異世界なんだから魔法も存在して当然だと思ってましたから」
「だが、戦闘になったらその思い込みは捨てることだな」
事実、この世界では魔法が使え魔獣も存在する。なんて王道的な異世界なんだろうと思っていると釘を刺されてしまった。それに自分が戦闘すること前提ではなされても、自分は戦闘どころかスポーツもしていない身だ。
「君にはとある神の加護がある」
そう言って剣を横薙ぎに振るってきた。無論、動けないで真っ二つ。にはならず、その剣は空を切った。
「今のは一体・・・」
自分でも分からなかったが、自分がいた場所より数mも下がっていた。
「その神が誰なのかは転生された私達にはわからない。だが、君に神の加護があることだけは分かっている」
その説明を受けて自分はゾッとした。なんせ彼女たちですら、誰が付いているのか分からないからだ。もしこれが身体に働きかけない神様の加護だった場合、真っ二つにされてもおかしくはなかったからだ。そう考えているとシナツヒコが笑いながら謝ってきた。
「すまない、さっきの礼だと思ってくれ」
「戦闘に役に立たない神はこっちには来ないと思うぜ」
「何せ、スサノオ様絡みですからねぇ」
と、言いたい放題の神様達に弄ばれたわけだ。納得がいかないと思っていたら今度はタケミカヅチが大剣を突いてきた。それを僅かに左に躱し重心がズレた瞬間、右腕がタケミカヅチの鳩尾を捉えた。
「・・・」
「ほらな」
自分でも付いていけない反応速度で一連の流れを決めていた。まるでそうするように動くのが当たり前のように。
「まぁ、武術に長けている神だということは分かりましたね」
武神と言うとタケミカヅチが真っ先に上がるが本人?は目の前にいるし、何者なのだろうか。もしかしたら西洋の神様なのかもしれない。
「それか、もともと君には才があったのかもしれない」
「なんにしてもそこらの魔獣相手には不足なしだな」
やっぱり戦うのか。せっかくの異世界だしそう言った楽しみもありなのかもしれない。だが事が事なだけにのんびりと、という訳にはいかないのは少し残念ではある。
「そういえば、自分は元の世界に帰れるんですか?」
異世界という言葉に浮かれていたが大事なことを聞き忘れていた。疑いを感じつつも信じているということだろうか。
「結論から言うと、無理ではない。だが、戻ったとしても轢かれる瞬間に戻ることになるぞ」
「この世界に居続けなければならないわけか」
学生生活をエンジョイできていないので残念だ。家族とももう会えない、友人とも。未練ダラダラで元いた世界を去るのはあまりにも無念だ。
「今回の件、上手くやれば向こうでも生きていけるかもな」
今回の騒動が丸く収まれば神の加護によって生きていけるそうだ。もちろん電車なんかとぶつかる訳だから瀕死にはなるらしいが。
「それでも未練があるよりはマシかな」
二度と会えないという恐怖よりマシだとこの時はそう思っていた。