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真実の扉

今日も今日とて、アルドはひたすら硬い岩盤につるはしを打ち付けていた。

 鱗に覆われた逞しい両の腕に盛り上がる筋肉が、日々の鉱山労働で肉体が鍛え上げられている証であった。

 頑丈で忍耐強い亀甲族タートリアンですら、過酷な鉱山労働に自ら志願する者は少ない。重労働である上に、兎耳族ラビッティイの監督官に怒鳴られるのを嫌がる者が多いからだ。

 しかし、アルドは己の肉体を磨き上げるため、進んでこの仕事に従事している。坑道を掘り進めるごとに次第に己が無になっていくような感覚を、アルドは好んでいた。


 今日も朝から坑道を掘り進め、そろそろ昼食の時刻にさしかかろうとしていたが、アルドはその時奇妙なことに気づきつつあった。


(この岩の向こうから、風が吹いているようだ)


 目の前の岩盤のわずかな裂け目から、かすかな風が吹いてくるのをアルドは感じていた。空腹を覚えてはいたが、飯を腹に入れるよりもう少しこの先へと掘り進めたい、という欲求の方が今は優っていた。

 額の汗をぬぐい、再びつるはしを握ると、アルドは目の前の裂け目に向けて振り下ろした。確かな手応えを感じ、何度かつるはしを打ち込むと岩盤が音を立てて崩れ、その先に思いがけない広い空間が現れた。


(これは……もしかして墓地なのか?)

 亀甲族の伝承で、墓荒らしを避けるため密かに山中の奥深くに作られた墓地があるとアルドは聞いたことがある。ひんやりと冷たい空気を浴びながら、アルドはカンテラを手にその先の空間へと進んだ。

 地面には綺麗な石畳が敷き詰められており、この墓がかなりの貴人のものであったことを感じさせる。

 目を凝らすと、アルドは視線の先に墓石らしきものが立っていることに気づいた。

 墓標には何らかの文字が刻まれていたようだが、すでにその部分は剥がれてしまっていて読むことができない。

 ふと足元に目を留めると、アルドはそこに墓石から剥がれ落ちたらしい石版を認めた。アルドはそれを拾い上げたが、いくら目を凝らしても書かれている文字がアルドには判読できない。どうやら亀甲族の使う文字ではないようだ。


 文盲の者も多い亀甲族の中で、アルドは珍しく字が読めた。好奇心旺盛なアルドは幼い頃から亀甲族の古老の元を訪れては古い伝承を聞きたがり、亀甲族の歴史を記した書物と格闘しているうちに自然に字を覚えたのだ。


(これは、一体何なのだ)


 働けど働けど一向に豊かにならないアルドの暮らしの中で、唯一の慰めは知的好奇心を満たすことだった。読めない文字で書かれているからこそ、アルドの石版への好奇心は一層募る。

 誰か、これを解読できる者はいないだろうか?

 そう思うと、居ても立ってもいられなくなってきた。

 アルドは石版を拾うと兎耳族に見とがめられないよう衣服の下に隠し、急いで元来た坑道へと戻り地下墓地への入口を岩を積み上げて塞いだ。



「ふん、休暇か。お前達亀甲族は少し目を離すとすぐに怠けたがるが、堂々と休もうとするとはな」

 兎耳族の監督官は煙管から煙を吹き出しつつ、小馬鹿にしたような調子で言う。 

 身体を鍛えるため働き詰めだったアルドはまだ法律上定められた休暇は消化していない。しかし、できるだけ亀甲族を酷使するのが良しとされる鉱山の中ではそんなものは有名無実に等しかった。

「実家の母が病に倒れたので、見舞いに行きたいのです。どうか二日間だけ、休みを下さいませんか」

「お前は働きが良いから、もうすぐ鉱夫頭に昇格させても良いと思っていたのだがな」

 監督官は地位を餌にアルドを引きとめようとしたが、その言葉が嘘であることはわかりきっている。この兎耳族が口約束を守ったことは今まで一度もない。

「息子として、親の死に目に会えなければ一生後悔します。どうか山を降りることをお許し下さい」

「仕方のない奴だ。休んだ分の賃金は月給から差し引くからな」

「もちろんです。この穴埋めは必ずさせていただきます」

 本当は法で定められた休暇の分の賃金は支払わなくてはならないが、兎耳族の支配する鉱山では何かと理由をつけて不法な減給が行われていた。それでもこの監督官は休暇の申請を認めるだけまだましな部類である。アルドは監督官に一礼すると、急ぎ荷物をまとめてレバス鉱山を降りた。


 アルドは石版を読める者を探すために、まずはノルトハイムへ赴くことにした。

 しかし、石版を読める者と言っても当てがあるわけではない。この時世に一番学問のある者と言ったらまずは聖導師だが、サイロン教徒から金を絞り取ることしか考えていない土竜族モーリアのことなどアルドは信用していなかった。


(――まずは長老に訊いてみるとするか)

 アルドに読めない文字を長老が読めるとは考えられなかったが、なにか手がかりくらいはつかめるかも知れない。石版をリュックにしまうと、アルドは鉱山を降り真っすぐにアーケロン街にある長老の家に向かった。


「ふむ……このような文字は儂は見たこともない」

 長老は丸眼鏡の奥で目を細めつつ石版を凝視していた。

「長老にも、わからないことがあるのかい」

「思い上がるな、アルド。この世界で儂ら亀に解ることなど、大海の中の一滴ほどもありはしないのだ」

 子供の頃から聞かされ続けた小言を、アルドは今また聞かされていた。アルドは苦笑しつつ再び長老に尋ねる。

「しかし、長老にも読めない字なら、いったい誰なら読めるんだ」

「さあな、サイロン教の高位聖導師なら何か知っておるかもしれんが、そんな者はこの街にはおらぬからな」

「へえ、そんなに大層なものなのかい、これは」

「儂でも知らぬ文字となると、これはあるいは神代文字かもしれん。ならばこれを読み解ける者はサイロンの異端の者か異教徒しかおらぬ」

「なぜ、異教徒でなければいけないんだ」

「サイロン教の正教徒は神代文字の存在を認めていないのだよ。この世の歴史は全て神の文字であるエラム文字で書かれているということになっておるのだ」

「しかし、現にこの石版に書かれているのはエラム文字ではない。ならばこの石版の存在自体がサイロン教には認められないということにならないか?」

「そういうことだ。良いか、アルド、このことは決して口外してはならぬ。その石版は元の墓所に戻すのだ」

 長老は声を押し殺すと、アルドをなだめるように言った。


「何故だ、長老。せっかく貴重な史料が見つかったというのに、なぜ闇に葬らねばならないのだ」

「何故、何故、何故、お前は子供の頃からいつもそうだ。知らなくて良いことまで知りたがり、理解する必要のないことまで理解しようとする。そのような小賢しさは、いずれその身を滅ぼすぞ」

「知ってはならないことなどこの世にあるものか。この石版の内容も、スズダリの誓いが立てられた理由も、俺は知りたいんだ。それが何故いけない」

「物事とは、ただそのように在るものだ。何故そう在るのかなどと小賢しい問いを立てず、ただあるがままを受け入れれば良いのだ。それがこの世を生き抜く知恵というものだ」

「そうやって、理不尽なことをすべて飲み込めっていうのか。それが知恵だというなら、そんなものは奴隷の知恵だろう。だが俺は奴隷じゃない。知恵というものはこの世を少しでもあるべき姿に近づけるために使うものじゃないのか」

 アルドは強く拳を握り締めた。亀甲族が苦手な長距離走で兎耳族と戦わなくてはならない現状は、決してあるべき姿などではない。

「そのあるべき姿というものが、所詮はお前の頭の中で作り上げた幻想に過ぎないと言っておるのだ。そんな虚しい蜃気楼を追うより、長きにわたり作り上げられてきた秩序にこそ従うべきだ。我々はそのようにして今まで生き抜いてきたのだ」

「与えられた秩序にただ従うだけの生にどれほどの意味がある。確かに俺たちは寿命は長いが、その大部分を兎どもにこき使われて終わるんだぞ。なぜこの現状を変えるために立ち上がらない」

 長老は目を閉じ、ゆっくりとかぶりを降った。

「……いずれお前にも、儂の言うことが分かる日が来る」

 アルドは心の中でその言葉を撥ね付けると、長老の手から石版をもぎ取って表へ飛び出した。



 長老の言葉を信じるなら、石版の文字を解読できるのは異教徒の者しかいない。なら向かうべき場所はひとつだ。アルドは聖アルノルド教区へ出ると、さらに西へと進み、アーケロン街とは正反対に位置する区画へと足を踏み入れた。

 足を踏むたびに軋みを上げる木造の橋を慎重に渡ると、そこはマグニ地区だった。道路脇に軒を連ねる屋敷の扉には鳳凰の文様が描かれている。この中に住まう者がスザク教徒である証だ。

 麝香の匂いの立ち込める界隈を歩くと、すれ違う黒猫族や白狼族が胡散臭げな視線をアルドに投げて寄越す。兎耳族の居住区とはまた違う居心地の悪さをアルドは感じていた。


(さて、一体どこを訪ねたものか)

 とりあえず足を踏み入れてみたものの、マグニ地区にはアルドの知己などはいない。道行く者を捕まえて神代文字を解読できそうな者を探そうとしていたが、どうやらこの地区の者は余所者の匂いに敏感らしく、アルドが声を掛けようとすると皆冷たい一瞥をくれたあとそそくさと立ち去ってしまうのだった。

 これではどうにも埓があかない、と思いつつ歩き続けていると、少し開けた場所に出た。スザク教の神像を中心に、いくつか露店が立ち並んでいる。どうやらこの地区の市場らしい。神像の前では、襤褸ぼろをまとった土竜モーリア族の老婆が数人の聴衆を前に説教を聞かせていた。


「来る千年紀に訪れる災厄とは、正教徒の連中が説くような生易しいものではない。おお、我らの積み重ねた罪科のいかに重きことか!この罪は決して許されるものではないが、瘴鬼にその身を喰らい尽くされたくなければ今からでも悔い改めよ」

 サイロン教の災厄の解釈を否定するあたり、異端のアラムダル派の者だろうか。

 老婆は必死に声を張り上げ、大げさな身振り手振りを加えながら話す。

 その様子に聴衆は失笑を漏らしていた。アルドから見ても老婆は気が触れているとしか思えない。

「おい婆さん、与太を飛ばすのも大概にしてくれ。瘴鬼なんてものが本当に存在するのなら、今すぐこの場に連れてきてくれよ」

 聴衆の一人が野次を飛ばした。老婆の話は、異教徒の多いこの地区の者にすら荒唐無稽に聞こえるものらしい。

「身の程をわきまえぬ愚か者どもめ、裁きの日が来てからではもう遅いのだ。この地上から翼ある者の絶えて久しいこの世ではもはや我等にはなんの手立ても……おお、まさか、お主は!」

 老婆はアルドの方を振り向くと、アルドを指差したままわなわなと震え始めた。


「まさか……このようなことが……いや、あれから千年もの時を経れば、お主のような者が現れても不思議はない」

 老婆は両の手の爪でアルドの右腕を掴んだ。アルドは困惑してその手を振りほどこうとする。

「おい、一体何なんだ。話があるなら俺に解るように話してくれないか」

 老婆はその問いには答えず、一人で話し続ける。

「うむ……よもや亀甲族の中に神気を感じる時が来ようとは、いよいよお主も本来の姿に目覚めつつあるということか………ならば私も手を貸してやらねばなるまい。どれ、少し心脈を視てみるとしようか」

「心脈?何を言っているんだ、婆さん」

 老婆はアルドの言葉などまるで耳に入らぬ様子で、アルドの手首に浮き出た血管に爪を押し当てた。

「……ふむ、何者かを探しておるのか。ならばあの男が良かろう」 

 老婆はアルドの手を取って、強引に歩き始めた。年に似合わぬ力に引きずられながら、アルドは老婆に抗議した。

「おい、一体どこへ連れて行くつもりだ」

「お主の会いたい者に会わせてやるのだ。黙って付いてくるが良い」

 アルドは訝しんだが、どうせ石版を解読できる者のあてがあるわけでもない。アルドは老婆に引きずられるままに、市場から伸びる小路の一つへと入っていった。


 狭い小路を何度か折れて歩き続けると、老婆はその区画では最も大きな家の前で立ち止まった。五階建ての高層住宅だが、窓にはガラスが嵌められており、中に居る者が比較的裕福であることを窺わせる。

「ここに、俺の会いたい者とやらが居るのか?」

「真実は、それを求める者にだけ扉を開く。お主は今、新しい扉の前に立っておるのだよ」

 老婆はアルドを振り向ないまま、半ば独り言のように話した。

「妾にできることはここまでだ。いずれまた会うこともあろう」

 背をかがめて去っていく老婆の後ろ姿を見送ると、アルドは目の前の扉に向き直った。

(何が何だかわからないが、ここまで連れてこられたのもただの偶然ではあるまい)

 そう思い定めると、アルドは意を決して目の前の扉をノックした。


「お客人かい?扉なら空いているよ」

 扉の奥からは快活な声が響いた。この界隈の者にしては珍しく、余所者を拒否する様子はないようだ。

 アルドが思い切って扉を開けると、驚いたことに中から出てきたのは兎耳族ラビッティイの青年だった。くるくると良く動く紅い瞳は、好奇の光を宿しつつアルドに向けられている。

「おや?誰が来たのかと思ったら亀甲族タートリアンじゃないか。……ふうむ、イリヤ婆さんめ、一体何を視たんだろうな」

 目の前の青年は不思議そうに首を傾げた。

「視た、とはどういうことだ」

「イリヤ婆さんはほとんど目が見えないが、その代わり、時折様々なものを幻視することがある。おそらく君の中にも何かを感じ取ったんだろうが、それが何なのかまでは僕にはわからないな」

 やはりただの気の触れた老婆だろうか、とアルドは思ったが、今はそんなことはどうでもよい。今目の前の青年に訊くべきは石版のことだ。

「あんたは、神代文字というものを知っているか?」

 その言葉を聞いた途端、目の前の青年は目を丸くした。

「ああ、知っているとも。我が生涯をかけた研究課題さ」

「それは本当か」

 アルドは声を弾ませた。イリヤに手を引かれるままにここまでやって来たが、どうやらここまでの道行は無駄ではなかったようだ。


「あんたにこの石版を見てもらいたいんだ。ここに書かれてある文字が俺には読めないんだが、あんたになら読めるかも知れない」

 アルドがリュックから石版を取り出し青年に手渡すと、青年は食い入るように真剣に石版に視線を這わせた。

「……驚いたな、こいつは久々の本物だぞ」

 青年の声がかすかに震えていた。興奮している様子がありありと伝わって来る。

「ここで立ち話も何だから、ちょっと奥まで来てくれないか。辞書を引きつつ話を進めるとしよう」

 青年はアルドを手招きすると、廊下の左右にうず高く積まれた書物の間を通り、奥の部屋へと入っていった。 


「これはどうやら、ちょうど先の千年紀ミレニアムの頃に書かれたもののようだね。うむ、実に興味深い」

 目の前の青年は左手で辞書を繰りつつ、右手で虫眼鏡を握りながら話す。

「で、何が書かれているのか教えてくれないか」

「そう急くな。……ええと、『韋駄天ノウラ・アトランザはバトス山に入り聖餐を口にした後カムチャダール聖戦に参加し、誇りある敗北を選んだ。恩讐を超えて正しき道を求めた勇者、ここに眠る』か。どうやら兎耳族の墓標らしいな」

 韋駄天とは兎耳族が好んで使う二つ名だ。しかしその石版の内容はアルドの知る歴史とは決定的に異なっている。

「誇りある敗北とは何だ?兎耳族が亀甲族に敗北したことなど、一度としてないはずだが」

「公式な記録ではそうなっているね。しかし兎耳族の記す歴史が正しいとは限らない。そう言えば君達の一族には、兎耳族が敗北する伝承が伝わっているのではなかったかな?」

「あれは伝承というよりも、ただの童謡だが」

「真実というのは思わぬところに隠れ潜んでいるものさ。君達の童謡では、兎耳族はどんな風に負けたんだい」

「まあ、こんな感じなんだが……」


 ――どんなに亀が急いでも、どうせ晩までかかるだろう

   ここらで ちょっと ひと眠り


 アルドは子供の頃よく聴かされた一節を口ずさんでみせた。

「なるほど、兎が油断して眠りこけている間に亀に追い越されてしまったというわけか。しかしそれでは誇りある敗北とは言えないな」

 青年は顎に手を当てて考え込んだ。石版の内容と亀甲族の童謡に共通点を見出そうとしているようだが、どうも上手く両者の整合性が取れないらしい。

「その歌は単に俺達が兎耳族を貶めて溜飲を下げるためのものに過ぎないだろう。足の速さでは到底かなわないから、せめて歌の中だけでも復讐してやろうってことだ」

「果たしてそう片付けてよいものか。兎耳族が敗北する伝承は貴重なのだがなあ」

 目の前の青年はしきりに首をひねっている。兎耳族が敗北する伝承を知りたがるとは、この男はよほど変わり者らしい。こんな調子だから異教徒の住処であるマグニ地区にしか居場所がないのかもしれない。


「うむ、これ以上ここで石版を眺めていたところで埓は開くまい。お座敷考古学など僕の目指すところではない」

 青年はやにわに立ち上がると、正面からアルドの目を見据えた。

「僕はラウル・アドリアン。ここで私塾を開いているが、本業は考古学者だ。これ以上の真実を求めるならば、君の協力も必要になるかもしれない。ええと、君の名は」

「アルド・ラトキアだ。石版の内容を知る手がかかりが何かあるのか?」

「断っておくけれど、これ以上先は踏み込んだらもう後戻りはできないよ。君にはここで引き返す選択肢もある。この石版のことなどすべて忘れて、平穏な毎日を選ぶことだって出来るんだ」

 ラウルは表情を引き締めると、そう念を押した。


「そんなものが欲しければ、最初からここに来たりはしないさ」

「なるほど、道理だね」

「で、俺に何をして欲しいんだ」 

「話が早くて助かるよ。良い考古学者はどんな現場にでも踏み込まねばならない。例えそれが禁断の聖地であったとしてもね。我々の目的地はバトス山だ。聖餐とやらの正体を確かめなければなるまい」

 ラウルは紅い瞳を輝かせた。明らかに禁忌を破ることに興奮している様子だ。

「ほう、あの聖地に入ろうというのか。兎耳族にそんな度胸のある奴がいたとはな」

 兎耳族の多くはサイロン正教徒で、よほどのことがない限り禁忌を破ろうとはしない。しかしラウルは何のためらいもなくサイロン教の禁忌の土地に向かおうとしている。

「さて、早速作戦を練るとしようか。あそこにはサイロン教の警備兵がいるはずだ。大した人数ではないだろうが、どうにかして警備をくぐり抜けなければ我々の求める聖餐にはたどり着けない」

 ラウルは腕組みをすると、再び席に着いた。アルドがラウルとバトス山の聖地に潜り込む策を練るうちに、マグニ地区の夜は更けていった。

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