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プロローグ
地道な努力が何者にも勝る尊いものであることは、誰もが理解している。
倦まずたゆまず歩み続ける者が最終的な勝者となるという教訓も、確かにこの世には必要だろう。
しかし、なぜその教訓を、兎と亀の競争という形で示さなければならなかったのか。
亀が兎に勝つことができたのは、あくまで兎が油断していたことが大前提なのだ。兎が山の麓を目指す途上で眠り込むことがなければ、どれほど懸命に努力したところで亀に勝機はない。
そして、現実の兎は、決して油断して足を止めたりはしないのだ。
走れば走るほど、亀は兎と距離を離される。
その無情な現実を前に、努力の大切さなど説いてみたところで、どれほどの意味があるだろう。
世の中には、決して覆せない力量の差というものがある。
その現状に目を背け、決して勝てない相手との競争を強いられることは、どれほどの苦痛だろうか。
我が主人公アルド・ラトキアは、亀甲族を代表する者として、この世の理不尽を一身に背負う競争に投げ込まれていた。
――兎耳族と亀甲族の紛争を解決する「カムチャダール聖戦」の走者として。