決闘、強さのほどは
「話を聞け、とは言うけど、ボクにはその話が見えてきそうに無いんだけど?」
「無理もない。だが余は貴様に興味がある。ならば剣を交えるのが、余の流儀だ!」
流儀とやらに他人を巻き込むのは控えてほしいが、王様口調から察せられるように彼はあまり他人の話を聞くタイプではなさそうだ。
そういう相手の誘いを断るのなら、彼より立場が上の人間から、禁止という名の声が必要となる。
この場で言うなら、
「夕顔に許可を貰わなくちゃいけないんじゃないかな、そういうの」
飄々とした人物だが、彼は指揮官だ。
こういったメンバー同士のトラブルにも対応してくれるはず。
「む、そうか。ならば存分に通信をするが良い!」
茜から許可を貰うまでもないんだけど。
ともかく、夕顔に通信を入れる。
これは標準の機能の1つだ。
数回のコールで、夕顔の声が聞こえた。
「おっ、どうした野苺、藍ちゃんとの恋の相談か?」
「別に恋煩いなんかしてないししてても君には相談しない。全然違うよ」
ここで会話のペースを掴まれてはいけない。
簡略に用件を済ませたいのだ。
「ほほう、じゃあどんな用事だ?」
「茜がボクと決闘したいって言ってるんだけど、君から何か言ってくれないかな」
「なぬ、何故それを早く言わない、ちょっと待ってろ」
それからしばらく沈黙が続いた。
何をしているのか気になるが、一切音が拾えない。
「よしオッケ、皆、聞こえるかー」
この言葉に、ボクだけでなく、周囲の3人まで反応した。
……まさかとは思うが、全員に通信を開いたのか。
その後、聞いたことのない声が2、3聞こえてきて、確信した。
何故こんな大事になっているのか。
「はーい皆一旦静かに。茜と野苺が決闘するそうなのでー、競技場に全員集合。繰り返す、競技場に全員集合ー」
全て裏目に出て、八方塞がりになった。
こんなことを許可するなんて、どんな頭してるんだ、一応軍の管理下だろう、ここ。
ていうか皆ノリノリなのが通信越しで伝わっているのだけど。
「良いか?」
「ああ、うん、わかった、行こう」
「野苺様、ご武運を」
藍の励ましだけが救いである。
そんなこんなで先輩方の期待を裏切るわけにもいかず、ボクは戦場となる競技場へと向かうために、踵を返した。
***
「さぁ始まりました第1回、大空の死闘!実況、解説は俺、夕顔と」
「そのパートナーの朝顔が勤めさせていただきまーす」
「さて朝顔、今回の戦いだが、お前はどう見る」
「そうねぇ、やっぱり経験の多い茜君の方が有利だとは思うわ。でもでも、野苺君もとっても強かったし、大物食いにも期待ね!」
「お前も好きだよなー、こういうの。確かに、勝負は見えねぇな。そして賞品も用意してある。勝者にはなんと、パートナーからのキスが貰えるぞ!」
ちょっと待ってそれ本人達からの許可とったのか。
うーん、藍ならいつも通り淡々とやりそうだけど、相手があのおっかない葵じゃ、茜にとっては罰ゲームなのでは。
「あ、葵からの、キス……!?お、おのれ、どうしてくれようか……!」
あれ、口調は憎々しげだけど、満更でもないご様子。
「勝敗の基準は、相手を降参させるか、一定量のダメージを与えることで決まる。ダメージ数値はこっちで観測してるから、首が飛んだり胴体が2つになったりしない程度にな!」
そんなシステムがあるのか。
何分勉強は藍がしていて聞きたいことしか聞いていなかったから、そういうところには疎い。
まだまだ知らなきゃいけないことが多いな。
「茜、お互いベストを尽くそうね」
「フハハ、魔王の名のもとにひれ伏すが良いわ!」
おっと、クリムゾンモードだ。
戦闘時はあれがデフォルトなのか。
「両者の熱も高まってきたところで、行くぜ、スリー、ツー、ワン!レディー、ファイッ!」
カウントダウンコールと歓声に押されるように、ボク達は同時に動き出した。
茜は近付いてくる。
ということは彼は近接型なのか。
しかし、得物が見あたらないようだが……。
結局、間合いに入るまで茜は素手だった。
もしや素手で戦うのかと考えた、その瞬間、
鋭い双刃が、ボクの胸を薄く切り裂いた。
「なっ!?」
咄嗟に後ろに体を逸らさなければ、今ので決着がついていた。
一体、どこから出したのか。
「ファーストアタックは茜だ!おいおい、初めて見たぜ今の!」
夕顔すら初見だとは、本気、ということか。
「クハハ、これぞ魔王の業よ!余の鍛えし、闇の武術、その身に刻むが良い!」
言いながら、茜は武器を構え直す。
どうやっても埋められない、経験の差。
ボクは早速、壁というものにぶち当たったらしかった。