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藍との朝、というか昼

目を開ける。

眩しい。

真上に光源があるのだから、それも当然といえる。

真上に光源……?太陽、だろうか、いや違う、太陽だったとしたら、こんなに長く見詰めることなど出来やしない。

駄目だ、視界が明るすぎて、どちらにしろなんなのかわからない。

目を閉じて、体の感覚を確認する。

寝転がっていて、柔らかなものの上にいる。

良かった、どうやら地面の上に寝ているなんていうとんでもない状況ではないらしい。

手足もちゃんとある。

初陣で大きな成果を上げたというのは夢で、実は無様に地面に叩き落とされ、死を待っている最中、なんて最悪の想定は否定された。


「おはようございます、野苺様」


聞き慣れた声。

そう、ボクがこの短い人生の中で、唯一聞き慣れた声だ。

もう1度目を開けて、声のした方向を見る。

藍色の髪と瞳、目鼻立ちは整っているけれど、そういう人物に限って、無表情だと言い知れぬ恐怖を感じさせるものだ。

そして彼女は、その恐怖をいつだって振り撒いている人だった。


「そこで微笑みかけてくれれば、大多数の男の人はイチコロだと思うんだけど、今度から考えてくれないかな」


「野苺様がおっしゃるなら……これで、どうでしょうか」


藍は律儀にリクエストに応えてくれた。

その笑みはどこか淋しげな雰囲気で、ふとした時に見せられたとしたら、世の男性は一目惚れしてしまうこと必至だろう、そうだ、敵にその笑顔を見せてやれば良いんじゃないか。


「ありがとう、藍。で、気になったんだけど、今何時かな」


「何者かによってこの部屋の時計、藍に設定された標準時、この星の自転や公転の周期が変えられていなければ、11時14分です」


「それ、いつものバカ真面目じゃなくて、ただの回りくどい言い方だね、ボクの癖、うつってきちゃった?」


「そうですね、野苺様が以前、あんなことを言ったものですから」


うん?……ああ、あれか。


「「この世に絶対なんて無いんだから、確定した答を探してはならない」」


声を揃えて口に出す。

それはボクの座右の銘だ。

藍は大真面目に覚えていて、言ってくれたのだろうけど、ボクは吹き出してしまった。


「律儀だ、殊勝だね藍。そんなどうでもいいこと、わざわざ気にしなくてもいいのに」


本当に、この娘には律儀という言葉が似合う。

藍という女性を、漢字2文字で言い表せというのならそれが一番適当だ。

1文字で藍、2文字で律儀、3文字で真面目。

それが、藍という女の子。

ってあれ、何か忘れてないか。

そうだ、時間。

確か、11時……。


「うわ、なんでこんな時間まで寝てたんだ、ボク。そういえば、昨日帰ってきてからの記憶が無いんだけど……!?」


ボク達の記憶が無くなるというのは、余程のことだ。

機械に、忘れる機能など無いのだから、記憶が無いというのは、外部から消されたか、或いは……。

戦場で聞こえてきた、あの声。

自分の中にいるもう1人の自分、否、他人が、ボクの体を乗っ取って……?


「アルコールの摂取過多です」


「は……?」


「アルコールの摂取過多です、野苺様。酔い潰れて、そのままぐっすりとお眠りになっておりました」


そうか、単純にずっと寝ていただけか。

うん、聞いたらなんとなく思い出してきた。

あの後、祝勝会兼新人歓迎会と称して宴会が行われ、ボクはそこで飲み過ぎて酔い潰れたんだ、よし、完璧に思い出したぞ。


「バカだなぁ、アルコールで酔う機能なんて切れば良かったのに」


はぁ、と溜め息を吐くと、藍は眉をしかめた。


「野苺様はその時、酷く悩んでいるご様子でした。そうして、どんどんボトルを開けていって、藍が止めようとした時には、それはもう、見ていられないほどのご様子で」


うわ恥ずかしい。

そんな様子を藍どころか皆に見られたのか。


「それで野苺様、本日のご予定は?」


「ご予定なんてないよ、もう、部屋から出たくない……」


「そうですか、本日は、穏やかな1日になると良いですね」


言って、ボクの隣に横になる藍。


「ねぇ、この部屋には、ちゃんと君用のベッドもあったはずだけど?」


「野苺様が起きるまで、ずっと横で待っていたので、藍は疲れました。野苺様は、藍がお側にいるのはお嫌ですか」


「藍も、ずるい質問のしかたを覚えたなぁ」


「野苺様のせいです」


藍と出会ってから1月ほどしか経っていないはずなのだが、ボクはそんなに悪い影響を与えやすいのだろうか。

あれ?そういえば、今日は藍、和服を着てるな。

以前、ボクが資料を読んで、和服の話をしたことも、覚えていたのだろうか。

藍の律儀さにまた少し笑わされながら、ボクは再びやってきた眠気に身を任せた。

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