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勝利、それは自身でもたらしたものでなく

 初陣で敵機撃墜。

記念すべきことなのだろうし、喜ばしいことなのだろうが、今歓喜に浸っている暇は無い。

まだ戦闘は続いている。

遠距離攻撃は牽制にしかならないことが多く、よってまだ相当数の敵機が残っている。

向こうには遠距離型が多い。

このまま続けば、長期戦になることは確実だ。

いくら全員が歴戦の猛者達であろうと、戦いが長引けば、どんな事故が起こるかわからない。

早く終わらせなければ、と自分でも困惑するほどの強迫観念に突き動かされながら、ボクは敵指揮官へと視線を動かす。

奴を倒せば、この戦いは終わる。

敵味方の弾丸が入り乱れる中、ボクは突撃した。

指揮官機の周囲には護衛のために3機が固まっている。

そいつらがボクの接近に反応し、銃を構える。

動き回れば致命傷にはならないとは言うが、それは夕顔の言った通り、的がバラけている場合の話だ。

3機からの集中攻撃など、通常ならそれ自体が死の宣告である。

だがこの瞬間、ボクは敵の数が減るのを悠長に待っていられるほど、気が長くなかった。

3つの機関銃の銃口から、数えるのもバカらしい数の銃弾がボクに襲いかかる。

引けば死ぬ。

進むのもまた、死刑囚として檻に入れられるようなものだ。

追い詰められているといえば、そうだ。

だが当然のように死んでやるつもりなど、毛頭ない。

掻い潜る、避ける、あるいは弾く。

人間では不可能な芸当を、ヒトではないこの体は難なくやってのける。

飛んでくる銃弾を刀1つで弾くなど、その最たるものだ。

急所には命中していない、だが装甲にも限界がある。

雨の如く降り注ぐ攻撃に、肉体は悲鳴を上げ始める。

バキ、と不吉な音が、右肩の方でした。

どうやらついに耐えられなくなり、少しばかり凹んだらしい。

そこからはもう、自身の耐久力との戦いだった。

ダメージは確実に蓄積し、貫通する弾も増えてきた。

普段人間とほぼ変わらないように感覚をオンにしているボクでも、今回ばかりは痛覚をシャットアウトする。

そして、もう幾度目とも知れぬ破砕音を聞いたと同時に、ボクの刀は3つの首を切り落としていた。

深呼吸でもしたい気分だが、ここはまだ過程だ、本命は、今剣を構えたあいつである。

もう守ってくれる仲間はいないぞ、と、不敵な笑みを浮かべた。

それを皮切りに、今回最後の戦いが始まった。

金属がぶつかる甲高い音が、大地を滅ぼされてもなお青く、広い空に響き渡る。

伊達に指揮官というわけでもないらしい。

こいつは確かに、強い。

しかし、ボクが言うのもなんだが、動きがまだ、幼い。


『君なら勝てる』


また、あの声が頭を揺さぶる。

ああ、言われなくてもわかっているとも。

ボクは強者ではない。

でもこいつよりは、巧く戦える。

ボクの刀が、相手の剣を弾き飛ばした。

次で止めだ。

と思った矢先、敵の1機がボク達の間に割って入った。


「ッチ!」


思わず舌打ちをしながら、そいつの首を落とす。

すると、背後から銃声。

上昇して回避。


「野苺様!」


藍が拳銃を投げ渡してくれた。

それで今撃ってきた奴に3度射撃。

3発目で、上手く頭を破壊出来た。

今度はナイフを構えた敵。

指揮官の方に蹴り飛ばし、纏めて首を斬ろうとするが、指揮官には運良く頭を下げられたために回避される。

だが、動揺は誘えた。

今まで仲間達の相手をしていた敵共も、ボクの方に集まってきている。

だが、もう遅い。

拳銃を指揮官の額に照準し、引き金を引く。


「終わりだ」


競技の終了を告げる号砲のような銃声の後に、指揮官は力無く荒れた地上に落ちていく。

敵一般機の動きが止まり、追い付いた仲間達によって破壊される。

ボクの初陣は、華々しい勝利に終わったと言って良いだろう。


「野苺様、お怪我は」


「したけど軽いよ、すぐ治る。心配させてごめん」


近付いてきた藍の頭を撫でる。

これもまた、ボクの癖の1つだった。

治ると言ったが、ロボットの体が治るというのは変な話だ。

でも本当に、どういう仕組みだか知らないがボク達には自然治癒機能まで備わっており、エネルギーが十全なら、大概の傷は数時間で治ってしまう。


「早速大活躍だな、野苺!」


「夕顔……ありがとう。でも無茶したなって自分でも思うよ、これからは気を付ける」


ボクは今回、冷静ではなかった。

いや、冷静ではあったが、冷静だったのは、ボク自身ではなかったのだ。

行動全てが、経験に裏付けされた、確実なものだった。

しかしそれらは、ボクの経験ではない。

どこかを間違えれば、死ぬような戦い方、とても新人がする動きをしていなかった。

仲間達はわいわい騒いでいるが、ボクは自身の中に抱えた矛盾に、人知れず心を震わせた。

そして、気付いていなかったんだ。

この時、他のは違う目で、ボクを見ている人物がいたことに。


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