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初陣、声のままに

途中、脳や心臓などの描写がありますが、雰囲気を作るための描写です。

実際彼等に人間のような脳や心臓はありません。

 荷物の中からここに来る前に支給された武器を引っ張り出す。

窓から外を見れば、もうほとんどの仲間達が空に集っているのが見えた。

多少の不用心さとマナーの悪さに対する後ろめたさを噛み殺しながら、窓から空へ向かった。


「お、来たな新入り」


急いだつもりだったが、どうやらボク達が最後だったらしい。

周囲から物珍しそうな目で見られるのも相まって、非常に気恥ずかしかった。


「敵機は24。この拠点の兵器の数は総勢20機と聞いています。数の不利への対策等はあるのでしょうか」


こんな雰囲気の中で自分の考えを忌憚なく言える藍はちょっと尊敬する。

いや、製造うまれたばかりの兵器達のAIでは『空気を読む』ということが難しいから、やはりボクの方が変ということになるのだけれど。


「ある程度の乱戦は覚悟してる。だが15機以上になるとあちらさんも指揮官が必要になるらしくてな。そいつがいたらとりあえず潰す。大将首を取れれば後は撤退していくだろうさ」


実戦経験を元にした、的確な意見だ。

それにきっと、その作戦が思い通りにいかなかったとしても、有機的に部隊を動かすことが、夕顔には出来る。

彼は常に余裕を持っているが、それは油断ではないと、まだ付き合いなど殆ど持っていないボクですら確信出来た。


「なるほど、参考にさせていただきます」


「安心しな、藍ちゃんが指揮をするって時はすなわち藍ちゃん以外全滅した時だ。そうなったら今度こそ人類は滅んでるだろうぜ」


夕顔の返答に、藍は目を白黒させた。

ボクに付きまとわれているせいである程度人間的な思考回路を持つ藍でも、こういったブラックジョークには耐性が無いらしい。


「藍、夕顔のは冗談だから、気にしすぎないこと。夕顔もあまり藍をいじめないでやってくれ」


ボクがあんまり夕顔に対して馴れ馴れしいものだから、上下関係にうるさくないというこの拠点のメンバーも、流石に好奇の目でボクを見てきた。

あれ、どうやらボクのが空気を読めなかったのかな、これは。


「えっと、新入りのボク達と親睦を深めるのは結構だけど、そろそろ行かないとマズイんじゃない?」


視界に表示された敵機を示す赤い点は、着々と行軍している。

どこからともなく出現する奴等を内地に近付けさせず、開拓等の安全を確保するのが、ボク達の役目だ。


「野苺の言う通りだな、それじゃ野郎共、行くぞオラァ!」


夕顔の、海賊か何かかと疑いたくなる掛け声に続いて、全員から盛大な鬨の声が上がるのだった。



***



視界のレーダーにはボク達と敵機の反応。

それがぐんぐん近付いていき、ピピッ、と警告音が鳴ったところで、敵の姿を目視可能となった。

ボク達より無感情な、人形の兵器。

彼等にも感情はある、とボク達を開発した天才は提唱したが、相対してみれば、バカバカしいと切り捨てたくなる。

それほどに無感情、無感動。

兵器というものを突き詰めれば、そこに至るのだという完成形、お手本と言うべきものが、ボク達にその牙を剥こうとしている。


「遠距離武器持ちは射撃開始!近接の奴等は動き回って奴さんの的をバラけさせろォ!」


夕顔の指示が飛ぶ。

それに答えて、藍も含めた遠距離部隊が武器を構えた。

敵も同じように、ボク達を狙ってくる。

ロボット兵器の射撃は、正確無比そのものだ。

それも当然、コンピューターが無駄弾を撃つはずがない。

撃ったとしてもそれはフェイント、次の弾丸で、急所を撃ち抜かれていることだろう。

ならば、どう対処するのか。

簡単だ、夕顔の言うように、動き回って急所を外せばいい。

ボク達の皮膚は普段なら人間と同じ柔らかいものだが、攻撃を受けた瞬間硬質化し、衝撃を緩和する。

だから、近接武器を持つ兵器達は、戦場では常に動き回らなければならない。

動き回らなければならないというのに。

……ボクの体は、動かなくなっていた。

怖い。

ただその2文字だけが頭の中で繰り返される。

死への恐怖が、手足を、脳を、心臓を凍らせる。

体は震えを通り越して、固まっているのだ。

怖い、怖い。

動かなければ死ぬ、その事実が余計に体を静止させていく。

仲間達がボクに向かって何か叫んでいる。

それも聞こえない。

目の前には、ボクに死を告げに来た敵が、刃をボクに突き立てようとしていた。


『君は、強者ではない』


聞き覚えの無い声が、しかし圧倒的な存在感を持って、脳を揺さぶった。

……そうだ、ボクは強者では無い、それ故に今、目前に迫った死を、甘んじて受けようとしている。

もう、言われるまでもない。


『だが、巧者ではあるはずだ』


敵の剣と同じように、突き付けられるようにして放たれた言葉。

頭が覚める。

一寸の無駄無く大上段に振りかぶり、1ミリの狂いなく、振り下ろす。

ただ、それだけ。

何万、何億とその動作を繰り返してきたかのように、自然に、反射的に体を動かす。

そうすれば、ボクが見るのは、残骸となった、憐れな敵の姿だけ。

……1機、撃墜。

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