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邂逅、実力者

食事を終えて空を見ると、暗い雲が立ちこめていた。

 立ち込める、というと霧のようだが、空を飛ぶのなら霧も雲も大差は無い。

 淹れてもらった緑茶を飲み干し、2杯目を注ぐ。

 一口飲んで、空気の冷たさに身を震わせた。そういえば、ここに来てから1度通り雨が降ったくらいで、他の日は冬にしては暖かい日々だったように思える。


「上着ってあったっけ?」


 ボク達はいざとなれば気温を感じる機能を切れば良いし、代謝をしない、イコール臭いや汗の汚れなどは無い。気分的に受け入れられない者や、オシャレをしたい者以外なら、最悪、服は一着で足りてしまう。

 藍はどちらかと言えば後者だ、和服を着てくれたのはボクへのサービスでしかないのだろう、現に今日着ているのは、いつもと同じ地味な戦闘服だ。


「上着だけでなく、季節に合わせた洋服はそれなりの量を用意してあります。野苺様は、環境に自身の体を合わせるのがお嫌いなようなので」


「嫌いなんてネガティブな言葉じゃなく、季節の変化を感じるのが好きだって言おうよ、あれも嫌い、これも嫌いじゃ参っちゃうだろう?」


 ボクの言葉に、藍ははて、と首を傾げた。

 こういった感情論や抽象的な言葉には、やはりまだ弱いらしい。


「いずれわかるようになればいい、少し散歩に出ようか、こんな天気で生憎だけど」


「はい、お供いたします」


 稀に藍は感情が豊かだと思わせる時があるが、今日はそうでもないようだ。

 感情にムラがあるのは成長の証だが、周りは中々に戸惑う。

 極端な例を言えば、昨日爆笑していたギャグやジョークで、眉一つ動かさなくなる場合もあるのだ。

 別にネタの鮮度だとかそういう問題ではなく、感情の起伏がおかしくなる。

 ……僕も、昔はそうだった。


「っ!?」


 鋭く息を吸った。ボクはさっき、いつまでボクだった?

 そんな機能は無いはずなのに、冷や汗をかいたような気分になる。

 あまり効いていない空調の生ぬるい風が首筋に当たり、酷く気分が悪くなった。

 深呼吸を1度、2度。

 なんとか、落ち着いた。


「野苺様、ご気分が優れないご様子ですが」


 気づけば、藍がボクの体を支えていた。


「っあ、ああ、平気だよ、ちょっとボーッとしちゃったんだ」


「お気をつけください、戦闘以外で怪我をしてしまっては、笑い話にもなりません」


「確かにそうだけど、手厳しいなあ、笑い話くらいにはなるんじゃないかい?」


「野苺様が怪我をされては、少なくとも私は笑いません」

 

 何気なく放った一言なのだろうが、思いやりがあると邪推してしまうのはボクの悪い癖だ。

 浮かれている場合ではない、藍に多少なりとも心配をかけてしまった、ボクは元気でいなければ。

 あんなわけのわからない奴のことは放っておこう。忘れて、一日一日を出来るだけ面白おかしく生きれば、こんな精神病じみた状態から回復出来るはずだ。


「さ、行こう、あったかいコーヒーが飲みたいな」


「コーヒーならインスタントですがありますよ?」


「外でベンチに座って飲む缶コーヒーがオツなんだよ」


「はあ……?」


 まあ、ドラマのワンシーンみたいなことに胸をときめかせるタイプでは無いよな、藍は。

 久々に窓以外から外に出る。

 歩くと、逆に足元がふわふわする気がした。



***



 ここにある自動販売機は、厳密には販売しているとは言いがたい。

 いや、禅問答ではないのだ、ただ単に、お金を払わなくてもいいという意味である。

 過酷な戦場に駆り出されている分、福利厚生というものは充実しているのだ。

 休暇は無いが、戦闘が無いのなら基本的に何をしても良いし、この自販機のように、品物が欲しいのなら対価は必要無い。

 ちなみにここは仮にも都市の形を成しているから少し歩けば商店街を模したものや娯楽施設もある。

 それらの管理は、ボク達とは違う、オーバーテクノロジーで作られたものでないロボット達がやっている……というのを資料で読んだ。

 だが、総勢20人しかいないここで、果たしてどれだけの施設が使われているのだろうか。

 ベンチに座り、湯気の立つ缶コーヒーで手を暖めながら、広大な拠点の土地のことを考えた。


「あつっ!」


 隣で藍が声を上げた。どうやら、コーヒーの熱さに驚いたらしい。


「珍しいね、ちゃんと温度を感じるようにしているなんて」


「は、はい、たまには、と思ったのですが、正直、もう限界が近づいています……」


 ガタガタと震えている姿は、あたかも携帯電話のマナーモードのようである。

 彼女は一応長袖を着ているのだが、慣れていないのか、そもそも寒さに弱いのか。


「無理しなくていいよ、あんまり寒がられると、ボクが無理矢理連れ出したみたいだし」


「ありがとうございます」


 ボクが言ったのと同時に実行したのか、いつもの無表情に戻る藍。

 もしかすれば、藍の感情が薄いのは、外界との関わりを機能によって断ち切っているからかもしれない。

 コーヒーを一口飲む。大人ぶって頼んだブラックコーヒーは、思いの外苦かった。


「しかし、誰もいないね」


 まだ時刻はかなり早いだろう、それもあって、寒さはより一層、という具合だ。

 物言わぬ建物と、整備が十分でない地面、どんな時でも青い空を見つめていると、世界にたった2人、取り残されてしまったかのようだ。


「藍と2人きりでは退屈ですか」


「へっ!?何言ってるの、そんなことないよ、他意はなかった」


「そうですか、いつも野苺様が無表情無表情というので、藍といるのはお嫌なのかと」


「見当違いだよ、ほら、ボクって藍がいないとダメ男になっちゃうよ、起こされないと一日中寝てる」


「それはある意味特技に数えられるのでは?」


「真面目に返さなくて良いから……」


 藍はちょっと考えすぎる、思慮深いともいうけど、たまに不意打ちで妙なことを言うから面食らってしまう。

 会話している内に、コーヒーは人肌程度に温くなっていた。

 隣にいる誰かと同じ温度、そう考えると、これは何よりも暖かいもののようにも感じた。

 とはいえこのまま冷めてしまってはいけないので、一気に飲み干す。

 と、ボク達のものでない足音が2つ聞こえてきた、こちらに向かってくる。


「うん?ああ、新入りの子達か」


「パツキン刀使いと、なんか和服着てたサブマシンガンっ娘だね、ハロー!」


「は、ハロー?」


 落ち着いた雰囲気の白髪の青年と、ハイテンションな緋色の髪の女性だった。


「ああ、失礼、おれは山茶花、こっちは……」


「百日紅だよー、サリーって呼んでね!」


 また、クセの強そうな人物に出会ってしまった……。

キャラの名前は花からとっていますが、いまいち花言葉などがかみ合わなかったり、そもそもそのあたりを考えていない場合もあるので、あまり深いツッコミをされると困ってしまいます。そのあたりはなんとなくで読んでくださいませ。

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