女帝カヨコ
愛は一人でも愛なのか?それとも二人いて初めて愛なのか?一人では一方的でありそれは愛ではなく奴隷というのではないだろうか。
「ありがとう、今日は楽しかった。こんな無理させちゃってごめんね」
っと、言いながら高木家の玄関先で次女カヨコおんとし18歳がスポーツカーから降りてきた。
「君のためためならなんだってするよ」
っと、誰かわからないけど金持ちそうな青年が車の中から言う。
「え~私ね、あなたのためにもっと可愛くなりなたいから自分だけの鏡が欲しいの。妹が多いから鏡の取り合いになっちゃって」
っと、カヨコが自分だけの鏡の前で練習に練習を重ねたおねだりポーズで青年を悩殺。
「ぼ、僕が君のために買ってくるよ!」
っと、青年がカヨコに貢ことが決定した。ちなみに彼の貢であろう鏡は妹の部屋行きである。すでにカヨコは自分のバイト代で買ってきたお気に入りの鏡が存在する。
「本当に?ありがとう~。それじゃまたね~」
っと、言いながらカヨコはそそくさと家に入る。現在の時刻21:58もうすぐカヨコが毎週見ているドラマが始まるからである。
こうして通算20回目の母命名「女帝カヨコ劇場」は今日も終わったのである。
女帝カヨコ劇場とは母もとんだネーミングセンスだが。女帝。カヨコにぴったりである。高木家の権力はカヨコがダントでに強く、発言も命令形ばかりだ。家の中では女帝カヨコ劇場で見るような女らしさなど微塵もない。母も長女も差し置いて何故次女であるカヨコの権力がトップなのには明確な理由がある。高木家の家電製品からお風呂、キッチンのほとんどがなんと女帝カヨコ劇場の産物なのである。つまりはカヨコが男に貢がせた物である。冷蔵庫、洗濯機、ドライヤー、クーラー、パソコン、大型テレビ、ゲーム機。いたるものがカヨコの腕のたまものである。そういえば3週間前の女帝カヨコ劇場で
「私、貴方のために料理の練習したいのにコンロが古くて出来ないの。IHクッキングヒーターがあればよかったのに・・・」
などと言って、コンロまで貢がせたがIHクッキングヒーターが届いて2週間ちょっとでカヨコが台所に立ったのは冷蔵庫を開ける時だけである。そもそもIHが届いた日の設置する瞬間すら台所には立たなかったという猛者である。
男に貢がせてばかりのこんな女なんて軽蔑されるものだが我が高木家でカヨコを悪く言う人間は一人もいない。何故ならカヨコが男に貢がせた全ては”高木家で必要そうなもの”だからだ。冷蔵庫は古くなっていた。ドライヤーは妹たちが大きくなってきて使うようになったから1個では足りなかったため。クーラーは壊れたため。パソコンはいまどきパソコンくらい使えないとねっと俺のために貰ってきてくれた。大型テレビは姉妹のテレビ争いを終わらせるために同時録画機能で何チャンネルかをいっぺんに録画して交代で見れるようにするため。ゲーム機は妹たちのため。っと高木家で使うものばかりを貢がせてきた。カヨコは一度たりともブランドを自分から求めたことはない。それどころかカヨコはカヨコ自身がバイトして稼いだお金でしか自分のものを持たないというプライドがあるらしい。
一度だけカヨコに聞いたことがある。男は貢いで捨てられてカヨコ恨まれてないの?っと。
カヨコいわく「貰うもの貰ったら後は冷たく。それが怨まれない鉄則。あとは会わないようにそれとなく消えること。私の愛は白雪の君だけのものよ」だそうだ。
そういえばふと気が付いた。俺は他のアリス候補を見たことが無い。カヨコの言う白雪の君にあったことがない。同じ校内にいるなら会ってもいいはずだが会わないようにされてるのだろうか?もしかして・・・避けられてる?明日かぐやに聞いてみるか。
次の日登校した俺はいつもの日課である寮にいるかぐやの支度をするついでに寮に全員いるというアリス候補をそれとなく探そうと思っていたらあることに気がついた。俺はこの寮でかぐや以外にあったことがない・・・。
朝のシャワーが終わって髪をワシャワシャ拭いているかぐやに聞いてみた。
「なあかぐや、この寮って人住んでるんだよな?」
「何を言い出すかと思えば。おそらく誰にも会わないのを不思議に思ったのか。安心しろ人はいる。朝練をしているアリス候補を見るために全員朝7時になる前に全員寮から出かけてしまう」
「だからか。かぐやって他のアリス候補みたことあるんだよな」
「同じ寮にいるんだ見たことあるに決まっているだろう」
「俺、一度もないんだけど」
「それは高木が興味が無いから見えているけど認識していないだけだろう」
「・・・?どういう意味だ?まあんーじゃあ、次からは興味を持って見てみるか」
「そこらへんにいるから直ぐに見つかるさ。それにアリス候補は必要になったときに絶対に会える」
かぐやはこんなことを言っていたが、この会話から三日たてど俺は一度も他のアリス候補に会うことがなかった。必要なら会えるといっていたから俺には必要がないということなんだろうな。まあ別段あえなくてもなんの問題もなかったので、もうすぐ夏休みだという考えのほうが大きくなっていき次第に忘れてた時だった。
事件が起きた。
放課後、いつものように喫茶店を開いているとお客さんである生徒達が突然その場でゆっくり眠りについたのである。最初は何かのイベントかドッキリかと思っていたが声をかけても起きる気配もなく。そのうち
「ど、どういうことだ。やっぱりこのメイドインどこかわからないようなお茶が原因か!?」っと軽くパニックになっていると校内放送が流れた。
「ふははは!アリス候補の従者よ。我らは秘密結社グリムドウワ。我らは喫茶店内にいるアリス学園生徒に呪いをかけた。この呪いはいかなる力を持ってしても解くことは出来ない。とくことができるのは真実の愛のキスのみだ。真実の愛など存在しない!だからこの呪いは解けない。苦労するがいい!さらばだ。ふはははは」
などと意味不明なことをぬかされた。
どうしたら・・・。
困っているその時だった。ドアが開いた。俺はこの時焦った。こんな全員寝てるの見られたら集団食中毒とかと勘違いされるんじゃ、いやさっきの放送を聞いてるなら俺のせいじゃないとわかってくれるんじゃ。
そんなことを考えているとドアを開けた主は店に入ってきた。入ってきた人を見て俺は思わず息を飲んだ。身長は180くらいだろうか肩くらいまで伸びた少し茶色がかった髪、透き通った白い肌に整った顔立ち。足もすらっと長く俺は何度も自分の手や足を見てから相手を見てを繰り返して、同じ人間か?っと思った。俺がしばらく言葉を失っていると入ってきたイケメンの後ろから数人の身長の小さな女の子が入ってきた。1、2、3・・7人?そのうちの一人が店を見渡して口をひらいた
「白雪の君さま、なにやらお困りのご様子ですわ」
小さい女の子の発言にイケメンが口を開いた。
「そのようだね。かぐやの従者の方。何をお困りですか?」
はぁ・・・これが白雪の君。この人がかぐやと同じアリス候補の一人。確かに容姿もそうだが、何かこう、口では言い表せないオーラを持っている。
俺はさっきあったことを包み隠さず伝えてみた。そしたら
「真実愛のキスかい?そんなの簡単だよ」
っと、白雪はさらっといってのけた。何が簡単なんなんだろうか。真実の愛ってそんな簡単なのかっと思っていたら白雪が投げキッスを始めた。するとどうしたことだろう。眠っていた生徒が投げキッスを受けると目を覚ましたではないか
「っふ、大丈夫だよ。僕はみんなを平等に真実に愛しているからね。さあ僕のキスで目をおさまし」
白雪が両腕でいたる方向に投げキッスをしながら言った。眠っていた生徒達が片っ端から目を覚まして起きていく。博愛主義者っているっていうけど本当にいたんだ。ん?いやまて、男も目覚めているがこれは?
「っふ、僕の愛に性別なんて関係ないんだよ」
白雪ってバイセクシャルなんだな。まあ・・・人それぞれだ。俺みたいにどっちにも興味ないよりはいいのかもしれない。
起きた生徒達が白雪に群がり始めた。
「白雪の君さまが助けてくださったんですね。ありがとうございます」
「孤独な闇の中で暖かなな光が私をおこしてくれたんです。それが白雪の君さまだったなんて」
おきた生徒たちは口々に白雪に感謝の意を伝えている。伝えている生徒の一部の発言が少し笑ったのが
「このまま闇の中に落ちて静かに消えてしまうんではないかと不安でした」
っとか言ってる生徒。君は豪快ないびきをかいて静かとは程遠かったぞ。
全員が起きた姿を見て俺はほっと胸をなでおろした。
「白雪さん、ありがとうございます」
俺がお礼をいうと白雪は何故か俺をまじまじと見たあと俺の両肩に手を添えて・・・え?キスしようとしてる?
「な、なにしようとしてるんですか!?」
俺は白雪から離れるように後ろに下がった。
「平等にみんなにキスをしようと」
何をいってるんだこの人は!?
「いえ、大丈夫です。間に合ってます」
「そうか、かぐやの君で間に合っているんだね。それは失礼した」
「いやそういう意味ではなくて・・・」
今何かすごい語弊のある言葉をはかれたような・・・。
「まあそれよりも、君も災難だったね。秘密結社グリムドウワに目をつけられるなんて」
「彼らは何者なんですか?」
「彼らはこのアリス学園の闇とも言うべき存在。理由はわからないがアリス候補を目の敵にしているんだ。素性もわからない。このアリス学園が出来て100年、いつのまにか現れたそうだよ。それよりお茶を8人分お願いしたいのだけど大丈夫かな?」
ああ、お客さんで着てくれたのか。
「大丈夫ですよ。立ち飲みになってしまうのですがいいですか?」
っと、俺が言い終えた瞬間喫茶店内の座っていた生徒が
「んまぁ!白雪の君さまがお立ち飲みだなんて、私のお席をお使いくださいませ!」
「いえいえ私のを!」
「僕の席を!」
っと、喫茶店内で座っていたイスのゆずりあいを始めた。白雪はこれに
「僕は平等にみんなを愛しているから誰か一人になんて決められないよ。今日は立って飲むことにするよ」
っと、さらっとすました顔で対応した。この発言を聞いた生徒たちは
「私も立って飲みますわ」
「僕もだ」
「白雪の君さまがお立ちになっているのに座ってるなんてありえませんわ」
っと、全員立ち飲みを始め白雪に群がろうとしていたが、7人の小人が盾になり妨害。俺はといえば、誰が座ろうが立とうが興味なかったのでこのやりとりの間に白雪と7人の小人の分のお茶を入れてきた。
白雪はお茶を飲んで
「うーん、変わった味だ。確かに今までに飲んだことのないものだ。お店が流行るのもわかる気がするよ」
っと言い残して会計を済まして直ぐに出て行ってしまった。その後はなにごとも無かったようにいつもどおりに喫茶店を終わらせて・・・白雪の使ったカップを10万で売って欲しいという生徒に売って喫茶店を閉めた。
夜、かぐやの部屋に行くと妙にかぐやが俺を警戒しているのがわかった。
「なんだよ、何警戒してるんだよ」
かぐやは何かいいにくそうな顔をしながらゆっくり口を開いた。
「高木・・・、ファーストキスはどうだった?」
「あ”あ”!?ファーストキス!?何を言い出すのかと思えばファーストキスとかどういう意味だ!?」
「ほら、今日白雪にあったのだろう。彼はキス魔だ。だから猫にかまれた程度に考えればショックも少なくない」
「してねーよ。だいたいファーストキスならもうとっくの昔にすんでるよ」
自信満々に言ってるけど、相手はカヨコなんだけどな。ちっさいころ人形扱いされてその時にされただけなんだけどな。
「な、なんだと・・・。高木ですらすんでいるいるのか・・・」
「ん?は、はーん。もしかしてお前、まだキスしたことねーのか」
「そ!そんなこと・・・しかけたことはある」
「白雪とか?」
「なわけないだろう」
白雪が真顔で返答した。白雪じゃないってことは確かか。
「じゃあ誰とだよ」
「昔、な。とある人とだ」
俺は驚いた、白雪が始めてみせる表情。優しい柔和な顔。昔のよかった思い出を思い出している人がする表情だった。こいつでもこんな顔するんだ。大切な思い出を根掘り葉掘り聞くものでもないしこの話を切り上げて適当な話をしてる間にかぐやが寝て今日の俺のアリス学園の一日が終わった
次の日、白雪の発言はやっぱり語弊があったようで朝から周りの様子がおかしく、理由は喫茶店内の立て巻きロールと横まきロールのひそひそ会話で分かった。
「今日のはまた格別違う味がしますわ。私の飲んでいる、ロイヤルローズゴールデンシルバーホワイトティーよりもゴージャスに感じますわ」
金なの銀なの?なのに白なのどんなお茶だよ・・・。
「このカップに高木さまの唇が触れていたらかぐやの君さまと・・・」
「「 間接キスですわ~~~~ 」」
間接キスのところだけ二人して声がでかかった。そしてこの発言に喫茶店内にいる俺以外の生徒全員がきゃーっと黄色い声をあげた。
夏休みまであと三日である。