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アリスパニック

世の中は出会いがあるから別れがある。


我が家の玄関先で毎年一回繰り広げられる安っぽい劇が始まった。

「安い映画を見ていた気分、もう終わったの。終了よ。分からないの?」

そう我が家の玄関先で高木家長女20歳イチコが彼氏?それとも元彼になったのか分からないがサダオに言う。

「う、うわああああん」

「貴方のこういうときの泣き顔って最悪」

イチコは片手で払う素振りを見せながらハエでも目の前にいるような顔をしている。

「ごめん・・・ごめんよ」

サダオはイチコに手を伸ばしながら言うがその手はミチコに届かない。

「本当に謝ってるわけじゃない、ただ単に他にいいわけが思いつかないだけでしょう?」

イチコが冷静に分析しながら言う。

「お前だけなんだ、お前だけなんだ」

サダオって毎年このセリフは使っているが他に何かないのか?

「貴方にベストライアー賞をあげる。私にいい人って思わせて好きにまでさせたんだもの。凄いわ」どこからかきっとパクってきたのであろう台詞を明らかに意気揚々とした表情で言っているでイチコを見て思った。その表情には別れるつもりはないけど言ってみたかった台詞が言えたわという満足感があるなっと。

「嘘じゃない、イチコだけを愛している」

サダオが薄っぺらい愛の言葉を使う。多分愛してはいるが浮気は止められないというものなのだろう。

「・・・、貴方のものを持って早く今は消えて」

イチコが無表情で言うと家族全員思った。あ、今の間の取り方は演じきっているなっと。イチコのこの言葉でサダオがその場から口惜しそうに去った。


こうして今日の「サダオとイチコの恋愛劇場」は終わった。多分また来年当たり見れることだろう。劇場が終わると同時に俺らは家の中に入った。


サダオとイチコは中学から付き合って7年。その間にサダオの浮気7回。浮気が発覚する度に我が家の玄関先で別れ劇、母命名「サダオとイチコの恋愛劇場」を繰り広げまた仲直りしてるのでいつのまにか我が家の名物になっていて家にいる全員がベランダから観賞している。


ちなみに我が家ではイチコは駄目男好きということで確定した。


「肉親が恋人と別れたというのに高木の家族は随分冷静なんだな」


かぐやが俺の部屋に入るなり言った。


「そりゃ今回で7回目。7回見れば慣れるさ。毎回どっかの映画や小説から台詞パクってきてそれを毎回自分なりにアレンジして言うんだよ。今回のあれはどこからパクって来たのやら」


今日はかぐやが俺の部屋に泊まりにきていたため1年に1回のイベント「サダオとイチコの恋愛劇場」をかぐやも見れたのである。泊まりにきている理由は学園の寮で事故があったららしく1日だけ寮から出なくてはいけなくなって1日だけなら片道2時間のかぐやの実家に帰るのはめんどくさいから、なら俺のうちに泊まったほうがいいということでそうなった。なお家族には秘密にしてくれとかぐやが言うから友達が泊まりに来たとだけ言ったら


「かぐやの君さまもそのうち、ね?分かるでしょいいたいこと?」


「そうよ、気が利かない弟ね。今まで私達の世話した恩返しってもんが分からないのかね」


「そんなことないわよね?私達が頑張って世話してきた弟ですものきっと私達にいい出会いをくれるわ」


っと、姉妹に口々に恩着せがましく言い続けられた。お前達を世話した記憶はあっても世話された記憶が無いと言いたい。かぐやが秘密にしてくれと言った意味がハッキリと分かった気がする。こいつらにかぐやをあわせることは一生無いと決めた。


「アレンジか、っとするとイチコが言っていた台詞は多分リアーナのtake a bawという歌の歌詞からだろう。なんとなく意味的にあっている台詞だった」


「リアーナってあの世界的に有名な?ミチコも色んなところからパクってくんな。take a bawってどんな曲なんだ?」


まさか7回目は映画や小説ではなくて歌から台詞持ってくるとは・・・、イチコ絶対に別れる気ないのに恋愛劇場のためにネタ作ってたんだな。


「確か失恋ソングだったと記憶してるが、失恋の仕方が裏切られて謝罪されるがもう終わりよバイバイだったはずだ」


「今回のシュチュエーションそのまんまだな。あの劇もいつまで見れるやら。来年には別れてるかもな」


「大丈夫だ、あの手のタイプは分かれない。サダオとイチコの恋愛劇場は死ぬまで続くよ」


かぐやが俺のベッドに座って毛布にくるまりながら言った。


「死ぬまで・・・。ってかお前なに自然に俺のベッド占領してんだ」


「僕が床で寝れると?」


かぐやが当たり前のことを聞くなという口調で俺を直視しながら言う。数秒ほどにらめっこしたが・・・な、なんだろうか、俺が悪いのかと錯覚する。まあどうせ一日だけなら床で寝るか。


「わーったよ、俺が床で寝るよ。そういや、寮の事故っていったい何があったんだ?」


俺も眠たくなってきたな。


「アリスパニックが起きたんだ。今日は月に一度の他校への開放日だったからな。それで他校の生徒が大勢押し寄せて寮を囲ってしまって誰も中に入れなくなったんだ。逃げ回るので久しぶりに疲れた・・・」


かぐやはそこまで言うと寝たらしい。かぐやは寝ると直ぐに分かる。今までしてる呼吸と寝てるときの呼吸が少し違う。寝るとスー、スーっと規則正しい寝息になる。それと静かになる。起きているときはいつも何かをしている。本を読むか、音楽を聴くか、俺とゲームをするか、勉強しているか。とにかく何かをしているので横になって何もしなくなったら直ぐに寝たのだと分かる。


今日は21時より10分早く寝たのか。相当つかれてたんだな。かぐやは21時前後に寝るが疲れていると21時より早くなり、疲れてないと21時より少し遅くなる。遅くなると言っても10分程度だが。そしてかぐやは寝るのが早いだけあって起きるのも早いそうで朝5時には起きるそうだ。


ん?朝5時に起きられても何もすることないのに起こされたら迷惑だな・・・。


そんなことを考えながら俺はここで意識が無くなり、次の朝5時1分に意識が回復する。別の言い方だと起こされたともいう。


「高木、暇だ。それと水が飲みたい。」


かぐやがベッドの上から俺を見下ろしながら言う。


「今何時だよ・・・まだ5時じゃねーか・・・。暇って俺まで起こすなよ俺まで暇になるだろう・・・」


本当に朝5時きっかりに目覚ましもなしに起きたんだな。


「高木、とりあえず水が飲みたい」

そういいながらかぐやは手を伸ばすが部屋に置いてあるわけないだろう。


「はいよ・・・」


俺は返事をしながらまだおききらない体でぼーっと歩きながら台所から水を持ってきてかぐやに手渡してまた床に横になった。


「それじゃおやすみ」


かぐやに背を向けて目を閉じた。すると直ぐにボスッと何か柔らかいものがあたった衝撃を背中に感じた。おそらく枕か。


「んだよ・・・」


俺は背中を向けたまま口だけ動かした。


「暇だ」


「あいにく俺はまた寝るから暇じゃない。お前もまた寝ろ」


「高木、寝すぎは体に悪いぞ。朝のジョギングをしよう!」


ジョギング?あほ抜かせと思いかぐやの言葉に何の応答もしないでいると今度は枕を拾い上げたらしくボスボスっと何度も叩いてくる。そのうち諦めるだろうと思い放置することにしたらずっと叩いてくる。

10秒、20秒・・・30秒。


「あーもうわーったよ。ジョギングすりゃいいんだろ」


俺は諦めて上半身を起こした。普通かまってちゃんをかまってあげると嬉しそうな顔をするものだがかぐやはやっとおきたかやれやれという表情をしている。


「出る前に顔を洗わせてくれ」

かぐやはの整った顔に目やにの一つも見えないが顔を洗う必要あるのかと聞きたい。

「顔だけでいいのか?寝癖直すならシャワー・・・って、お前なんで寝癖ついてねーの」

俺は驚いた。普通寝起きには寝癖というものがあるはずだ。そして髪が長ければ長いほどその寝癖は酷くなるものだ。高木家次女、カヨコが黒ギャル長髪だった時なんて寝起き姿はどこの黒人だよと思うほどのボンバーヘアーだったのにも関わらず何故こいつの髪は寝たまんまの髪型なんだ。


「寝癖はつかない。昔からだ」


「便利な頭だな。それより持ってきた服でジョギングするのいやだったら俺の服貸すけどどうする?」


「それは大丈夫だ。僕は最初からジョギング用を持ってきた。コースは学園までいって帰るでいいかな。僕は学園までついたらそのまま学園の寮に戻る」


おいおい、間違いなくジョギングが目的じゃなくて俺を学園までお供にするのが目的じゃねーかよ。しかも最初からってことは計画的犯行かよ・・・。


まあいいや。することねーし学園まで送ってくか


その後、出かける用意もとい、かぐやを学園まで送る用意が終わった俺達は家を出た。


朝の清清しい空気。雲もほとんどなく明るい日差しが自分を健康にしてくれる気がする。7月中旬ということもあって寒くもなくとても走りやすい気温だ。寒くもないから半そでを着てきてよかった。こんな朝にジョギングするなんていつぶりだろう?


そんな爽やかな気分と爽やかな服装の俺の隣に深々と帽子を被りその帽子の中に長い髪を全ていれてサングラスをかけた上にマスクまでしてる見るからに怪しい姿のかぐや。


「お前、なんでそんな格好してるの」


「気にするないつものスタイルだ」


かぐやの言葉にこの時は、ふーん、いつものスタイルねくらいにしか思わなかった。かぐやは目立つ容姿をしている割に目立つのがあまり得意ではなかったから特段不思議には思わなかった。だが10分後、この格好がどれだけ大切かを身をもってしることになる。


走り始めて10分。


走り始めてわかったことがある。かぐやは長距離を走り慣れている。そして俺は慣れてない。短距離専門なんだ・・・。


「もっとゆっくり走ってくれ。息が・・・死ぬ・・・」


俺はぜぇはぁぜぇはぁと息をしながらかぐやをおいかける。おいかけている時点ですでにジョギングではなく捨てられないように必死になっているサダオのようだと思った。


「仕方ないな」


そう言ってかぐやが止まった時だった突然吹いた突風でかぐやの帽子が飛んで帽子の中に隠していた綺麗な黒髪があらわになった。その瞬間かぐやが


「やばい!」


っと、叫んだ。帽子が飛ぶくらいで何がやばいんだ?っと思ったが後ろのほうから


「きゃあああああああああああああ!!!!!!」


っと、とてつもない甲高い金切り声がした。なんだ事件か!?野次馬根性で声のしたほうを見ると100m先くらいに俺らと同じように朝のジョギングをしていたであろう中学生くらいの少女がいた。その少女は何か神々しいものでも見るような眼差しでこちらをみている。


「かぐやの君さまあああああああああああ!!!!」


そう叫びながら少女はこちらへ向かって猛ダッシュを始めた。なんだかぐやのファンか。っと俺は落ち着いていたがかぐやは違った


「高木!何してる!はやく逃げないと大変なことになる!」


かぐやは俺の手を引っ張りその場を離れようと促すが


「何言ってんだよファンサービスしてやれば?」


俺はそんな悠長なことを言ってからまた少女のほうを振り返ると何故か人影が10人に増えていた。っというより、そこらへんの玄関から寝たままの姿で現れる人影。おいおいおいおいおどんどん増えてってんぞ!


「何悠長なこと言ってる!学園に非難するしかない!」


こうして俺らは先ほどまでの心地よいジョギングが終わり。己の命を燃やし尽くせといわんばかりの全力疾走のサバイバルがはじまった。


「学園に非難って、俺制服どうするんだよ」


「アリス候補の世話役なんだ先生は何も言わないさ」


そういう問題じゃないんだが・・・、俺の私服姿を見られたくないというこのナイーブなハートが問題なんだ・・・っと考えてる途中で横道からいきなり


「かぐやの君さまああああああああ」


先ほどの少女が先回りしたらしく横から突っ込んできた。それをかぐやはひらりとかわした。少女は全力で突っ込んできたらしくかぐやが避けたことで全力でこけた。


「おいあの子大丈夫かよ」


「大丈夫だろう。今までの経験からしてすぐ起き上がる」


本当かよと思って走りながら後ろを振り返ると確かに直ぐに起き上がってまた追ってきた。バイオハザードのゾンビかよ!


っつうか!すでに人が追ってくるという表現では足りない。町内会が追ってくる!そこらへんの家々から


「かぐやの君さまあああああ」


っという雄たけびを発する寝起き連中がどんどん増えていく。


「いったい何が起きてるんだ!」


「アリスパニックだ。アリス候補をハリウッドスターと同じと考えろ。見たい話したい触れたいそんな理由だけで追いかけてくる連中も多い」


「なるほど」


俺らはそれから10分間全力疾走して転んでも転んでも追ってくるゾンビから逃げ切った。


学園に着くと用務員の斉藤さんが門を少しだけ開けててくれて俺らが入ると直ぐに閉めてくれた。


「さ、斉藤さんありがとうございます」


俺がお礼を言うと斉藤さんは穏やかで優しい顔を少しだけニコっとして


「いえいえ、これも仕事ですから。おはようございます。大変でしたね」


っと、顔にあっている優しい口調で返答してくれた。


「それでは私はまだ仕事があるので行きますね」


そういって斉藤さんは去っていった。去ったあと気づいた。何故斉藤さんは俺らが逃げてきていることを知っていたのだろうか?っと。


まあそれより逃げ切れてよかった。


俺は心臓がバクバクいって喉もカラカラだ。それは普段走りなれてるかぐやも同じようで肩で息をしている。


「はぁはぁはぁ・・・、アリス候補が何故全員学校の寮にいるかは理解できたか?学校の外に出れば毎日があんな感じだ。」


「理解した。次からはお前の存在に気づかれたら即座に逃げ道を探す」


「そうしろ。僕は高木には嘘を言わない。今までだって嘘をいったことは無いだろう」


「そうだな・・・嘘を言ったことはないな・・・」


お前は嘘は言ったことはない。だが俺の常識をはるかに超えた真実ばかりだ・・・。


「汗をかいた。シャワーをあびる」


かぐやのこのシャワーを浴びるというのは部屋から着替えとタオルを持って来いという意味だ。最初の時はそれが分からなかったため何も持ってかなかったらかぐやに「脱衣所で凍死するところだった」と細い腕でポコッと軽く殴られた。その割りに体から湯気が出ていたから間違いなくシャワー浴び終わったばかりだろうっと言いたかった。


そんなこんなでまた俺の普通の生活の中で普通でないアリス学園の一日が始まるのであった。

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