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メイドインどこかわからないお茶

俺が産まれたこの世界は普通だ。奇跡も魔法も無いから突然王子様になることもない。生まれ持った能力でこの先が決まる。「努力すれば、頑張れば変わる」そんな世迷言を言う奴もいるが、それを言ってる奴も結局は変わることの出来ない普通の人間だ。天才や会社のトップはこういう。


「元から生まれ持ったものが必要」だと。


この世界は無情だ。友情、絆、信頼。そんなものはほとんどが幻想だ。そもそも助け合うほどのことが起きない限りそれを確かめる術も無いのに何故絆や信頼なんて言葉が使えるのだろうか?だが俺の世界はそんな嘘で塗り固められた人間ばかりだったため、俺が孤立して家族に心配をかけないために周りの嘘に馴染むふりをして自分にも嘘をついてきた。


だがそれももう必要ない。そんな嘘が必要なのは中学生までだ。


俺はもうすぐ高校生。もう愛想を振りまく必要なんてない。


愛想を振りまかなくていい理由は簡単だ。


高校生になれば今までの関係がほぼリセットされる。だから嘘を演じる必要もない。無駄に人に関わる必要もないから、無駄な相槌もいらない。付き合いもしなくていいから無駄な出費もない。卒業まで適当に勉強し、大学に行き後は条件の良い場所に就職し、後の人生は趣味に没頭すればいい。


女なんぞいらない。


こんな考えになったのも全ては家族のせいだろう。父は俺が7歳の時に他界。死因は聞かされていないが父は母と結婚して10年だったそうだ。母が言うには「一秒たりとも愛情を欠かしたことのない人」だそうだ。それは家族構成を見ればなんとなく分かる。父は他界するまでに母との間に1年に1回絶対に子供を生産。1年に一人の割合ならまだ分かるが、双子と三つ子まで生産したツワモノだった。母いわく「一発必中の人だった」らしいがそれを聞かされた時、俺はは心の底からなんてどうでもいいことを聞いてしまった。っと思った。そんなどうでもいい話を俺が聞かされてた理由。ゴムをしろという意味もあるが本当の理由はそれは男が俺一人だからだ。


家族14人いて俺以外全員女なのである。母一人、姉が上に4人、妹が下に8人。


女ばかりで不安だからと中学生の時の門限が18時と過保護と思いきや、単に女同士だとおもちゃにして遊んだら本気の喧嘩になるから俺をおもちゃに遊ぼうということだった。


女どもにおもちゃにされること10年近く。やっと俺は自由を手に入れる。高校に入れば寮がある!そして門限は22時になる!バイトもしてお金をためてこんなところから消えてやる!


そんなことを考えてから早4ヶ月。全ては予定していたことと違う。


まず、寮は母が断固として拒否したため入れなかった。次に人と関わらなくても生きていけると信じた高校生活はかぐやというチビのお守をする事になった。このチビが人気者過ぎたせいで俺は好奇な目で見られ男女関係無くかぐやの事を聞きたい連中に話しかけられまくりだ。世話役なんて断りたかった。だがそれを断ったらこの辺りじゃバイト出来ないと過去の事例を教師が教えてくれた。仕方なく受けたはいいが、好奇な目で見られるのは苦痛だ。


はぁ・・・、この視線さえなければ我侭なこいつの世話も苦じゃないんだが・・・。


あれ?そういやなんでかぐやって俺に世話役打診したんだ?疑問に思ったことはあったが聞いたことがなかったな。


「そういやかぐや、なんで俺に世話役打診したんだ?」


俺は目の前でベッドの上であぐらをかいて半分目を閉じながら小さな口であくびをしている湯上りのかぐやに聞いて見た。


「簡単だ。このアリス学園の中で高木だけが普通だったからだ」


かぐやはもうそろそろ寝る時間だからか目がすでに半分閉じかけている。


「普通なんて沢山いるだろう」


俺は普通に思ったことを言ったつもりだったがかぐやは意外な返答だったらしく閉じかけていた目が大きく開いた。どうやら驚いているらしい。どこに驚くところがあったんだと俺は思った。なにせ俺を普通と位置づけるなら他にも普通は沢山いるはずだが。


「高木、お前他の生徒にまったく興味ないだろう?」


「無い」


俺は即答した。かぐやは何かを納得するような、確かにこいつはそんなものだろうなっと考えているのが分かる表情をした。


「じゃあ分からないだろうがこの学園に入ってくる連中のほとんどはアリス候補に会いたいがためだけに来る。あわよくばアリス候補と何か起きないかと期待までしている。この男子寮を見れば分かるだろうがアリス候補が全員この寮にいるせいでこの寮に入るには多額の寄付金を出したものだけが入れるようになっている。高い金を払っているんだ、何も起きないなら自分で何かを起こすなんて考えてるやつらばかりだ。悪いが俺はノーマルだ。男とは何も起きるきはないが俺のことをたいして知らない女とも何かを起こすつもりもない。とりあえず今は誰とも何かを起こすつもりなんてない」


誰とも何かを起こすつもりはない、か。俺と同じ考えだな。


「なのに、前の世話役は僕に興味がないから平気だと思ったのだが、ある日突然押し倒された。幸いすぐに助けが来たため何事もなく終われた」


かぐやは心底嫌だったことなのか、言い終わると深いため息をついた。俺は何を言えばいいのか分からないため当たり障りない返答をした。


「大変なんだな。俺には分からない世界だ」


俺はかぐやはきっと経験済みなんだろうなと哀れみの眼差しをかぐやに向けながら言った。


「僕にも分からない世界だし、未経験だ」


かぐやは察したようで少し怒り口調で返してきた。

俺はかぐやのこの言葉は意外だった。経験済みだと思っていたから。

かぐやは眠そうだがどこか安心したような表情になったのが分かった。なんでだ?


「高木がそういう世界を分からない人間でよかった・・・」


そう言い放ったままばたっと横に倒れて寝てしまった。突然寝るほど眠いならしゃべってないで寝ればいいのにと思った。俺はベッドに横になったかぐやに毛布をかけて部屋の鍵をかけて帰路についた。


かぐやが寝るのはだいたい21時前後だ。かぐやが寝たのを確認したら俺は家に帰るというのが1週間前から日課になっている。世話役はそんな遅くまで一緒にいなくちゃいけないわけじゃないが、かぐやは一人だと眠れないらしい。だから俺に自分が寝付くまで側にいろとだだをこねた。俺は当然最初断った、21時に帰ったらバイトは出来ないから。そしたらかぐやが寝付くまで一緒にいてくれるなら率のいいバイトを1週間したら教えようというから世話役を承諾した。


そして1週間たった。


かぐやに教えられたバイトは「かぐやの世話役が開く喫茶店」だった。


その時は何言ってんだこいつ頭大丈夫か?っと思ったがかぐやに


「騙されたと思ってやってみろ。もし稼げなかったらその分僕が金を払う」


とまで言われたので例え失敗してもかぐや銀行の跡取りなら自給くらい払ってくれるからとりっぱぐれはないととりあえずやってみることにした。


これが俺のかぐやの世話役になって最初のアリスパニックというものを見ることになった。


アリスパニックとはアリス候補の私物や接触方法を争って集団がパニック状態になることだと後に校内wikiペディアで知った。


喫茶を開くにしてもどうすればいいかわからなかったが全部かぐやが教えてくれた。


場所は先生に言えばタダで貸してもらえるとかぐやが言うから、職員室に貸してくださいと言いに行くと


「私の受け持ってる教室使っていいわ!」


「私の教室のほうが綺麗だから私のところを!!」


「僕の教室は君の学年からも近いから便利だよ!!!」


っと、教師達の自分の教室の押し売り合戦が始まったが俺は最初から決めていた旧校舎の教室を借りた。


喫茶店用の衣装は何が言いかとかぐやに聞くと、裁縫部に言えばタダで作ってもらえるとかぐやが言うので裁縫部にお願いに行くと


「是非私が作ります!!!」


「っちょ、私が作るのよ!!!」


「あんたぬけがけすんじゃないよ!」


「はぁ!?私の台詞よ!!!!」


っと、気づいたら裁縫部31名が口喧嘩を始め自然に治まる様子がなかったため裁縫部の部長が


「じゃあ全員作ればいいわよ!全員1着作れば毎日違うものを着てただけるわよ!」


っと叫んだ。そしたら口喧嘩が収まった。採寸を図ってもらってる間ひっきりなしに


「かぐやの君様のお召し物もいずれ作らせて頂けたら光栄です!」っと言われた。


次の日の朝一で31名全員がそれぞれ自分で作った衣装を持ってきてくれた。

俺は、ワー本当に部長がいったとおり毎日違う衣装が着れるなんて思った。


店の内装はどうしたらいいのかとかぐやに聞くと、インテリア部があるからそこに相談すると全てやってくれるというのでインテリア部に行くと。


「任せてください部員総力を挙げて期待に超えた得てみせます!!!」


っと、50名のとても団結した姿を見れた。


店の内容はどんなのが言いかとかぐやに聞くと、放課後の1時間~2時間ティーパックの緑茶紅茶コーヒーを1杯500円で出すだけでいいだろうとかぐやが言うからその通りにした。


宣伝はどうしたらいいかとかぐやに聞くと、生徒有志の募集と宣伝用の掲示板があるからビラを20枚くらい用意してそこに10分おきに張るだけでいいとかぐやが言ったのでその通りにした。最初何故20枚も必要で10分おきに張らないといけないのかと思ったがその理由は直ぐに分かった。張って10分後にもう一度掲示板に行くと張ったはずのチラシがない。確かに張ったのにと思ったが誰かのイタズラか?っと深く考えずにまた張ってその場を離れると遠くから突然いい争っている声がして野次馬根性で近づいたら


「俺が最初に見つけたんだ!」


「私が先よ!」


「僕は10分前から待ってたんだ!」


っと、男女10名ほどが俺がパソコンで作った文字だけの簡単なチラシを奪い合っていた。そのうち一人がチラシを掴むともうダッシュでその場から逃走。その場にいた他の連中はそいつを追いかけていった。それからまた俺はチラシを張った。そして盗まれるの繰り返しが俺の製作した20枚のチラシがなくなるまで続いた。


その日の18時頃、インテリア部の部長に呼ばれて喫茶店予定の教室に入ると俺は息をのんだ。


黒板が消え去り部屋の出っ張りとかが綺麗にこげ茶いろの木目で覆われ、壁紙がシックなベージュになっていた。天井も全部教室にある見慣れた蛍光灯は全てとっぱらわれていて、壁と同じ壁紙で覆われていた。照明は全て間接照明になっていてとても落ち着きのある淡い光を発していた。テーブルとイスはホテルか?っと思うくらいの厚みのあるものだった。安物ってうっすいイメージだったから俺は直ぐにこれはきっと高いと思った。俺があまりの凄さに呆然としてるとインテリア部全員がどう勘違いしたのか突然土下座を始めて


「急だったからこんなものになってしまったすまない!いや、急だったからなんていいわけにしかならない。いついかなるときどんなお願いをされるかを考えてなかった我々のミスです!」


っと、あやまられた。俺は一瞬あっけにとられて言葉を失ったがすぐに


「あ、頭をあげてください。とてもすばらしくて言葉を失ってただけです」


そう言っても頭をあげないインテリア部。部長にいたっては


「1ヶ月、いやっ1週間下さい。その間にもっと期待に添えるものをご用意いたします!」


1日でこの内装で1週間もあったらどんな内装になるんだろうか?っと俺は本気で思った。


「だ、大丈夫です。この内装だけで本当に十分です」


俺は本音を言っているつもりなんだが何故かインテリア部には違く聞こえるらしくて


「そ、そんな・・・、もう我々は必要ないとおっしゃるんですね・・・。申し訳ございません!!!本当に申し訳ぼざいませんでした!!!!」


っと、インテリア部全員から謝罪の合唱を貰った。俺はもう諦めて彼らが納得する言葉を言った。


「分かりました。1週間後の内装を期待してます」


俺がそういうとインテリア部は全員頭を一度あげてもう一度土下座した


「ありががとうございます。必ずやご期待に沿える物をご用意いたします!」


・・・、これで十分満足なんだが彼らには何が駄目だったんだろうか。


次の日の放課後。


さて、内装もできたし一応宣伝?もしてオープン初日を迎えた。たいした宣伝も出来て無いのに人がくんのかよと思っていた俺は我が目を疑った。


列、列、列。超だの列。ざっとみても200人は超えてる。


俺が開く喫茶店の教室の前から並んでいる。まあ興味本位で見にきただけかもしれないと思ったがオープンと同時に20席全てが埋まり21人目の人達から


「立ち飲みでもいいですから!」っと言われ10名は立ち飲み出来ますというと31名以降の人からは


「お金は倍額払います!入れてください!」


っと、凄い形相で迫られた。倍額という言葉にくらっときたがさすがにもう人をいれると一人あたりのスペースが狭くなってしまうので無理ですと断った。せっかくインテリア部がここまですばらしいつくりにしてくれたのに人が多すぎて見た目が悪くなったら彼らに申し訳ない。


オープンして直ぐはお茶を出すのに忙しかったが30名全員の注文を出し終えると周りの話してる会話が聞こえるようになって笑いそうになったのがいくつかあった。


名前が分からないが特徴だけは覚えている


一つ目。


インテリメガネ君とホスト風のお兄さんの会話


「これはフェズベルの家具ですね。さすがかぐやの君さまの従者の方。これを選ぶなんてすばらしい感性です」


「そうですね、それに内装の照明も配置も計算されてなんて完璧な空間だろうか」


・・・、内装も家具も全部俺何もしてないんですがね。インテリア部の方達ありがとう。貴方達の感性は素晴らしいって俺以外の人も誉めてますよ。


二つ目。


立て巻きロールと横まきロールの会話


「んまぁ、さすがかぐやの君様のおつきの方の紅茶ですわ。今までで飲んだこともない味ですわ」


「きっとわたくしたちが飲んだこともない茶葉を使っておいでですのよ。っは!?もしかしたらかぐやの君様もこれを飲んでらっしゃるのかもしれませんわ!高木様!おかわりお願いしますわ!」


「んまぁ!確かにそうかもしれませんわ!!私ももう一杯お願いしますですわ!」


そりゃ飲んだことなくて当たり前だと思う。お前らどうみても金持ちだろう・・・。30パック100円の100均で買ってきたメイドインどこかもわからないような代物なんて飲んだこと無いだろうに。ちなみに昨日かぐやにこの100均を出したら直ぐに


「100均の味がする。30パックの100円のやつか」っと即座に言った。100均だと分かっただけでも凄いのに30パックのものだと分かったので本当に凄いと思った。


こんな感じで2時間後、閉店するまで最初から最後まで入った30名がずっと教室にいた。


ただ茶を出してるだけで2時間で10万近くも稼げた・・・。なんだいったい何故こんなボッタクリ価格でも人がくるんだ。


その疑問をかぐやに投げて見た。


「高木は先生から教わらなかったのか?」


「なにをだ?」


「アリス候補に嫌われたものはこの学園にはいられないほどのイジメを受けたあげく、この近隣都市ではその者の親戚一同職につくことなどできないと。反対にその逆もしかり。アリス候補に気に入られたものはその絶大な恩恵を受けることが出来る。」


え・・・、先生が教えてくれたことより凄い内容なんだが・・・。


このかぐやの言葉も先生が言っていたアリス候補を断ればここらへんでバイトできないという言葉も、今までの俺なら何冗談言ってんだと思ってただろうが今日みたことを考えたらこれらは嘘じゃないのだと肌身に感じた。


世話役、断らなくてよかった・・・。


「まあ、高木はよかったな」


かぐやの意味不明な言葉。何がよかったんだと聞きたい。俺のサイレントスクール生活とは程遠い学校生活が始まっているんだが。


「僕は優しい。ちょっとやそっとのことでは嫌いにだとならないから安心しろ」


何を安心しろというのだろうか。嫌われたら自分だけじゃなくて家族まで道ずれってどんな呪いだよ。


三日間かぐやとの関係をどうするか喫茶店をやめるべきなのではないかと考えていたら4日後の深夜、母が深刻な顔をして帰宅。理由を聞けば母の勤めていた会社が前からやばかったらしいが不況のあおりを受けてついに倒産したらしい。


「明日から家族14人どうしたら・・・」


そう母が悩んでいる姿を見て三日間悩んだことなんてどうでもよくなって喫茶店をやり続けようと決意した。


いつまで繁盛するかは分からない。明日にでも人はこないかもしれないなんていうことも考えたがそんなことを考えてもこないときはこない、くるときはくる。そんなものだ。


決意してから2ヶ月。喫茶店は今日も大繁盛。


1ヶ月の売り上げが500万を超えた。


かぐやには感謝している。家族14人路頭に迷わずすんだのは彼のおかげだ。


あ、ちなみにオープンから1週間後、喫茶店の内装はインテリア部の総力を挙げたそうでホテルから神殿に変わってた。シックな感じから清浄な感じに。。。

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