表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

下着が無い。

「普通の国の不思議なアリス」


昨日の台風が嘘のように空が青く澄み渡り、心地よい朝の空気を入れるために窓を開けていた時だった。


「無い無い無い無い、無いっ!」


その声はいつもより不機嫌だと直ぐに分かった。おそらくあと数秒でこの彼専用の教室のドアが開き、俺はその声の主の飛び蹴りをくらうだろう。


『バンッ!』


ドアが盛大な音をだし開いた。それと同時に俺は予想していた通り飛び蹴りをくらった。


「高木!僕の下着が無い!」


声の主はシャワー室から浴衣を羽織っただけで走ってきたらしく、長くしなやかな黒髪と白く透き通った肌にところどころ光る場所が見えまだ濡れていることが分かる。おそらく下着がないことが分かった瞬間に更衣室を飛び出し上だけ羽織って走ってきたのだろう。


「たーかーぎー!鍵閉めて行けっていつも言ってるだろう!!!」


自分で閉めろ。っと最初のうちは何度も言ったがいまさら言ったところでこいつは変わらないだろうから俺も変わらないことにしよう。


「俺の役割はお前の世話で防犯じゃない。お前の卒業まで寮とこの教室を綺麗にすることだ」


俺の言葉が気に入らなかったようで目の前の女と見間違う美貌の持ち主はもう一度教室を出て助走をつけて俺に飛び蹴りをしてきた。さっきはそのままジャンプしたから肩にヒットしたが、今度は助走があったからか顔にヒットした。まあどこに当たっても体重がない奴の攻撃。小さな体ゆえにあまり痛くないがよくそんな高くジャンプできるなといつも感心させられる。


「しーたーぎー!」


俺にダメージを食らわせることが出来ないと知り、目の前のお姫マンはそう言いながら子供のようにその場で地団駄を踏んで駄々をこね始めた。お姫マンというのは俺が考えた呼び名で、お姫さまのように我侭だけど男の奴の総称である。俺が知る限りこの学園にはお姫マンは沢山いる。


そのうちの一人がいま目の前にいるかぐやの君と呼ばれるこの学園での俺の主。


主というのは主従関係というわけではない。単に世話係として選ばれただけの話だ。この学園には数名の特別な生徒がいる。その特別な生徒は自分の身の回りの世話をアリス学園の生徒に打診することが出来る。


その特別な生徒の一人が目の前のかぐやの君と呼ばれる2年A組かぐや宗次。身長159cm体重49キロ。膝くらいまで伸びた綺麗な絹のような髪と全てが整ったパーツの顔。初見じゃなくても女と間違う容姿だ。


そんな彼はこの学園で絶大な影響力を持つ。彼の一族は俺が住んでいる地域では社会的にとても絶大で強大な影響力を持ち、俺の住んでいる地域でかぐや銀行の名前を知らないものはいないだろう。だからこそ俺は最初、彼がこの学園で絶大な発言力と決定権を持っているのは彼のバックボーンがあってこそだと思っていた。が、全然違った。


彼のバックボーンより凄い人間がこの学園にはわんさかいた。財閥の御曹司、大手企業の一人息子、娘。俺には無縁の世界に生きる人種の子供がこの学園にはわんさかいたのだ。


なら何故彼にはこの学園で絶大な影響力があったか。


それは彼がこの学園での最大イベントであるアリス選定戦の候補に選ばれたからだ。アリス選定戦の候補はアリス候補と呼ばれる。アリス候補の詳しい内容を調べたことがないが適当な流し読みをした限りではこのアリス学園で3年に一度、たった一人だけ選ばれる言われるミスコンみたいなものだと俺は理解している。


それがどれだけ凄いことなのかは俺には全然理解出来ないが、俺がかぐやの世話をする係りに決まったことを母に言ったときの狂喜乱舞と言えるだけの発狂振りが凄かった。その日、我が家では誰の誕生日でもないのに豪勢な食事と家族全員が家にいるという奇跡が起きた。いつもなら上の姉どもは彼氏とどっかいってしまって、妹達の誕生日にもいないことも多いのにその日だけは全員いた。そして姉達も母同様に狂喜乱舞していた。


その会話の内容を要約すると「自慢できる」かららしい。何故自慢できるのかその時まで知らなかったが、どうやらアリス学園のアリス選定戦は日本でも有名らしい。どう有名かなんて聞かなくても目の前の女共の狂喜乱舞といえるだけの発狂振りでなんとなく察しはついた。女が狂喜乱舞して発狂する理由なんて一つしかない。


アイドル、偶像崇拝、妄想。つまりは願望が目の前に来たときだ。アリス候補には男しか選ばれない。しかも美男子ばかり。だから女達が何かを妄想するにはもってこいなイベントなのだろう。母にいたっては


「求められたら迷わずいっていいから!お母さん許すから!」


っと言い、それに同調する姉と妹達。ホモネタを期待している目の前の連中には悪いが俺は興味がない。だから求められても迷わず断るだろう。そんなことを考えているとは知らない目の前の姉達はかぐやの情報を色々聞いてきたがこの時はまだかぐやという存在をしったばかりで何も言えなかったが、世話を始めて2ヶ月した今、目の前で下着と叫びながら泣く子供の姿を教えてもいいものかと躊躇している。


目の前で泣き続けてるかぐやに俺は下着を盗む奴の気がしれないと思いながらかぐやに話しかけた。


「下着っつったってどうせ寝る前にはいてたやつもってかれただけだろう?新しいのあっただろう?」


「どっちも持ってかれた」


「・・・」


俺は無言にならざるえなかった。2枚か。かぐやの住んでいる寮って男子寮で女子生徒は入れないからだから盗んだ相手は男子生徒ということになるな・・・。


ん?ってことは・・・。俺はこの時気づいた。


「お前ノーパンかよ」


かぐやが大泣きを始めた。言い方が悪かったかもしれない。


俺は仕方ねーなと思いながらかぐや専用の教室を出て併設されている寮のかぐやの部屋に走っていき合鍵で部屋に入りボクサーパンツを握って走って戻ってきた。


「おら、持ってきたからこれで泣き止め」


この発言の何がいけなかったのか、かぐやが


「そういう問題じゃない!!!」


っと、怒り口調で言い返してきた。何故怒り口調なのかが分からない。


どう問題が違うのかが理解出来ない。これは多分俺が下着を盗まれたことがないからだ。つまり下着を盗まれた場合を想定すればいいのだろう。そう思い自分が下着を盗まれた場合を想定した結果、そうか下着が盗まれるということは新たに買いなおさないといけない。つまり手間がかかるのがいやってことか?


「今度下着買ってきてやるから泣き止めよ」


「だからそういう問題じゃない!!!!」


今度は完全にキレタ口調で言い返された。本当に何がいけなかったのかが分からないんだが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ