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四人 目

作者: 稲見晶

——それで、クラコさんに捕まったら、その人が次のクラコさんになってずっとグラウンドにいないといけないんだって——


 おしまいなの? じゃあ懐中電灯をひとつ消して——。

 じゃあ、今度はあたしの番。最後を飾るなんて荷が重いし、4番目くらいがちょうどいいかなって。


 ねえ、とつぜんだけど、みんな、幽霊って信じる?


 なんだかどう答えていいかわからないって感じの顔ね。こうして百物語みたいなことをしてるんだから、みんな信じてるのかと思ったけど。あ、それとも、信じてないからできるのかな。全部のろうそく……、今は懐中電灯だけど、とにかくそれが消えたときに何か起こるっていうもんね。

 そんなこと言ってないで早く話せって? もう先生の見回りも済んだし、ちょっとくらいゆっくりしてもいいじゃない。……うん、じゃあ続けるね。

 4人とも信じてないみたいだけど、あたしは幽霊信じてるんだ。だって、見えるんだもん。

 今から話すのは、幽霊が見えるようになったときの話。


 いつだったかな、もう2年か3年くらい前かな。ピアノかおつかいの帰りか、もう忘れちゃったけど、夕方に家に向かって歩いてたの。そう、今ごろの、夏と秋の境目くらい。

 それでね、道ばたで男の子がひとりで遊んでたの。まだ幼稚園とかそのくらいの、本当にちっちゃい子。夕方だからもう6時は過ぎてるし、車も通る細い道だからあぶないなって思ったのは覚えてるよ。そんな感じでその子を見てたら、向こうもあたしに気づいたみたいで、「おねえちゃん、あそぼうよ」って声をかけてきたの。

 早く帰りたかったけどしょうがないから「もう遅いから帰ったほうがいいよ。おうちの人は?」って聞いてみたんだ。そうしたら「おかあさん、おしごとだもん」ってほんとうにさびしそうな、泣きそうな顔になっちゃって。こんなちっちゃい子がひとりでいるのもなって思って、「じゃあちょっとだけいっしょに遊ぼう」って答えたの。

 ランドセルからじゆうちょうを出してお絵描きしてたのは覚えてるよ。その子はボールを持ってたけど、暗いし道路だったから使わなかったな。


 それで、どういうタイミングだったかな……。とつぜんその子が「おねえちゃん、ゆうれいってしんじる?」って聞いてきたの。いきなりでびっくりして、「ゆうれい?」って聞き返しちゃった。

 でもその子はすっごくまじめな顔で「うん」って。正直、なんて答えたらいいかわからないし、「どうだろうねー」ってちょっと笑ってごまかしたの。そうしたら、「あのね、ゆうれいってホントにいるんだよ。ぼく見えるもん」って言われたのね。

「そうなんだ」って言ったら、むっとした顔されちゃって。その子の言葉も幽霊も信じてなかったの、伝わったのかな。

 それでね、その子が怒った顔で「ホントに見えるんだよ。だって、ほら、あっちにもいる!」ってあたしの後ろを指さすの。その勢いに思わず振り返ったけど、だれもいなかった。うん、いつもの様子となにも変わらなくて。

 だから「なんにも見えないよ」って言いながらその子の方を振り返ったんだけどね……。

 だれもいなかったの。

 向こうを見てたのなんてほんの一瞬なのに、男の子がいなくなってた。

 ゾクッとしてその子がどこかに隠れてないか探したらね、見つけたの。……ううん、男の子じゃなくて、道の角のところに、花束が。

 ボール遊びしてて事故にあったんだって。

 ……それが、あたしが初めて見た幽霊。


 うん、見えるようになったのはそれから。

 ……そういえば、今この「自然の家」の中で何人くらいが怖い話してるんだろうね。30人のクラスが6つに分かれて、それが2クラス分。怖い話をしてると霊が集まるっていうし、この部屋の外にもいっぱいいるかもね。

 え? うん、この部屋にもいるよ。ほら、あっちの窓のそばに……。



 ——なあんだ、何もいないじゃ……

 窓から視線を戻した少女のことばはそこで切れた。

 つい数秒前まで淡々とした口調で怪談を語っていたはずの「彼女」の姿は、元から存在しないもののように、消え失せていた。

 4人の少女が顔を見合わせる間もなく、最後の懐中電灯が光を失い、鈍い音で倒れた。

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