私の私による私のための話2
ドスドスと荒い足音を立てて廊下を進む。向かう先はうちの部隊が使っている訓練場だ。
目的の場所にたどり着くと訓練用の鉄の棒をひっつかみ、石で出来た人型の的へと歩く。私の姿を見た隊員達がギョッとした顔をして道をあけるが今は気にしない。
的の前に立つと棒を思い切り振りかぶり人型を叩く。
叩いて叩いて叩きまくり無心で体を動かし続ける。次第に力に負けた石が砕け的はどんどん小さくなっていった。
欠片さえも親の仇とばかりに砕きほぼ砂の山となった所でようやく動きを止める。
あー、スッキリした。
「なんだ、また第1のやつらに何か言われたのか?」
イケメンヴォイスに振り向くと、そこには仕方ないなと言いたげな表情をしたうちの隊長が立っていた。
「トロールその2が突っかかってきたんですよ、顔面に拳をぶち込まなかった事を誉めて欲しいですね」
「ああ、あいつか。婚約者がお前に夢中だからなぁ…」
「全く、これっぽっちも嬉しくありません」
「だろうな。だがまぁ、あれだ、無視出来ない実力の持ち主だからこその、てやつだろ。オレも頼りにしている」
そう言って私の背中をバシバシ叩き爽やかに去って行く隊長。
(私的に)面の造形やらはともかく相変わらず男前な人だ。
この世界、美醜こそ逆転しているが性格の良し悪しは前の世界と似ている。
声もそうだ。この世界基準で顔は悪いがあまりの美声に歌姫、なんて呼ばれる人も居る。
つくづく私にとっては残念な世界だと思う。
さてと、ストレスも解消した事だしご飯でも食べに行こう。
訓練場を出ると右の後ろに人の気配を強く感じた。それは常に私の側に居てくれて、私が安心する癒し。
彼は人目があるからと、頭から足首まで真っ黒なローブをはおり顔には目の場所にだけ穴の空いた真っ白な仮面を被っている。
部屋についたらまずは顔を見せて貰おう、そう思いながら私は足を進めた。
二人の背中を見送りながら、あいつ曰わくトロールその2…第1の貴族に深い溜め息を吐く。
うちの部隊は平民から貴族まで身分を問わない完全実力主義だが、第1は貴族の集まりだからな。平民ってだけで見下す胸くそ悪い連中だ。
平民だ何だと蔑む時間を婚約者の為や訓練にでも使えばいいものを…。
…まぁ、シアンを妬みたくなる気持ちは分からなくもない。
平民の出ではあるがオーガの中でも特に美しく実力もある、本人は脳筋だなどと言っているが書類仕事も出来る。女子供には優しいし仲間を大切にしているから隊員のみならず使用人からも町の人からも信頼され人気だ、時には人間なんて害獣に慈悲を与えもする。かと思えば敵に容赦はなく、戦場での圧倒的なまでの無慈悲さから死神なんて呼ばれるくらいだ。
あいつがいっそ見事なまでのブサイク好きでなければオレのものにし…、…悪寒が…あれか?あの側にいる半獣か?
可哀想な程顔面が崩れているために仮面を被っている、らしい。あまりにも哀れだと殺処分一歩手前で拾ったとシアンが言っていた。
「たーいちょー!稽古つけて下さいよー!」
部下の声にハッとしその方に顔を向ける。
随分と長く考え込んでいたらしい。
早く部下の元へと行かなくては。