この世界で
今回の作品は、「主人公が転生する直前」という感じで書いてみました(もちろん短編です)。
お楽しみ下さい
「ここは……何処」
目が覚めたとき、自分が何処にいるのか判らなかった。
辺り一面「白」という清潔感あふれる色で統一された壁、天井、床。
一目見て自分がどこか知らない部屋の中に居るのだろうと考えられた。
しかし自分は昨夜、最近暑くなってきたという理由で半袖半ズボンの格好で、自分の部屋のベットに入って寝ていたはずだ。
自分の部屋は、今居る部屋と違っていたはず。
床は青を基準とした絨毯を敷き、壁は少し黒に近い灰色をしており、天井は丸い照明器具の付いた水色をしていたはずなのに……。
どうして自分はこの部屋に居るのか、考えられる話としては……拉致か。
いや、お金持ちではない庶民生まれの自分を攫ったとしても、大金が入るわけでもないし意味はないだろう…………というよりも、そうだと信じたい。
別の考えとして、誘拐する人を間違ったという可能性もある。
まぁ、今この状況で考えたとしても何の解決にもならないとわかっているが……。
「おいしょっと」
寝ていてもこの状況に変化が訪れる訳でもない、ならば自らが行動をおこすことによって状況への変化を与えてみてはどうだろうか。という考えの下起き上がってみる。
今頃気づいたが、こんな何も知らない部屋に閉じ込められたような状況になっているのに、全く焦っていない。寧ろ、面白そうだと考えてしまう自分がいるのを感じる。
実はこういった、「知らないうちにどこか別の場所に来ていた」という状況を一度は体験してみたい、などと子供のころから思っていたりもしていた。
そのことは、まぁ頭の片隅に置いとくとして……。
起き上がって最初に目に入ってきたのが、扉もなければ窓もないただの白い壁が四枚。
まるでこちらを囲うかのように聳え立っている。
高さは大体三階建て校舎ぐらいかそれ以上、目が痛くなるほどの白さで触るとひんやりと冷たく気持ちいい……素材はなだろうか。
ここも、自分が暮らしていた部屋との違い。
自分が寝ていたのは壁の近くということもあり、簡単に部屋の全てを見渡すことが出来た。
「……何もない部屋だな」
まず第一声がこれである。
そして自分が暮らしていた部屋との大きな違い……それは、部屋の広さ。
自分が目覚めた部屋は高校の体育館並みの広さを誇っており、これを部屋?と言っていいのか疑問ではあるが、ここでは部屋と表現しておく。
その体育館並みの広さを有する部屋の癖に、スポーツ用品……例えばバスケットゴールやバレーをするためのネット等が置かれていない。
何もない部屋。
体育館並みの広さで、運動器具が置かれていないのはまだいい。そもそも体育館みたいだという表現なのだから、器具が置かれていないのは当たり前である。
そしてこれから先、もしここで生活するようなことになればどうすればいいのだろうか。
食事は、トイレは、風呂は……。
生活用品が何もないというのは、捨て置いていい事なのだろうか。
いや、違うと言いたい。寧ろ、「そうじゃないだろー!!」と叫びたい気分である。
叫んだところで、誰も返事をしてくれないと思うが……。
※※※※※※
この部屋で目覚めてから部屋の特徴を調べて、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
窓も付いてないのに部屋の中には暖かな太陽の光が差し込み、光が当たらない箇所は日陰まで出来ている。
全く以って不思議すぎる部屋だ。
そんなことを考えていたからだろうか、自分のすぐ横に赤く発光している存在がいるのに気づくのが少し遅れた。
「………」
「………」
その存在は二十歳前後の男性の身長、顔は不可もなく可もないといった平均的な顔立ち、体に纏っているのは神様がよく着ているような衣の赤版。
残念ながら衣を纏っているために、彼の体型が痩せているのか膨よかなのかは判断できない。
彼の特徴らしい特徴となると、彼の体から出ているであろう神々しい赤い光。
「始めまして……になるかな」
「……はい」
挨拶もせずに初対面の人間?を嘗め回すように見ていたのがいけなかったのだろうか。
彼のほうからこちらに挨拶をしてきた。
「まぁそんなに緊張しなくてもいいよ。何せ僕は代理人のようなものだからね」
「代理人……ですか」
「そうそう、代理人」
そう言うと彼は、こちらに背を向けて歩き始めた。
この何もない空間で何処に行こうとしているのだろうか。
疑問に思うところはあるけれど、彼の背中から「僕に付いてくれば分かるよ」と語っているような気がしたので、何も言わずに彼の後に続いて歩き出す。
「着いた……ここだよ」
「ここだよ……と言われましても」
彼に付いて行くこと数分、目の前には白い聳え立つ壁。
その壁にはこれといった装飾、取っ手類などはついておらず。また仕掛けの類も見当たらないただの壁……。
先程までと何も変わっていないこの状況に、ジト目で目の前の人物を見る。
「そんな目で見ないでくれ。大丈夫だから」
「大丈夫だから」と言われても簡単に「はい、そうですか」と言える訳無い。
彼はこちらを心配させまいと笑って「大丈夫」と言っているようだが、何処となく胡散臭い感じがする。
自分についてそんな事を思われてるとも知らない彼はというと。
白い壁の前で腕組をし、うんうん頷きながら壁を真剣に見ている。
その姿は、傍から見ると壁に恋して已まない成人男性。
という面白い図が出来ており、思わず笑いそうになってしまった。
「あった、ここ。キミも見ておいた方がいいよ」
「……何をですか」
「絶景!」
そういって彼が手招きしている方へ行く。
その時、彼はこちらを見てまたあの胡散臭そうな笑みを見せたが、敢えてスルーしておいた。
何の絶景なのだろうか……という疑問はあったが、白色以外の色(目の前の男除く)が見れるかもしれないと思うと、テンションがかなり上がる。
しかしそんなことは顔には出さず、心の中だけでフィバーしとこうと思います。
初対面の彼に変な子という評価を貰いたくない、子供じみた思いです。
内心では彼のことを胡散臭いと言っていますが………。
そんなことよりも、彼の言う「絶景」とは何なのか。
「す、凄い……」
「でしょ」
場所を代わって見せてもらった先には、白い壁に長方形の窓がいつの間にか設置されており、そこからこの場所とは違う光景が見れるようになっていた。
「いつの間に設置されたのだろうか、さっきまで白い壁だったのに……」という疑問が頭に浮かんだが、そんな事など忘れてしまうほどの美しい景色が目に入ってくる。
緑の美しい葉を風に乗せて揺らす木々、青く澄んだ色をしている広大な湖、平地や丘には綺麗な色とりどりの花が咲き、まるで夢を見ているかのような幻想的な世界が広がっていた。
「凄いでしょ。この世界は」
「はい」
彼の言葉に肯定の意を籠めて言葉を返す。
今この窓から見た世界は、この空間の外の世界なのだろうか……。
日中を照らす太陽があり、今は薄っすらとしか見えないが闇夜を照らす月がある。
自分が今立っている場所とは違う外の世界。
「どう……あの世界の中に行ってみたい」
隣に立って一緒に窓を覗いている彼が、耳元にそっと囁いてくる。
「はい……行ってみたい。いや、行きたいです」
窓から視線を外し、彼の目を見ながら「此処とは違う、あの場所に行きたい」と言う。
「そうかい」という言葉と共に彼は、窓の隣にいつの間にか出現していた扉の前に立つ。
そして彼はこちらを見ながら。
「君が選んだ選択は面白くなるといいね。ここからが本当に大変なんだ……色々と決めなくてはいけないからね」
そう言って扉を潜って行った。
自分も彼に続くように扉を潜り、そこで意識を失った。
お読みいただきありがとうございました。
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