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拘束されても慌てずに接しましょう

 春の暖かな日差し、小鳥の優しいさえずり、さまざまな花の甘い香り。

 そして、ジャラジャラと音をたてる金属音。


「おはよう、大翔くん」


 ぼんやりした意識の中ゆっくり目をあけると、春だというのに向日葵のような笑顔を向ける僕の彼女、坂下心愛がいた。

 もう一度言わせてもらおう、僕の彼女だ!


 僕の名前は青木大翔、私立の高校に通う高校二年生だ。

 僕なんかの自己紹介は後でもできるので、今は状況を整理しよう。


 朝起きると手足を手錠で拘束され、馬乗りになった彼女が笑顔で「おはよう」と言ってくれた。

 ………なんだ、ここは天国か?


 とはいえ、流石にずっと拘束されてる訳にもいかない。彼女に手錠を外してもらわないと。


「心愛さん心愛さん」

「なぁに、大翔くん?」


「トイレ行きたいです」

「大丈夫よ、オムツ用意したから」


「朝御飯、食べたいなー」

「私が、あーんしてあげるね」


「お風呂入りたいなー」

「体、拭いてあげるね」


 くそぅ、外れる気配が全くない!

 このままじゃ学校に遅刻してしまうじゃないか!


「心愛さん心愛さん」

「ふふ、なぁに大翔くん?」


「学校に遅刻しちゃうから、手錠外してほしいなー」

「大翔くんはあんなとこ行かなくていいの 」


 心愛さんが僕の頬に触れ、何度も撫でる。


「女だらけのとこになんか行かせてあげない」

「でも僕、皆勤賞狙ってるんだ!」


「……大翔くんは、私より皆勤賞の方が大切なの?」


 綺麗な心愛さんのな瞳が潤んでいく。

 すまない、皆勤賞。僕には君より大切なものがあるんだ…。


「そんなわけない、心愛さんの方が大切だよ!」

「本当に…?」


「神に誓わせて頂きます」

「っ…大翔くん!」


 ムニュ、っと二つの柔らかい感触が僕の顔を包む。

 うん、僕このまま拘束されたままでいい。


「それにしてもこの手錠、玩具にしてはよくできてるね」

「玩具じゃないよ?」


「………え?」

「これ、本物だよ」


 ダラダラと嫌な汗が流れる。

 あれ、今日こんなに暑かったっけ?


「な、なんで心愛さんが持ってるの?」

「ふふ…ふふふ、知りたい?」


 さっきの向日葵のような笑顔とは違い、影のある笑みを浮かべる心愛さん。

 これ、絶対聞いちゃダメだよね。


 しかし、これじゃあますます手錠を外してもらわないと大変なことになる。

 本物の手錠を持ってる心愛さんなら他にも何か持ってるかもしれない。


 さて、ここで重要なのは心愛さんに対する接し方だ。

 接し方を間違えれば永遠に拘束されたままだろう。

 とりあえず全力で心愛さんを褒めてご機嫌をとらねば。


「心愛さん、今日もすごく綺麗だね」

「き、急になに言うのよ大翔くん!」


 僕の思いがけない言葉に顔を真っ赤にする心愛さん。………天使だ。


「本当に綺麗だよ!僕、心愛さんを見てるだけでドキドキが止まらないんだ!」

「大翔くん…………」


 よしいける!もうちょっとだ!


「他の女子なんか比べものにならないよ!」

「他の女子……?」


 心愛さんの瞳から光が消える。

 あ、あれ…なんか急に寒気が…。


「大翔くん、私を他の女と私を比べてるの?」

「い、いや…えっと…」


「それってつまり、他の女のことも考えてるってことだよね?」


 体がガタガタと震える。

 接し方間違えたぁぁぁぁぁ!!


「酷い…酷いよ大翔くん!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


「私は大翔くんのことしか考えてないのに!なのに、大翔くんは…」

「僕も心愛さんのことしか考えてません!」


「なら、証明してよ」

「え?」


「私にキスしてよ」

「それはむしろご褒美です!」


「ご褒美?」

「い、いや…じゃあキスするので先ずは手錠外してもらえますか?」


「うん、ちょっと待っててね」


 あっ、外してくれるんだ…。

 全部の手錠を外し終えると、心愛さんは目を閉じる。


 普通のラブコメなら、こんな理由でキスなんてしないだろう。

 でも僕らにはこれが普通で、仕方ないことなんだ。


 僕の彼女、坂下心愛は歪んだ愛を持つ『ヤンデレ』なのだから。





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