《03》血鎖の妃
血鎖の妃。
それは、かつての私の通り名である。
小さな村の村長の娘として生まれ、自分のやりたいことは何もできずに、ただ親に敷かれたレールを歩むだけの人生を変えたのは、私の姉だった。
虚弱体質だった姉は、親にとって邪魔な存在だったことから、その存在を村から消されていた。
そして、私が生まれると、親たちは手を叩いて喜び、生まれた瞬間から婚約相手を決めていたらしい。
姉は私と違って、とても綺麗なミルクティー色のふわふわとした髪を肩にかけていた。
私とは大違い。
私は、姉の全てが羨ましかった。
ないものねだりだと言うのだろうか。病弱だというのに、一切苦しそうな顔を見せない気丈さ。
外に出ることがないため、紫外線を浴びずに成長した、真っ白な肌。
そして、私とは違い、やわらかな頬笑みを見せる。
何もかもが、私には羨ましいものだった。
私は、姉のように綺麗じゃない。
ばさばさに伸びた赤毛を無造作に縛り、少し黒く焼けた肌。
目つきは細く、睨んでいるようだ、一度そんなことを言われたことがある。
「……いけないわね…つい、昔に浸ってしまう」
そう。私は血鎖の妃。姉そのもの。
姉の顔をした殺人鬼、それが私。
もう、姉はいないのだから。
もう、怯えることなんてないのに。
怖いことなんて、あの日から無くなったハズ、なのに。
血を全身に浴び、父親を喰らっていた―――姉さんは…!!!
『お帰りなさい。……貴女も、食べる?』
『…………………………っ!!!!!!!!!』
口周りを血でべたべたに濡らした姉は、クスクスと笑い、父だった左腕を差し出してきた。
太くも動かなくなった腕を見て、私は絶叫した。
『いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!』
私は、台所の包丁を握り締め、叫んだまま、姉の頭に振り下ろした。
そして、私は新たな人生を歩み出した。
姉の顔をかぶり、姉そのものになり。
そうやって何度も死体の山を作った。
私はもう、レールの上を歩くことはない。
レールを敷いていた親は、もういない。だって、姉さんが殺したんですもの。
その姉を殺したのは、私。
姉はもう、この世には存在しない。
なのに………………何故。
「あーっ、そぉーっ、びぃーっ、まぁーっ、しょぉー」
「…………ヒイロ、ちゃん」
「…………破壊姫……姉さん!!!!!」




