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すっきりしない人

作者: mw

「好きな人ができた」と伝えると思いきり平手打ちを食らった。

鬼の形相とはああいう顔を言うのだろう。

「認めない」と言って僕の襟首につかみかかってきた。

齢30にして、まさか女に襟首をつかまれるとは。

中学生の頃、ゲームセンターでカツアゲされたとき以来のことか。

女にとなるともちろん初めてのことだ。


「やったのか?」と問い詰められて僕は嘘をついた。

9年間一緒に過ごしてきたが、

僕は一度も彼女以外の女とはしていないことになっている。

とはいえ、彼女とはずっと前から恋人同士ではないから、

本来ならそこで嘘をつく必要もないし、ましてや打たれるいわれもない。

一緒に住んではいるものの、彼女からは「同棲ではなくシェアだ」といわれている。


冷え切っている関係だとはわかっていたが、

求職中でお金に困っているというから、一人暮らし用の部屋に無理やり住まわせた。

この機会によりを戻そうという気もないではなかった。

広い部屋ではないから、距離は近くなるし、以前は愛し合った仲だ。

ごく自然な形で“いたす”こともなくはない。

それでも彼女は「同棲ではなくシェアだ」という。


そんな彼女に対する当てつけという気持ちもあって、

僕は軽い気持ちで最近知り合いになった祐子という女と夜を共にした。

自分は女を口説くのが決して得意なほうではないが、

祐子に関しては 驚くほど滑らかにことが運んだ。

思えば うちに居候している彼女とも最初はスムーズだった。

自分はモテるタイプではないが、自分に合う女を見つける嗅覚は優れているようだ。


祐子とは、最初のデート以来、何度か会う約束をし、

そのたびに最後はホテルでまぐわった。

これまで味わったことのない快感。

回を重ねるごとにそれは増していくのだった。

祐子を好きだと感じるようになったのは そんな相性の良さも影響している。


思えば恋人同士ほど曖昧な関係もなかろう。

高校生の頃までは「付き合ってください」「わかりました」というプロセスを経て、

お付き合いという関係が成り立っていったものだが、

大人になってみて、あれは心身未熟な少年少女が

大人の“フリ”をするための儀式だったのだとわかる。


曖昧だからこそ、祐子ともいたせるし、居候ともシェアできる。

「同棲ではなくシェアだ」という彼女にさえ、

僕に「好きな人ができた」ことを「認めない」といわしめることもできるのだ。


しかし、祐子と正しく“付き合う”ためには

居候には出ていってもらわなければならない。

「あなたの心変わりのせいで、私が家を探すなんて納得できない」と居候は言う。

それならば僕はシェアしかしていないあなたにとやかく言われることに納得できない。

食いつかれるごとに心は離れていく。


家のことは思った以上に交渉が難航し、

無理やり居候を実家に帰すのには三カ月の時が必要だった。

三カ月のうちに祐子は愛想を尽かして消えていった。

曖昧なものは全てなくなった。

なのに僕はなんだかスッキリとしないでいる。


毎日の暮らしのなかで感じることやらを極めて短い物語に託してみようと思いました。

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