一章4話 勉強中
この学生寮、フライハイトには寮生が私達を含めて6人しかいない、私、イズミ君、他は男の子が二人女の子が2人、後は寮監を勤めるカームさんの奥さん(フラム ベーチェルさん)が居るくらいかな。
文字の勉強を終え、フライハイトに戻って来た私たちは食堂で用意された夕食を摂っていた。
食堂はそれなりに広くフラムさんの料理も申し分無いんだけど、寮生が皆揃っている食卓でも少し寂しい気がするわね。
寮生やフラムさんには私たちの事情を虚実を混ぜて説明している、異世界から来たなんて言う訳にもいかないから仕方ないとはいえ、フラムさん達に嘘を付かないといけないのは少し気分が悪い。
「ねぇ?転入生の2人はもう専行は決まっているの?」
寮生の1人、カーム先生やフラムさんの娘、アリア ベーチェルが訊ねて来る、この子気さくでいい子なんだけど何処か悪戯っ子の雰囲気があるのよね、ここの寮生は皆、17歳、私たちの1つ下らしい、最初はアリアさんと呼んだんだけど、アリアでいいと一蹴されたのでそう呼んでいる。
専行学科か~どうしようかな?私は弓使いだから戦士科か盗賊科なんだろうけど、あえて魔法科に行くっていうのも手よね・・・
イズミ君の借りてきた本(基礎魔法書)を見て試し、私もイズミ君も魔法が使える事は分かっている、どんな魔法と相性が良いのかはまだ調べている所なんだけどね。
「僕は魔法科にするつもりだよ、正直肉弾戦なんて自信無いし・・・」
あれ?試した結果、イズミ君って攻撃魔法とか全然駄目だった筈、それなのに魔法科で大丈夫なのかな?
「攻撃魔法じゃなくてもやりようは有ると思うよ、まぁ、攻撃魔法もまったく使えない訳じゃないしね」
そっか、それじゃぁ私も魔法科にしておこうかな、弓術だけじゃ攻撃の通らない魔物も居るだろうし、他の武器を今から習得するのも無理がありそうだしね。
「私も魔法科かな・・・」
「そっか、仲間が増えるかと思ったんだけどそう都合良くもいかないかぁ」
他の寮生は皆戦士科でアリアだけ盗賊科、急な転入生に期待した物の、その期待も外れに終わったって事みたい。
「魔法科ってことは2人とも魔法使いなのか?」
食事の手を止め質問してきた彼はジーン ウォーティア、ここの寮生の男の子の1人で戦士科の1年、特殊な武器を使う戦士としか聞いていないけど、ここの寮生の中では一番戦闘向きだと聞いた。
「魔法なんて使ったの今日が初めてだよ」
「私もそうね、弓の扱いなら多少は心得てるけど、魔法は今日が始めてね」
「「「・・・・・・・・・」」」
なんだか沈黙が痛い、何言ってるんだこいつ等みたいな雰囲気は止めてほしいなぁ・・・
「トモカ~、弓使いなら一緒に盗賊科やろうよ~」
「ごめんね、イズミ君を放って置く訳にも行かないのよ」
「僕の事なら気にしなくて良いんだけど・・・」
まぁ、そう言われても、私はイズミ君を巻き込んだ責任はちゃんと取らないといけないと思ってるから、彼を守るために側に居るつもりなんだけどね。
「イズミは魔法の他に何か出来ないのか?」
「出来ないね、今1人で魔物と出合ったら確実に死ぬ自信があるよ」
そんな自身持たれても困るんだけど・・・ま、私が守るから問題ないか!
「にしてもどんな魔法が僕に合ってるんだろうね?」
「色々試したのか?」
「うん、これ、基礎魔法書に書いてあるのはひと通り試したけど駄目だね・・・」
基礎魔法書の中に書かれていた魔法は基本の各属性魔法、治癒や浄化の神聖魔法ぐらいだったけどイズミ君はどれもまともに発動しなかったんだよね、ちなみに私は攻撃系は普通に使えた。私の弓術ほどの威力が出なかったから微妙だけど・・・
「ま、明日も図書室に行って色々調べてみるよ」
私は引き続き文字の勉強・・・悠にぃを探しに行くのはまだまだ先になりそうね。
翌日、文字の勉強を終えて、イズミ君を探し寮へと戻る、図書館に寄ってみたけど居なかったから、多分昨日と同じように寮の裏庭で魔法を試しているのだろう。
ここの寮は冒険者の訓練用にか、庭などは結構な広さがあるのよね。
私が裏庭に着くと岩の巨人同士が殴り合っていた。
「え?!」
思わず弓に手をかけ臨戦態勢に入る、何でこんな所に魔物が居るの?それにイズミ君は?
「トモカさん?お帰り、今日の勉強は終わったんだね」
と、心配していたイズミ君が何食わぬ顔で隣にやってきた。
「ただいま、イズミ君、あれは何?」
「色々魔法を調べてみたんだけどなかなか上手くいくのがなくてね、
もう一度属性魔法に戻ってみたんだ、色々試せば1つくらい上手くいくのが有るかもと思ってさ、
それで、あれ、地属性の『ゴーレムメイク』って言うんだけど、どう思う?」
私たちから少し離れたところで岩の巨人同士が激しく殴り合っている、あれをイズミ君が魔法で造ったなら大成功といえるでしょうね、何せ昨日は炎を出そうとしても指の爪くらいの炎が灯るだけとか、雷の魔法で静電気が出たとか、水流の魔法でも規模は水鉄砲程度とか、殆んど使い物にならなかったからね。
「同時に二体までが限界だけど、これ結構使えるよね?」
「そうね、ゴーレム同士だから分からないけど、あれ凄い力で殴り合ってるわよね?」
「うん、多分、周りを壊すわけにもいかないから試してないけど・・・
とりあえず、使える魔法が出来たから今後は似た様なのを試していってみる。
これで、只の足手まといにならないで済むね・・・」
イズミ君は私がこの世界に巻き込んでしまったから、私が守るつもりでいたけど、守られているだけなのは気にしていたのかな?やっぱり男の子だから?
「なんにしても、トモカさんは早く文字をマスターしないとね、授業に出るのもその後になるし先は長いよ」
「う、日本語以外は英語ぐらいしか知らないんだから仕方ないでしょ、
一日で完璧にマスターするイズミ君が異常なのよ」
「ま、僕自身もおかしいとは思ってるけどね・・・
さて、魔法の習得は目処がたったし、トモカさんが文字を習得するまでの間、体力作りでも始めようかな、これから先、高校生平均以下の体力じゃきつそうだしね」
イズミ君の言い方に、まるでこれから先ずっとこの世界で生活していくみたいな雰囲気を感じたけど・・・
「ん?どうかした?」
私がもとの世界に帰る方法があるって言ったことを信じて無い、もしくは当てにしていないだけかな?まぁいいわ、ちゃんと悠にぃを見つけてもとの世界に帰してあげるからね!