二章11話 終焉、誓い
僕たちの戦力はもう殆んど残っていない、そんな状況で絶望が空を覆う、挫ける心を無理矢理奮い立たせながら残りの魔力を確認する。
「大地の騎士2体分ってところかな……これは」
無理だ、不可能だ、勝てない、逃げよう、何で僕が戦わなくちゃならない? 他の人に任せてしまえばいいじゃないか、周りの人だってもういっぱいいっぱいじゃないか!
「しかたねぇ、もう少し頑張るか……」
え!? まだ……やる気なの?
周囲から聞こえてきた声に絶望は無い、どうして?
誰も彼も限界の筈なのに……諦めている者なんて誰もいない。
皆、強いな……なのに僕はどうだ?
「僕はこの世界でも変わらない……こんな時ただ逃げるだけか? 」
僕は既に死んだ身だ、事故でこの世界に来たエリスやトモカさんとは違う、なら、2人を無事に元の世界に送り返すのは……
「僕の役目だ……」
腹を括ろう、トモカさんやエリスのような特殊な力も無い、魔力も枯渇寸前だ、でも、この身体は異世界に来て変わっている、他の人より丈夫なのは日々のトレーニングで実感している、なら、エリスとトモカさん、2人は僕が守ろう、この命に代えても……
「イズミ君?」
「大丈夫ですか?」
トモカさんとエリスが集まって来る、大丈夫覚悟は決まった。
「もうちょっと、頑張ろうか」
挫けた心は無理矢理治す! 2人を守るためにこの命燃やし尽くせ!!
「なら僕は詠おう……」
一瞬の出来事だった。誰かが囁くのが僕の耳に聞こえ、次の瞬間には目には見えない何かが魔物たちに向かって空を駆け抜けていた。
たったそれだけで空を染めた黒は拭い去られ、元の青空を取り戻す。
撃墜、魔物たちは皆今の何かによって斬り裂かれていた。
「僕たちが苦労してやったことを、ほんの一瞬で……」
「一体誰が?」
「イズミ君!! 『アースウォール』! 私を防壁の上まで運んで!!」
え? トモカさん? 何を焦っているの……
「ゴメン、上まで運べる程の魔力が残ってないみたいだ」
「だったら! 防壁を今すぐ消して!」
理由はよく分からないけど、トモカさんは相当焦っている、言うことを聞いておいた方が良さそうだ。幸い空を見ても、もう魔物が来る気配は無い、防壁を消しても大丈夫だろう。
『アースウォール』の防壁を消し自身の魔力に戻す。
「誰も居ない!」
うん、『アースウォール』を消し元に戻った場所には誰も居ない、それを確認するとトモカさんは闇雲に駆け出した。
「あ、トモカさん!」
僕たちは慌てて追いかけ、暫く走った後、立ち止まっているトモカさんに追いついた。
「居ない……」
「誰が……」
「悠にぃだよ!! あの数の魔物を一瞬で片付けるなんて、あんなこと出来る人なんて、そう居ないよ」
その言い方は、ユウヤさんは出来るってことだよね? トモカさんのお兄さんって一体何者なんだろう?
あ、この世界の英雄か……
暫く辺りを探してみたけど、ユウヤさんらしき人は見付からなかった。
ま、僕は簡単に見付かるとは思っていない、トモカさんとエリスをとっとと元の世界に帰してあげたい、って気持ちはあるけど、探し人を追って各地をたらい回しにされるのはゲームでも良くあることだ。
「また空振りか……」
トモカさんも今回はもう諦めているようにため息をついた。
トモカさんは大会中にユウヤさんを見たと言っていた事があったから、本人である可能性が高いのだけど……仕方ないか。
「仕方ないよ、それに、トモカさんもエリスももう身体が限界でしょ? 今日はもう休もう」
正直僕の方が限界なんだけどね、この世界に来て鍛え出したとは言え、もともとの体力が貧弱だ、そんな奴にさっきの戦闘はキツ過ぎる……
「あ、ごめん、イズミ君も限界みたいね、しょうがない、戻ろうか」
トモカさんもエリスも体力的にはまだ余裕があるみたいだなぁ、なんだか自分がもの凄く情けなく思えるけど、さっきの思考も含め事実なので仕方ない。
大会の会場は片付け作業などで係員が忙しなく動き回っている、決勝戦はうやむやになり今回は優勝者無しと言うことで終わるそうだ。
閉会式は明日と言うことで僕たちは宿に戻り休む事にした。
その晩、僕はこの世界での事について考える……
やっぱり僕はこの世界をゲームや漫画のように感じていた、でもそれじゃ不味い、エリスやトモカさんのように、事故でこの世界に来ている2人をこれ以上危険な目に合わせるわけにも行かない、だからと言ってこれから先、ユウヤさんは僕1人で探すと言っても2人は聞かないだろう。
なら……
「もっと強くなる必要がある……」
今のままじゃ足りない、元々貧弱な僕だ、学園に戻ったらもっと本格的に強くなる為に動き出そう……
2人を無事に元の世界に帰すためにも……
今日、危機的状況で誓った想いを貫く為にも、もっと、もっと強くなるんだ……