二章4話 エリス、第一試合
一回戦第5試合
雷光の剣士 シルバーリーフの近衛騎士団長
エリス アサギリ 対 ミスト ベレーノ
エリスの対戦相手はこのナインティリア大陸に存在する九つの国の一つ、ゴルド王国の近衛騎士団の団長らしい、ゴルドは魔法国家のため騎士団長といっても大したこと無いと侮ってはいけない、魔法国の騎士なら魔法国の騎士としての強さを持っている筈・・・エリス、怪我しないようにね。
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アタシがの第一試合の相手、今対峙しているのはゴルドと言う国の近衛騎士団の団長、団長と言う地位にいるなら強さもそれに見合ったものを持っているのでしょう、さて、アタシの自ら技等に制限をかけた九薙流はどれほど通用するのでしょうか?
審判の掛声と共にミストさんが動き出します。銀色の鎧を着込み華美な装飾の無い剣を手に駆ける姿は正に騎士といった所でしょうか?
武器の破壊を狙っているのでしょうか?確かに刀で剣と討ち合うのは得策じゃ有りませんけど、振るわれた剣は少し身をかわすだけで避けられるものばかり、あたしは刀を反し攻撃後の腕を打つ。
「!!」
余程油断していたんでしょうか?あっさりと腕に打撃を与える事ができました。
「あまり舐めてもらっては困りますよ」
「すまない、正直侮っていた、ここからは本気で行く」
ミストさんの動きが変わりましたね、武器を狙って振るわれていた剣はアタシに狙いを合わせて来る、でも師匠の剣速ほど速くは無い、これなら加速無しでも避けられますね。
それでも攻撃後の隙が無くなっているのでこのままでは反撃が出来ませんね。
「『ホワイトミスト』」
魔法でしょうか?ミストさんが何か唱えた後、視界を塞ぐように白い霧が発生しました。
これは・・・1メートル先も見えませんね。
審判の人等もアタシ達のこと見えているのでしょうか?
「ッ!!」
そんな事どうでもいいですね、左から振るわれた剣を屈んで避けます。
霧が微かに動いたのでなんとか気付けましたけど・・・この霧は不味いですね。
旋風なら吹き飛ばせるでしょうけど・・・
トモカさんにはあまり技は使わないように言われているんですよね、加速ぐらいなら大丈夫でしょうか?
「雷光石火」
再度霧に動きが見えたので加速してその場を離脱する、リングの広さから、あまり動き回る訳にもいきませんけどまだ余裕があるはず・・・
「!!」
また霧が動く、今度は右から剣が振るわれる、加速している為避けるのは余裕ですけど、アタシの居る場所を把握するのが早すぎませんか?
「まさか、この中で見えているのですか?」
この霧を発生させたのはミストさんですし、魔法で発生させた霧なら術者がその霧の中がどうなっているかを把握できても可笑しくありませんね。
誰にも見えない霧の中なら九薙の技で霧を吹き飛ばすのですけど、ミストさんに見えているとなると使えませんね・・・
霧の動きに目を凝らし動きがあった瞬間に逆の方向に動く、振るわれる剣を避けた後ミストさんが居ると思われる方向を斬り下ろす、でも空振り、直ぐにその場を離脱して横から来た剣を避けます。
加速しているアタシは攻撃を避けますしがミストさんの姿を捕らえられません、これでは限が無いですね、やっぱり攻撃を避けるのではなく受け止めないと駄目でしょうか?
仕方ありません、アタシは刀を鞘に戻します。
「どうしました?降参ですか?」
ミストさんから声が掛かりましたけど声のした方向が掴めませんね・・・ま、いいですけど。
「いえ、次で終わらせますので・・・」
「私の動きを捉えられない上に武器までしまってどう勝つつもりなのかしらね!」
霧の中、迫ってくる剣を鞘に納めた刀で受け止める、イズミさんに刀を譲ってもらった時に気付いたのですが、この鞘とても丈夫に出来ているようで、剣を受けても傷1つ付いていません。
攻撃を受け止める事で相手を認識できる距離に捉えることが出来ました。
この武器で攻撃を受け止めるとは思っていなかったのでしょうか?ミストさんが一瞬硬直します。
アタシはこの隙を見逃さずに抜刀の勢いで剣を弾き飛ばします。
「な!」
思わず剣を目で追ってしまい此方への警戒が弱まったミストさんの脇腹に拳を叩き込み、怯んだ所へ更に回し蹴りを放ち浮いた身体を両手の掌で押し出します。
アタシの感覚が間違っていなければ、ミストさんを押し出したのはリングの外・・・
視界を覆っていた霧が徐々に晴れていきます。
霧が完全に晴れた後、アタシの立つ場所より一段低い所で胸を押さえ呆然と立ち尽くすミストさんが確認できました。リングアウト、アタシの勝ちですね。
『え~、霧で経過はよく分かりませんでしたが、ミスト選手場外!勝者!エリス選手!!』
ま、こんなところでしょうか?ミストさんも本気で行くと言いつつ全力ではなかったみたいですし、攻撃に敵意が全く無かったので霧の中背後から狙われれば注意していても反応は遅れていたでしょう、騎士としてのプライドなのか?背後から攻めてくることはありませんでしたしね。
とにかく、まずは一回戦突破です。
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どうやらエリスが勝ったみたいだ、途中から霧がリング全体を覆って様子が分からなかった為心配していたけど、エリスに怪我が無い様で安心する。
僕がエリスの戦う姿を見たのは数回しかない、それも相手は全て魔物だった。
だから彼女の実力ってよく分からなかったんだけど・・・一国の近衛騎士の団長、相当な実力者の筈だ、試合とは言え、そんな相手に勝ってしまうのだからエリスの実力は僕が思っている以上なのかもしれない。
そんな事を考えているうちにエリスが戻って来た。
「お疲れさま~」
僕とトモカさんで出迎える、けど周りの注目度が半端じゃないね・・・
無名の冒険者見習いが一国の近衛騎士団長に勝ったんだし注目されるのは無理無いか?
霧で試合内容がほとんど分からなかったのも注目を集める結果になっているのかな?
ま、エリスが美少女だっていうのも有るんだろうけど・・・さっきから周りの男の人の視線が痛い、エリスと親しくしている男への殺気か?早速エリスのファンでもできたのかな?なんかちくちく感じるんだけど止めて欲しい・・・
「はい!なんとかですけど勝てました。イズミさん見ててくれました?」
周りからの「なんだこいつ、何エリスちゃんと親しくしてやがるんだ」って視線を感じつつも無視を決め込む。
「うん、見てたけど霧でほとんど見えなかったよ」
霧が無くてもエリスの動きを僕が捉えられたかどうかは分からない。
「あ・・・やっぱりそうですか・・・」
あ、エリスしゅんとしちゃったよ・・・後周りの男、「何エリスちゃんを悲しませてるんだ、殺すぞ!」って目で見るの止めてくれるかな?僕のせいじゃないでしょ?
「でも力を制限した上で勝ったんでしょ?凄いよ」
「そ、そうですか?ばれない様に加速は使ってたんですけどね」
なんとかフォローをしようとエリスを褒める、こういうのは苦手なんだけどな・・・
ま、エリスの調子も戻ったし、周りの視線は無視して次の試合を観戦しよう、勝った方がエリスの次の対戦相手だし、他の人の戦い方を見るのは、この世界で生きていく僕にはいい勉強になる。
僕のことを元の世界に帰そうとしてくれてるトモカさんには悪いけど、僕は元の世界では既に死んでいるんだから、これは仕方ない。
「さて、次の人はどんな戦い方をするんだろうね?」
「アタシの次の対戦相手ですし、技無しで対応できる相手かよく見ておかないとですね・・・」
「エリス・・・もしかして対応できそうに無かったら技使うつもりなんじゃない?」
「・・・・・・・・・」
トモカさんの指摘に返ってきたのは沈黙、使う気満々みたいだね、エリスって負けず嫌い?
「はぁ~、まぁいいけど、ほどほどにね」
あれ?トモカさんが折れた?
「これだけ注目浴びてれば今更でしょ?どうして今の試合でここまで注目されてるのかしら?」
この時僕たちは知らなかった。エリスの相手だったミストさんが、ゴルド王国の騎士の中でも相当な実力者で今大会の優勝候補の一人だったということを後で聞かされた。
「そりゃ、注目されるわね・・・」
後にトモカさんもため息交じりに呟いていた。