一章11話 射撃魔法
「敵を穿つ大地の鼓動
其の姿を数多の槍と成す・・・
雄々しき刃で敵を貫け 『ガイアランサー』」
大地が数本の槍に形を変え目標とした藁人形に目掛け、交差するように突き出し、刺し貫いた。
成功、いくつか試してみて分かったけど、僕は変形させるタイプの地属性の魔法とは相性がいいみたいだ。
考えてみれば先に成功している『ゴーレムメイク』も『アースウォール』も地を変形させている、なら出来るんじゃないかと思って試してみたけど、うん、殺傷力は高そうだ。
突き出した大地の槍は藁人形をボロボロにしていた。
土属性か・・・地味だなぁ、ファンタジー世界で活躍するなら火とか風とかの方がかっこいいんだけどなぁ、今の感じじゃ他の属性魔法は上手く使えそうに無い、残念だな・・・
「だいぶ様になって来たんじゃねぇの?これで接近戦も出来たら言うこと無しだろ?」
僕の訓練を見ていた彼はティック ティリアル、男性の寮生の1人だけどあまり合う機会が無くそれほど親しくは無いんだけど、もう1人の男性の寮生、ジーンから僕のことを聞いて様子を見に来たって言ってた、どうやらいい人のようだ。
「残念だけど僕は接近戦は全く駄目なんだ、武器も魔銃だしね」
そう言って腰のホルダーから魔銃を取り出して見せる。
あ、地面は元に戻しておこう、地の槍を崩し元の地面に戻す。
「お、それがマジックショットか、聞いた話だとまともに狙いが付けられないって話だけどな」
「やってみる?」
「無理だな、試作段階の時にちょっとやらせてもらったけど、明後日の方に飛んで行ったぞ」
「コツがあるんだよ、弾道が弓矢みたいに放物線は描かないから、銃口を真っ直ぐ標的に向ける、後あまり力を入れない、反動が無いから軽く構える程度で充分いけると思うよ」
更に僕の場合はゲームセンターで相当鍛えられているから、目の前をゲーム画面に見立てている、これでほぼ百発百中なんだけど、これは説明しにくいな。
とりあえず魔銃をティックさんに貸し『アースウォール』で藁人形の有った場所に標的を立てる、壁面に三重の丸を描き中から、10点、5点、1点、とエルリオールの文字で表記し、中心円の中だけ土の色を変えて赤くする、標的の完成。
「真ん中の赤いとこを狙ってみて」
「あ、あぁ」
ティックさんが魔銃を構え標的に向け引き金を引く、ちょっと力が入ってるな・・・
「おぉ!当たったぞ!」
魔弾は標的の1点の位置に当たった、1点の位置とはいえ、さっきの説明だけで当てたのだからたいしたものだと思う。
「少し力が入ってるね、それで引き金を引いた時に手がぶれてた。
何度か練習すればそこそこの命中率にはなるんじゃないかな?」
「そうか?でも射撃はオレには向かねぇな、まぁ槍振り回してるほうが性に合ってるってことだ」
魔銃を返してもらい腰のホルダーに戻す、同時に標的として出した『アースウォール』も元に戻しておく。
「マジックショットって弓と同じ射撃なんだよな?」
「ま、そうだね、弓とは違う種類だと思うけど射撃だよ」
「だったら射撃魔法を試してみねぇか?」
射撃魔法?いくつか読んだ魔法書には載ってなかった魔法だな、ティックはジーンから僕の魔法が殆んど役に立たないことを聞いているようで、ここに来た時からこうやっていくつかの魔法を挙げてくれていた。
「どんなのかな?僕の読んだ魔法書には載ってなかったけど・・・」
「普通の魔法書には載ってないな、主にエルフが使うものだから世間にも知られてないはずだ、やり方は簡単なんだけどな、弓なら魔法で作った矢を弓で撃つ、作った矢に効果を付けてやれば当たったら爆発する火の矢とか、風を巻き起こしながら進む竜巻の矢とかいろいろ出来るみたいだぞ」
ティックさんはよくそんな魔法を知っていたなぁ・・・
射撃魔法も他の魔法と同じでイメージでどうにかなるみたいだ、僕の場合は銃だからちょっと考えないといけないかな、ま、試してみよう。
「まぁ、上手くいく保障はねぇからあまり期待しないでくれよ、んじゃ、オレはそろそろ行くわ」
「あ、うん、ありがとう、またね」
「おう!」
ティックさんは僕に背を向け振り返ること無く手を軽く振り去って行った。
さて、僕は射撃魔法を試してみようかな、でも弾を作って放つ行程は魔銃がやってくれるんだよね、僕は放つ弾に効果を付ける必要が有るんだけど・・・
試しに火の魔力を弾倉に込め撃ってみる。
「駄目だな、ピストル型のライターじゃないか・・・」
銃口から申し訳程度の火が出ただけでは全く役に立たない。
やり方を変える必要があるよね、今僕に出来るのは変形させるタイプの地属性の魔法、おそらく僕に得意な属性は無い、代わりに変化って言う資質が有るんじゃないだろうか?
土をゴーレムや壁、槍に作り変える、なら撃った直後の魔弾を変化させればいいんじゃないかな?
「無に与えるは紅の戯れ
我銃口の前に張る陣は炎
姿を変えし魔弾は炎に至る」
上、空に向け構えた銃口の前に魔法陣が展開される、僕がそういうイメージを持って詠唱しているから当然なんだけどね、魔法陣が固定された所で最後の仕上げ、力を込めた言葉と共に引き金を引く。
「『フレイムバレット』!」
放たれた魔弾は魔法人を通り過ぎその形を変えた。只の魔力弾だった弾は炎を纏い燃え盛りながら空へと消えていった。
「成功?でもこれ射撃魔法じゃないよね?ま、面倒だから射撃魔法ってことでいいけど・・・」
ティックさんに教えてもらった射撃魔法の方はトモカさんに教えておこう、矢が切れた時に打つ手が無いって言ってたから、使いこなせれば役に立つだろう。
僕の魔法の資質の方も属性じゃなくて変化ってことは多分間違いないだろうからそれを前提に色々やってみるとしよう。
さて、次は身体を鍛えないと・・・体力不足は早めに何とかしておかないとこの世界じゃ命取りだ。
接近戦は相変わらずダメダメだから、身体は鍛えておかないとね。
・
・
・
・
身体の限界まで走り込み、寮の食堂でぐったりと机に突っ伏し休憩している。
でもおかしいな、なんだかこの世界に来た当初より身体能力が上がっている気がする、しばらく前から続けているトレーニングでもそんなに直ぐ効果が出てくるとは思えないんだけど・・・ま、いいか、何か不都合があるわけじゃないし・・・
僕とトモカさんは午前中魔法科の講義を受けていて今はそれぞれ自由行動中だけど、文字を教わっているエリスさんの方はどうなってるかな?トモカさんは数日でなんとか読み書きできるようになったけど、ちょっと様子を見てこようかな。
「あれ?トモカさん?」
エリスさんの勉強している教室にトモカさんも居た、どうやら一緒に勉強しているようだ。
「まだなんとか読み書きできる程度だから丁度いいんだよ」
ま、そうなんだろうけど、忘れないうちに射撃魔法のことを教えておこう・・・
「射撃魔法ね・・・ありがと!それじゃ後お願いね!」
え!?トモカさん?行っちゃったよ・・・教室には僕とエリスさんが残された、カームさんは講義に出ているらしく今は居ない。
とりあえず、僕に講師役をやれってことなのかな?
「えっと、エリスさん、今どんな感じ?」
「基礎は一通り教わりましたね、今反復して覚えている所です。それと、アタシのことはトモカさんみたいに呼び捨てでいいですよ、イズミさんのほうが年上ですよね?」
女の子を呼び捨てとか何時以来だろうか?
「ん~、じゃぁエリス、僕のことも気軽に呼んでくれたらいいよ、
この世界では年上とか気にしなくてもいいでしょ?」
僕が元の世界に帰れるとは思ってないし、トモカさんとエリスとも、2人がこの世界に居る間だけの縁だ、気楽にやればいい。
しばらくエリスの勉強の手伝いをしているとカーム先生が戻って来た。
「イズミ君?さっきはトモカ君が居たと思ったんだけど・・・」
「射撃魔法っていうのを聞いたんで教えたら試しに行っちゃいました」
「イズミ君でもいいか、先日君たちが受けた依頼で遭遇した魔物について聞きたいんだけどいいかな?」
先日の依頼?どれのことだろう?興味をもたれるような魔物って居たかな?僕は文字が読めるようになってから魔物図鑑(挿絵付き)を一通り読破しているから珍しい魔物と出会ってたら分かる筈なんだけど・・・あ、あの黒いゴブリンか?色と大きさだけなら個体差だと考えられるけど、魔法が効かなかったんだよね。
「魔法の効かない黒いゴブリンのことだよ、大軍の中に1匹程度なら突然変異で済ませられるんだろうけど、数匹居たっって聞いたよ。上位の魔物や魔獣なら魔法の効かないものも居るんだけど、ゴブリンにそんなのが何匹も居るなんておかしいんだよ」
そうか、この世界の常識で動いていない僕はそんな魔物も居るんだろうぐらいにしか思ってなかったけど、魔法の効かないゴブリンの発生は異常事態なのか。
「冒険者を派遣して巣の方は潰したんだけど、君たちに聞いたようなゴブリンやオーガは見付からなかったんだよ、ただ、人の暮らしていたような形跡が巣の中にあったんだけどね」
「そんなこと僕たちに知らせても良いんですか?」
「無闇に振れ回ったりしないなら問題無いよ、それに黒ゴブリンを実際に目にしたのは君達が初めてだ、他の発見報告も無い、私は君達が今後も何かに巻き込まれるような気がしてならないんだよ」
「はぁ、何かに巻き込まれる・・・ですか?」
人が住んでいた跡か・・・よくある展開なら、あの黒ゴブリンは誰かが作ったってことになって、村を襲わせたのは黒ゴブリンの性能を試す実験ってところかな?ゴブリンを全滅させられたから逃げる時間稼ぎにオーガを仕掛けた?
今回運悪く僕達が依頼を受けたって事は、今後も何かしらの事件に巻き込まれるパターンだよね。
「ま、いいですけどね、出来ればトモカさん達を帰した後にして欲しいですけど・・・」
「あれ?イズミも一緒に帰るんじゃないんですか?今の言い方だと・・・」
「あ~ごめん、ただの言い間違いだから気にしないでくれるかな?」
危ない危ない、僕が一度死んでここに居ることは言わない方がいいよね、説明できる訳でもないし。
この後、黒ゴブリンのことを分かる事だけカーム先生に話して今後何か変わったことが有れば知らせることを約束する。
多分さっき呟いた願いは聞き入れられることは無いだろうなぁ、こういう場合は直ぐにでも何か事件が起こるそんな気がする・・・気を引き締めておかないと・・・
トモカさんとエリスを無事に元の世界に帰す、それがこの世界での僕の最初の役割かな?
じゃぁ、しっかりと演じるとしますか・・・