序章1話 イズミ そして僕は・・・
学校がつまらない・・・勉強もそれほどできるわけじゃないし、運動も得意じゃない。
何より友達が居ない、僕が通う高校は通学に1時間位かかる場所に有り、小中学校の時の同級生で同じ高校に通う者は誰も居ない。そういう場所を選んで進学したんだけど、小中学校時のいじめによって培われた僕の性格は高校生活にうまく馴染めないでいる、人と話すのが苦手になってしまっている僕は、通学に時間がかかるって理由もあり、友達を作ろうという努力もしないまま、学校が終わるとすぐ家に帰りゲームばかりやっていた。
僕のやるゲームはロールプレイングゲームやシミュレーションロールプレイングゲームが主だ、剣や魔法の世界での冒険には凄く憧れるものが有る。
まぁ、実際に僕が冒険する訳じゃないから楽しめるんだろうなぁ、そんな機会が訪れたとしても、勉強も運動も大した事無い僕がそんな冒険を繰り広げられるわけが無いんだけどね・・・
やっぱゲームは良いな・・・
有る休みの日、僕は長時間ゲームを続け疲れた眼を癒す為窓を開け外の景色を眺めていた。
今日は食事も忘れ一日中ゲームを続けていた為外はすっかり暗くなっていた。
時間は深夜とまではいかないけど人が出歩くには遅い時間、そんな時間に道を歩いている2人の男がいた。
兄弟なのだろうか?2人の容姿はよく似ている、けど後の男が手に持ってるのって刀だよね?幸い鞘から抜かれては無いけど大丈夫なのか?明日のニュースで辻斬り現るとか勘弁して・・・
まぁ、僕に何が出来る訳も無く男たちのことを忘れゲームに戻った。
翌朝のニュースで殺人や傷害の事件が無かったので少しほっとした。
思えば、この時から僕の日常は終わりに向かっていたのかもしれない・・・
半年後、学校帰りに男を見かけた。あの日の夜前を歩いていた方の男だ。
隣に歩く、恋人?友人?綺麗な女の人と話しながら歩く彼とすれ違う。
無事な様で何よりだ。そう思っていると後から悲鳴が聞こえた。
「キャ!何!?」
振り返り後悔した。僕が見たのは謎の裂け目に飲み込まれる女の人の姿、男の人は女の人を助けようとしたみたいだけど、間に合わず裂け目は消えてしまった。
「花梨・・・お前もか・・・」
男の人はそう呟き去って行った。
え?それだけ?人が消えたのにそれだけなの?
僕は突然の不可思議な出来事に混乱していたけど、今回もどうこう出来る訳も無いのでそのまま家に帰った。その後近所やニュースで行方不明者捜索の話などを聞かない、どうなってるんだろう?
更に半年後、僕の通う高校で更におかしな事が起こった。
授業中にも拘らずグラウンドに集まった危なそうな連中、しきりに誰かを呼んでいるようだけど、僕はあの手の暴力で物事が片付くと思っている奴等を最も苦手としているので、目を付けられたりしないようにその他大勢と同じように早く居無くなってくれという思いでじっとしていた。
上の階が騒がしくなり、ふと窓の外を見ると、男が1人飛び降りていた。
「な!」
思わず窓に駆け寄る、下には何も無い、飛び降りた筈の男の姿は欠片も見当たらない。
「あれ?」
更にあれだけ騒いでいた柄の悪い連中が引き上げて行くのが見えた。
「おい、何している?授業中だぞ、早く席に戻れ。それとも廊下に立たされたいか?」
僕以外にも男が飛び降りたのを見た人は居た筈なのに、窓に駆け寄ったのは僕だけで教師に注意されてしまった。
「ちょっと待って下さい、今、人が飛び降りて、え?え?」
いってる途中で何言ってんだこいつ、という視線に気付き更に混乱する。
「グラウンドに居た柄の悪い奴等も・・・」
更に視線が可哀想な者を見る目に変わる、僕はもう黙り込むしかなかった。
「お前、俺の授業で居眠りとはいい度胸だな・・・」
僕は何もいえなくなった。
その後、周りの人が、柄の悪い奴がグラウンドに集まっていた事も、人が飛び降りた事も覚えていないという、訳の分からない状態になっているのに気付いた。どうなっているんだ?
チラッとしか見れなかったけど、飛び降りた男は銀髪、そんな目立つ奴この学校の生徒なら誰か分かるだろう、僕も前に銀髪の生徒を見たことが有る、と思ってたけど、銀髪の奴なんてこの学校に居ないという話だ・・・ホントにどうなっているんだ?
結局何も分からないまま数日が過ぎた。もう、気にしても仕方ないので気にしないことにした。
そんなことより今日は待ちに待った新作ゲームの発売日だ、学校が終わり、いつもは真っ直ぐ帰る道を曲がりゲームショップへと寄り道する。もちろん予約も済ませて有るので売り切れの心配は無い、代金を払い目的のゲームを手に急いで家へ帰る。
長い間待っていた新作を手に入れて僕は舞い上がっていたんだろうか?
横断歩道を渡る母親と娘の親子、そこに突っ込んでくるトラック、妙に世界がゆっくりに見えた。
トラックの運転手は居眠りをしていて信号が赤なのに気付いていない、横断歩道を渡る親子も突っ込んで来るトラックに気付いていない、僕はここでありえない行動に出た。普段なら絶対しないような事をこの時の僕はやってしまった。
トラックの突っ込んで来る直前に僕は親子を後ろから突き飛ばす。もう時間が無い、僕は2人が直撃コースから外れたことを確認する間も無く、トラックによって数十メートル引きずられ、身体を削られながら進み、トラックと共に民家の壁に突っ込んだ。
痛みを感じない、僕は、体の感覚が麻痺していることと、自分の流したものであろう血が地面に広がるのを見つめ、もう助からないと確信する。
家の住人やさっきの親子が近付いて来た所までは確認できたけど、もう駄目だ、僕の意識は直ぐに闇に落ちて行った。
僕、夕凪 一純はこの日、地球での生を終えた。