馬鹿で鈍感なキミに贈る愛の歌
昔から、私は歌うのが好きだった。
「ほら、あかね。逃げたって仕方ないだろ?」
ズイッ、と、遠慮なく私の目の前に顔を見せるこいつは、私の幼稚園からの幼馴染。顔はそこそこいい方らしい。が、ウザいし、馬鹿だし、デリカシーないし。とんだクソ野郎だと幼馴染としては思う。
「うるさい馬鹿」
「間違ってはないな!」
「ふっ……」
「お、笑った」
「馬鹿って言われてドヤ顔って……ふふ」
隣の馬鹿は、私が笑うと心底嬉しそうにニマーっとする。馬鹿馬鹿言っているけど、そんな馬鹿を好きになってしまった私は大馬鹿なのかもしれない。なんかむかつく。
「ほら、もどろーぜ」
「やだ」
「んでだよ!」
「いやなもんはいーや!」
「あかね、歌上手いじゃん」
私は、今逃げている。高校生になって、軽音部に入って、明日がライブ本番だと言うのに。
「上手い人なんて、たくさんいるよ」
「じゃあ、言い方変える!」
「はぁ?」
「俺、あかねが歌ってるの好きだ!」
「知ってる」
「え、知ってるの!?」
「まあ、長年の勘?」
ずっと見てるから、わかる。
「なんだよーカッコつけようと思ってたのに」
「馬鹿には無理だね」
「酷いな……泣きますよ」
「どうぞ」
「止めろよ」
こうやって軽口をたたき会えるのが心地良い。
「なぁ。あかね」
「なに。もどらないよ」
「今回歌うのって、ラブソングなんだろ?」
「まあ……うん」
「じゃあ、俺に歌ってよ」
「はぁ?」
「俺に向けて歌って」
「なんで」
「俺のために歌って」
「だからなんでって」
「だって、俺のこと好きだろ」
当たり前だろ、というように言った。
「は、なんで」
言ったことも、態度に出したこともないのに。
「んー……長年の勘ってやつ?」
「さっき私が言ったやつ……」
「ちょっと使ってみたかった」
「やっぱ馬鹿」
「じゃ、頑張れよ」
そう言って去っていくキザで鈍感な馬鹿の耳は、赤く染まっていた。多分それは、私も同じ。
「そんな事言われたらやるしかないじゃん……」
鈍感だけはちょっとだけ訂正してあげてもいいかな。
「さて、がんばりますか」




