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荊の道へ

 依頼書を手にカウンターに歩み出たフィンを迎えたのは、レンズ越しの突き刺すような眼差しだった。依頼書とフィンの顔を交互に見比べたエミリーは、濁った瞳でフィンを見据える。


 「……冗談はおやめください、フィンさん。貴方は疲れている。部屋にお戻りなさい」


 静かだが、有無を言わさぬ拒絶だった。しかし、フィンは目を逸らさず、テーブルに置いた手を握り締めてエミリーの目を真っ直ぐに見つめ返す。


 「本気です。俺は、この依頼を受けます」


 その言葉にエミリーの眉が僅かにひそめられる。彼女は小さく溜息を吐くと、中指で眼鏡のブリッジを押し上げ、諭すように言葉を続けた。


 「貴方は薬草採取もままならなかった新人でしょう。これは自殺行為です。私は、自殺志願者に依頼を出すほど無能ではありません」


 正論だった。彼女の立場から見て、余りに真っ当な反論の余地もない言葉。

 フィンは一瞬言葉に詰まるが、その手は自然と、腰に差した新しい剣の柄を握りしめていた。ルシアンから受け継いだ信頼と、ブレンナに繋がれた命。まだ温かい、その二つの重み。

 故郷を出た時の悔しさとは違う。今ここで逃げることは、自分に託されたその全てを裏切ることだ。

 心の奥で灯った小さな火種が、その思いを薪に、確かな炎となって燃え上がった。


 「……あんたの言う通りかもしれない。この街を出れば、生き長らえることはできる」


 フィンは、腰の剣の柄を強く握り締める。


 「だが、借りた命と剣をただ抱えて生き延びて、何の意味がある?それなら、ここで燃やし尽くしてやる」


 フィンの決意を聞いたエミリーの表情は依然として固い。しかしその淀んだ瞳の奥には、諦観と執念が綯交ぜとなった昏い光が微かに煌めき、フィンの瞳を射抜いていた。


 「……承知しました。都合のいい理想でも、新米には希望になるのでしょうね」


 エミリーの言葉はもはや皮肉を隠そうともせず、刃となってフィンの心に突き付けられる。そこに先程までの拒絶はなく、青年を試すような色味が含まれている。


 「どうしても受けると言うのなら止めません。概要を説明します」


 その時、両開きの扉が勢いよく開け放たれ、場違いに明るい声がギルドホールに鳴り響いた。

 その声は、忘れようもない。昨日、自分を死の淵から救い上げた、あの女の声だ。

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