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食うか食われるか

 山間から昇った朝日が冷たく澄んだ空気を染め、柔らかな光が大地を照らし出す。

 眼下に広がるクレーターの内部は、狩りを終えたオオカムロ達が続々と帰還し、身を休め始めていた。巨大な鳥の巣と化したクレーター内には朽ちた武具や白骨が散乱し、大きな卵が幾つか固めて安置してある。地面には枯草が敷き詰められ、良く燃える事だろう。


 目線を右側の出入口付近に移せば、ルシアンが率いる一隊が隘路に陣取り待機しているのが見えた。

 火薬の詰まった樽を慎重に荷車から下ろしていたフィンの元へ、スヴェンが寄ってきた。


 「オオカムロの卵か。ありゃあ街に持ち帰ればきっと高く売れるぜ」


 その表情は声音に反して固く強張っていた。

 彼は一度だけ、フィンの背後にある火薬の樽に神経質に視線を落とすと、すぐに何でもないように悪戯っぽく笑いかけた。


 やがて別動隊から準備完了を告げる狼煙が上がる。ラゲルタは大きく頷き、樽を一つ担ぎ上げ、クレーターの内部へと勢いよく投げ込んだ。

 それに続き、フィンや他の面々もクレーター内へと高台から樽を転がしていく。

 すべての樽がオオカムロの巣の中へと落ちた頃合いに、スヴェンはフィンの傍から離れ、身の丈程ある樫の杖を巣の中央に向け、囁くように呪文を紡いだ。


 「イグニス」


 火が熾り、燃え広がる。異変を察知したオオカムロらが一斉に首をもたげ、鳴き声を上げるも、もう遅い。巣に投げ入れられた火種はあっという間に燃え広がり、散乱する火薬樽に着火し、爆ぜた。


 「突撃だ、突撃ぃッ!トリ頭共を皆殺しにしろッ!」


  爆炎が巣を包み込む中、鉄兜を目深に被ったラゲルタは、大剣を振りかざして高台からクレーター内へと滑り落ちていく。


 「風の君シファの名において命ず。その熱を置き、あるべき虚空へ還れ……! もう!無茶して!ケツ拭く身にもなりなさい!」


 慌てて火除けの祈祷を施したティリスが、滑り落ちていく背中に怒声を張り上げる。その叫びも、血と鉄の混沌の中に混ざり、掻き消えていった。


 恐慌状態に陥ったオオカムロ達は隘路を目指して一斉に駆け出す。そこに待ち構えていた別動隊は、一斉に矢を射かけ、動きの鈍った巨鳥へと肉薄し、その命を刈り取っていく。ルシアンが剣と盾を手繰って狂乱する怪鳥を往なし、後方から放たれた光がその巨体を焼いた。


 フィンは我が目を疑った。あの光は、聖なる祝祷術。そして、冒険者の一団の中で白い衣を纏ったその姿は、見間違えるはずもなかった。

 なぜ、彼女がここに? 救護室にいるべき聖女が、この死地の、最前線に?それほどまでに、この街は、この戦いは、追い詰められているというのか。

 その人物こそ、“聖女”ブレンナだった。


 ────嫌な予感がする。

 フィンは、戦闘の喧騒から、ふと巣の中央部の地面へと視線を落とした。

 そこだけ、地形の様子がおかしい。周囲の草木は爆発で焼かれているはずなのに、その一角だけは、不気味なほど青々とした紫色の苔や、奇妙な形の水晶体が析出している。

 まるで、地面の下から何か、とんでもない養分を無理やり注がれているように……。

 

 「ありゃあ龍穴だ。魔素の濃度がおかしいと思った……オオカムロ共がここに巣を構えるわけだ。」


 高台から火球の魔法を放つスヴェンが、疲労と焦燥で冷や汗を垂らしながら呟く。

 龍穴――その言葉の意味は分からない。だが、あそこは危険だ。ルシアンたちは、とんでもないモノの上で戦っている。

 気が付けばフィンは、高台を転がる様に滑り降りていた。

 

 「お、おい待てよフィン!お前が行ったところで何も……!」


 後ろから聞こえるスヴェンの制止の声は遠い。警告しなくては。

 フィンは、ただその一心で、隘路に向かって走り出していた。


 怪鳥音が空を劈く。立派な鶏冠を頂いた一際大柄な個体が、隘路の直前で冒険者らに足止めされ、血に塗れて荒れ狂っていた。

 ルシアンが巧みな盾捌きで強烈な一撃を捌き、一瞬の隙を突いて剣を差し込む。矢が射掛けられ、鉛玉が巨体に穴を穿った。

 抵抗の末、巨体がついに地へ伏す。一瞬の間を置き、その体躯が巨大な心臓のように脈打つかのように見えた。矢面に立つルシアンの表情が目に見えて強張る。


 「ルシアンさん!!ブレンナさん!!伏せてッ!!」

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