CHAPTER -2-
自主制作アニメ『電脳功夫 / CYBER KUNG-FU -Remnant-』の裏設定
※絵コンテより抜粋
シーン1
夕方の公園。誰も乗っていないブランコが揺れている。母親の優しい声が子守唄『小燕子』を歌っている。
子守唄は続くが、徐々にノイズ混じりになり音源がカーラジオになる。
シーン2
「もう着くぞ」男の声で現実に引き戻される。車は雑居ビルに囲まれたとある大衆飯店の前で停まった。
男はカーラジオを消し、街の雑踏が車内に忍び込む。
後部座席に座っていた少女がうるさそうに瞼を開く。
男「鼻歌なんか歌って、大丈夫か?」
少女(合成音声)「声帯、良いのに変えたい」
女の声〈音痴はそのせいじゃないだろ?〉2人の会話に通話で割り込む。
女の声にムッとした少女が運転席を覗き込む。男はノートPCを開いて作戦前の状況を確認している。
男「道路封鎖が始まった。動きが早いな」
少女「計画は続行?」
男「当然だ。現場の状況は理解しているな」
少女「チンピラが盗んだヤバい荷物を取り返す。サツが押収する前に横取りする」
男「無傷でだ。制圧までのリミットは6分……いや、180秒。ヘクト、そっちの用意は」
〈ちょい待ち、今店内のネットワークに──侵入した。相手の人数を割り出すから、少し待ってて〉
男「店内に異常は見られないようだが──」
二人の会話をよそに、少女が車を降りて後部のトランクに積んだショットガンを取り出す。太股のホルスターには拳銃。身軽さが武器の彼女にとって、持ち込める得物はこれが限度だ。
少女、浅く息を吐いて飯店へ向かっていく。
男「おい!ヘクトの危険度評価がまだ──」
少女「あたしは一人でいい」
男「ったく……カタギには手ェ出すなよ──ソロが入ってく」
女〈は!?〉
男「何をモタついてる」
シーン3
雑然とした店内は客で賑わっている。騒々しい話し声はラジオから流れる更に大きな音量の音楽で掻き消されている。
少女は中央まで歩くと、ショットガンを天井に向けて1発放った。
無関係の客を逃がすためだが、銃声が静まった後も誰一人として逃げず、話し声も変わらず続いている。
少女は警戒態勢に入り、油断なくショットガンを構えて店内奥のラジオへ向かい、音楽を消す。
少女「何が起きてる」
客をよく観察してみると、どうやら生身ではあるものの電脳をハッキングされ、食べ物を口へ運び会話をするという一定の行動を繰り返しているらしい。
男〈ループを嚙まされてるのか。〉
女〈ログを見てもマルウェアが荒らした痕跡は無いけどねぇ……〉
少女「計画は続行?」
男〈続行する。念のため店のネットには繋ぐなよ〉
少女「そんな素人じみたこと……」
シーン4
店内を奥へと進み、地下に続く階段を下っていく。残る部屋はひとつだけ。人の気配はない。
その部屋に目的の荷物があるはずと見込んで扉を蹴破り即座に物陰に身を隠す。反撃されないのを確認して、先へ進む──と、どこに潜んでいたのか背後の通路から大男が襲う。咄嗟にショットガンを構えるが弾かれ、振り落としてしまう。
大男「てめェの仕業だな!? 仲間が次々おかしくなって……どういうつもりだ!!」
周囲には倒れたチンピラたち。
少女「ビビってる割に動きに迷いがないなお前もサイボーグか」
力任せの攻撃をかわしきれず、少女は右腕を掴まれる。
「行動制御ソフトに任せっきりの単調なアクションで、あたしに勝てるとでも?」
掴まれた義腕を外して振り解き拳銃で男の頭に銃弾を撃ち込む。
シーン5
少女、外れた右腕を取り付け直す。
男〈……無事か〉
少女「無事。積み荷を発見……デカいんだが」
部屋にあったのは、横に倒した冷蔵庫のような機械。冷凍睡眠用のポッドであるらしい。
少女「ブツが棺桶だなんて聞いてないぞ。中身だけで良いんだろうな?」
男〈無傷でという注文だ〉
少女「とりあえず開けてみる」
男〈待て待て待て待て……今そっちに行くから、何もしないで待ってろ〉
ポッドのガラス面を覗き込んでギョッとする。その中で眠っているのは、少女と瓜二つの顔を持つ女だった。
眠っているはずの女は目を開き、少女の顔をじっと覗き込む。ポッドはプシュー…ッという音と共に独りでに開く。
女「不思議な巡り合わせね。助けに来てくれたのが私のコピーだなんて」
少女「コ、ピー…だと……?」
男〈おい!冷静になれ、サツがそっちに向かってる、一旦退け〉少女が男との通信を遮断。
女がまじまじと少女を眺める。
女「なるほど、こんな発現の仕方もあるのね」
少女「一体、何がどうなってる……」
女が鼻歌を口ずさむ。冒頭の『小燕子』
少女「どうして、その歌を……?」
女「この歌が好きよね。私もよ。私の記憶は、ずっとしがみついていたくなるほど美しかったでしょう?」
女は、尹 文花のオリジナル。
尹「もっと知りたいことがあるでしょう?教えてあげる」
尹が差し伸べる手に、少女が右手を添える──が、腕は変形して銃になった。虚を突かれた尹の眉間に銃弾が撃ち込まれる。威力が強いため頭ごと吹き飛ぶ。
「あたしは、一人でいい……」
以後、新ソビエトの精鋭を射殺したこの少女は裏切り者となり、尹 文花のコピーたちによって命を狙われることになる。