CHAPTER -1-
自主制作アニメ『電脳功夫 / CYBER KUNG-FU -Remnant-』の裏設定
内紛に乗じて勃興した新ソビエトは、長らく国交が途絶えていた中華統一機構体の内情を探るべくスパイの養成を開始。中国領内から拉致した青少年を冷徹な諜報員として鍛え上げ、祖国の中枢部に潜入させる計画。
無数にいる候補生の中で特に優秀だったのが、新疆の農村で拉致された少女・尹 文花。
一人前の“愛国者”として祖国に帰還した彼女に課せられたミッションは“新人採用”だった。
今や当たり前となった10代の早期電脳化手術で用いられる電脳の生産工場に潜り、製品にプリインストールされるソフトウェアにとあるスクリプトを仕込んだ。
このスクリプトは意味の無い冗長な文字列で構成され、電脳そのものを汚染する有害性は無い。そのためマルウェアとして検出されないまま全国に出荷され子供たちの身体に埋め込まれる。
ほとんどの場合、潜り込ませたスクリプトが発現することはない。効力を発揮するのは、電脳の装用者が因子を持つ場合のみに限られる。
その因子とは、
・少女であること
・尹 文花が拉致された年齢と同じ8歳であること
・ヒロイズムに傾倒する傾向があること
装用者がこれらの因子を満たしていることをスクリプトが検知すると、無数に分割されたファイルの復元が始まる。
スクリプトが有効化された電脳は、装用者の睡眠時に尹のサーバーから疑似記憶をダウンロードするようになる。
この疑似記憶はフィクションではなく、尹の人生そのものの記録。
少女は実際の人生を生きながら、もうひとつの人生を追体験する。ヒロイズムの欲求を満たしてくれる過酷で刺激的な二重生活を楽しみ、次第に偽りの記憶を本来の人生だと信じ始める。
ネット通信が完全に遮断されない限りこの洗脳は続き、17歳になる頃には元々の人格は完全に尹 文花に塗り潰される。
こうして新ソビエトは、完璧にクリーンな経歴の中国人を自国のスパイとして抱えることに成功する。
《!》尹 文花が作り出したコピーたちは体格が似通っており、また本来の人格に尹 文花の人格が上書きされているので、ファッションセンスや戦術、義体の改造傾向も類似している。