極秘任務
サボってたら前の投稿、1ヶ月前ですってよ。奥様。
「これって……降臨祭の!?」
「それも特別な関係者用のヤツだ。それなりの待遇は期待できるぞ」
キラキラと星が出てきそうな目でチケットを見るメリッサと、偽札を吟味するように凝視するレオ。そのうちレオが口を開いた。
「どうやらモノホンの入場チケットらしいがぁ……また盗んで来たのか?」
「いくらなんでも、俺の信用が無さすぎないか?」
「逆だ逆、お前には『盗んでくるだろう』という信用がある」
「なら今すぐそんなもん、路地裏の野良犬にでも食わせとけ!」
レオはいっつも風評被害じみた意見しか言わねぇ……それも、俺の普段の行いが悪いからって気もしなくはないんだが。でもまぁ、そういう説教は他人に言わせておけばいい。俺はいつだって俺の味方だ。
「つまり私達は、降臨祭に入場できるって事なの!?」
「ああ、誓って合法なヤツだからな」
「やったぁ! 私、実は応募してたんだけど……落ちててさ。こういうイベントに行くのって初めてだから楽しみ!」
「しかしニコル……コレが合法だって言うんなら、お前に聞かなきゃならん事がある。どうせ何かしらコレを貰った『経緯』があるんだろう?」
俺はこれまでの経緯について簡単に説明した。
「パレードねぇ……騎士団ってそんな仕事もしてんのな」
「軽く訓練でやった事もあるから、そこの所は心配ない。しかし、そうなると問題なのは……」
俺とレオはメリッサを見た。
「……え、私?」
「当日、俺はメリッサを護衛できない」
「つまり、誰か嬢ちゃんを見ておく奴が必要……って事だろぃ?」
「ああ、その通りだ。チケットも2人分あるからな」
メリッサは少し考えてから、口を開いた。
「それなら、ミケちゃんに任せればいいんじゃないかな? この子なら、チケット無くても中に入れそうだし」
「だが嬢ちゃん、当の本人……ならぬ本猫は不服そうだぞ」
「ええっ、なんで?」
ミケは不満そうにカウンター上で膨れている。
「吾輩、寒いのは基本無理ニャ」
「えー、今更? だって北に居た時、ミケちゃんも別に寒さとか気にしてなかった気がするんだけど」
「それは、あんな雪国じゃ何処に行っても寒かったからニャ。吾輩は身体が強いから、そこらの猫より耐寒性も高いニャけど……こんな温かい寝床を得た今、わざわざ外に出るのは御免ニャ」
「ったく……畜生の分際で生意気な野郎だぜ」
「そっちこそ、人間の分際で吾輩のライフスタイルに口を出すんじゃ無いニャ! 芦毛のニンゲン!」
そうなると、頼める人間は一人だけだな……ただ、了承するだろうか。
「ならレオ……頼めるか?」
「おうよ、任された」
俺の予想と異なり、レオは易々と了承した。
「えらく安請け合いだな……」
「なんだ、変か? どうせ護衛と言いつつ、嬢ちゃんが迷子にならねぇように見張ってりゃそれで良いんだろ。迷う程の事でもねぇ」
「……分かった。ならまぁ、当日は任せたぞ」
レオもレオでトラウマを抱えてるから、万一敵と対峙した時にどうなるかは心配だが……そろそろコイツも立ち直ってきているって事だろうか。ここは信じよう。
そもそも『降臨祭』は一大イベントだから、警備の眼も並大抵ではないはずだ。血鴉の連中も大胆に動く事はまず無いだろう。今のうちから敵に対峙した時の事を気にするのは杞憂が過ぎるというものだ。
「ところで嬢ちゃん、何か言いたげな顔をしてるようだが……」
「うへ……バレちゃった」
先程までチケットに目をキラキラさせていたメリッサは、一転、少し愁いを帯びた眼でうつむいた。
「凄く嬉しいし楽しみなんだけど……欲を言うなら、ニッ君と一緒に回ってみたかったってね」
「あくまで仕事だからな。我慢してくれ」
「いや、そんな表情しないでニッ君! ただの私の我儘だから……いつか一緒に行けたらいいよねってだけの話!」
「いつか……な。覚えておく」
本当にそんな日が来ればいいな。俺に復讐の事なんて考える必要が無くなって、純粋に自分の為に時間を使えるような日が。
……分かってる。俺にそんな贅沢を望む権利なんて無い事は。
そんな思考を見透かしたような目で、レオは俺を見ていた……するとその時、彼の腕時計のランプが赤く点灯し始める。
「レオ、それは……?」
「おおっと、珍しいな。こんな時間に本部から連絡なんて……よほど緊急の要件らしい。ニコル、嬢ちゃん、俺は少し電報を確認してくる。適当に過ごしててくれぃ」
レオの腕時計……なるほど便利だな。電報の受信を通知する機能を付けたのか。
彼はキッチンを越えた先、店の一番奥へと消えていった。
* * *
首都ティアーズヒルでBWAの支部……もとい連絡基地の門番を務めるレオだが、彼の役割は何もそこの警備だけにとどまらない。彼のもう一つの重要な役割は、本部との連絡の送受信である。
フィスタリア王国で使用されている通信機器は少し特殊で、サン=ダキア大公国で使用されるような「電波型」ではなく「魔力波型」と呼ばれる。原理についての説明は省くが、要するに「魔力の揺らぎ」を利用した通信システムで、通信距離が長く装置も安価……しかしその反面「通信の傍受が容易」というセキュリティ面での弱点も抱えている。
極秘に仕事を遂行する日陰者にとっては、通信の傍受は一番警戒しなきゃならない事態だ。故に、重要機密事項を含めた連絡に関しては、公共の通信システムを介さない独自回線の電報でのみ行っている。
もちろん、電報の送受信にはそれに対応した暗号解読技術も必要であり、万人がそれを出来るわけじゃない。そしてレオは……それが出来る人間のうちの1人である。
「さーて、こんな時期に一体……って、マジかよ。ニアミスってヤツだな」
レオは電報の文を手早く文字に起こすなり、眉をひそめた。ポケットから取り出したのは、先刻ニコルから受け取ったチケットである。
電報のメッセージは次の通りだった。
『コードネーム・ネメオス。新しい仕事だ。12月25日の前後、血鴉の一派が首都で暴動を計画している事が分かった。当日の祭典と関係がある可能性が高いと見ている。君は事態に介入せず、連中の目的と被害状況についての情報収集を頼みたい。ついては、追って詳細情報を送る』
「……バカンス気分って訳にも行か無さそうか。ったく、面倒な事になったもんだなぁ」
彼の肩には現在、2つの任務が同時にのしかかっていた。1つは「降臨祭当日、メリッサの子守りをする事」、もう1つは「降臨祭前後で起こるかもしれない暴動について調べる事」である。
ただまぁ、彼にとって仕事が1度に殺到する事など慣れた話である。そこまで重く考えてはいなかった。
「ニコルは……いや、いい。俺の仕事だからな」
一瞬、この事をニコルにも共有するか迷ったが……何でも抱え込みそうな青年の心中を思って、言わないでおく事にした。




