心当たり
さて、そんな訳で俺は『降臨祭』への出席を確約された訳だが……
「みんなは誰呼ぶの? 両親とか?」
「……」
「ライラ、その質問って結構デリケートな事分かってる?」
「あ……そーいやそうだった。ゴメンやで」
俺は手に持ったチケット二枚を眺めながら思案している。
『降臨祭』は国民的なイベントであるが故に参加希望者が多く、通常では現地参加には抽選販売の入場チケットが必要となる。
しかし、俺達に参加のお触れが出たのは突然だったからか、王様は親切にもお詫びの「関係者枠」チケットを2枚くれたのだ。これで誰かしら、家族でも呼んでくれていいぞとの事。
帰りの輸送車の中は、ライラの質問によって若干気まずい空気が流れている。
カズヤは若干顔を曇らせて黙ってしまったし、ローラは呆れながらライラを窘めている。唯一明るい顔をしていたのはペレーだけだった。
「どうすっかな……うちのチビ共に見せたら、どいつもこいつも『行きたい』って聞かないだろうし……」
「そういえば、センパイって兄弟姉妹たくさん居るんだったっけ」
「ああ、弟が2人で妹が3人居るぜ。どいつもこいつも遊びたい盛りで困るんだよな」
ローラは数秒考えた後、自分のチケット2枚をペレーに差し出して言った。
「じゃあ、これセンパイが持っていっていいよ。ライラもあげちゃえば? どうせウチらの両親なんか、呼んでも来るわけ無いんだし」
「ま~それもそうだね。ハイ、あげるっ」
「おお、恩に着るぜ!」
……待て、今何か変な事言ったよな。
「『ウチらの両親』……って言ったか?」
「え……ニコっち、どうかした?」
「まさかライラ、こいつにまだ言ってなかったの」
「……なるほどそゆことね。理解理解!」
ライラはローラに寄りかかりながら肩を組み、ピースをした。
「あたし達こう見えて姉妹のライラとローラで~す!」
「そうです双子でーす」
「ふたご……はぁ?」
片や金髪に水色交じりのツインテギャル、片や紫髪ショートの無愛想女である。パッと見の印象で言えば似ても似つかないが……
「確かに、言われてみれば同じ水色の眼で……パーツも若干似てるような気がしてきたな」
似ても似つかぬ二人は反応も対照的だった。ローラはため息を吐いていたが、ライラはかえって面白そうにしている。
「この流れ何回目なんだろ……」
「マジでデジャヴってヤツだよね~」
会話を聞いていたカズヤは、静かに頷いていた。
「分かるよ……分かる。僕も最初知った時そんな反応だったよ……」
そう言いながら、彼は自分のチケットを1枚だけペレーに手渡した。
「僕も考えてみたんだけどさ、呼べるような人が1人しか居なくってね。どうせだからペレーにあげるよ」
「おうよ、助かるぜ! これでオレ様の分と合わせて……何枚だ?」
「7枚でしょ、このおバカ。センパイの脳ちっちゃ過ぎでしょ」
「すまんすまん。デカい数を見ると頭がこんがらがっちまってな」
7ってそこまで大きな数か……?
そんなどうでもいい事を訝しんでいると、ライラが俺に喋りかけてきた。
「そういえば、ニコっちは誰に渡すの? そのチケット」
「……まぁ一応、心当たりが無い訳ではない」
* * *
今日は休日。故に大手を振ってBAR「COLD YETI」に帰れる日なのである。
「邪魔するぜー」
「邪魔するんだったら帰ってー……ってなんだ、ニコルか。またサボりに来たのかよ」
「るせー、今日は普通に休日だ」
お決まりのレオとのやり取りを適当に流して、カウンター席に座る。
「ほら、コーヒーを寄こしな。勿論ブラックで」
「はいはい……っとぉ」
俺がコーヒーを所望するから……と半ば俺が買わせたことになっている焙煎機を、レオは回し始める。
すると俺達の物音を聞きつけたのか、2階からけたたましい足音が聞こえてきた。
「ニッ君が帰って来たーっ!」
「ああ、ただいま。今日はちゃんとした休日だ」
メリッサは満面の笑みを浮かべつつ、階下に降りてきた。なんだか、こいつもそろそろ都会暮らしが板についてきたような感じである。最初こそ「ホームシックになるんじゃないか」と思っていた俺だが、要らぬ心配だったようだ。
彼女の腕の中ではミケが丸まっている。クソ猫は俺を見るなり、臭い物でも嗅いだかのようなしかめっ面を浮かべた。
「ケッ、帰って来やがったニャ」
「んだコラ」
「ちょっと二人共……会う度喧嘩するのどうにかなんないの?」
仲裁に入るメリッサ。それを意に介さず睨み合い続ける俺とミケ。
「負けられない闘いがここにあるのニャ」
「もうここまで来たら意地だ、意地」
「嬢ちゃん、いい加減諦めな。どうせこいつらの脳には争いしか詰まってねぇ、獣以下の脳ミソだからよ」
「「誰が獣以下だ!」」
思わずクソ猫とハモってしまった。というか俺はともかく、ミケは少なくとも獣ではあるだろ。
仕方ない、ここは大人しく剣をおさめてやろう。ここで退ける俺のいかに「大人」な事か!
見習えよクソ猫……という風にミケを見下ろした後、今日ここに来た要件に触れようと口を開く。
「今日は俺から二人にお土産がある」
「へぇ、そりゃ珍しい。明日は槍が降るな」
「そこまで言う程じゃねぇだろ。で、そのお土産ってのは……これだ」
俺は関係者用『降臨祭』チケットを取り出した。




