信仰が繋ぐは人のみならず
「『降臨祭』って……『聖女降臨記念日』のお祭りの事じゃん!」
「それ、なんでウチらが?」
「まぁ待ちたまえ、今説明するから」
先程までの「外敵の脅威と、隣国への支援」という話と「『降臨祭』の出席」があまりにかけ離れていて、ライラやローラは疑問を抱いたようだ。王は当然の疑問だと頷きながら、説明を始める。
「まず、前提として『降臨祭』の成り立ちから話そう。その歴史は長く……そうだな、今年でちょうど600年になるはずだ」
現在が新聖暦621年である事を考えると、殆どこの暦が始まった頃から行われている事になる。
新聖暦の始まり……つまりは、『建世の聖女サラ』が降臨した時期だな。
「『降臨祭』は聖女の偉業を称え、民の1年の就労を労うために始まった祭りだ。基本的には4年に1度、このフィスタリア王国で執り行われる事になっておる」
「あれ……でも陛下、8年前の『降臨祭』は行われなかったような気がするんですけど」
「よく覚えているねカズヤ君。そうなのだ……戦争や政争が原因で開催できない年もたまにあるのだよ。長い時を経て、この祝祭は規模を拡大していった。故に、今やいち宗教行事ではなく重大な政務と化した訳だね」
王は手を打ち鳴らし、ここが重要だという風に前置きした。
「政務というのは、何も一国内の事に限らない。ある時を境に、『降臨祭』には他国も関わるようになったのだ。それは……」
「はい、正解は『ソルティリア王国』! どう、合ってるっしょ?」
「ライラ、別に早押しクイズじゃないんだから……」
「おっほっほ、正解だライラ君。そう、聖女が没した国、そしてカーガラ教正教会が存在する国でもある『ソルティリア王国』から、教皇がやって来るようになったのだ」
カーガラ教ってのは、『聖女サラ』を神格化してできた宗教だったよな。別に俺達の国の「国教」と決まってる訳でもないが、日常に深く根付いてる文化みたいな宗教だ。
俺達が何かものを食べる時に、「いただきます」と手を合わせるのもカーガラ教の風習らしいし。
「教皇が直々にやって来るようになってから、我が国とソルティリア王国は良い関係を築けるようになった。あの国とはフィスタリアの南端で隣接しておるからな、この友好関係のおかげで我が国は『国民が戦争を知らない』平和の国となる事が出来たのだ」
ああ、その通り。外の国じゃ結構ドンパチやってる所も少なくない癖に、フィスタリア国民の平和ボケっぷりと来たら……正直異常とさえ言える。傭兵として国外に出る事も少なくない身だからかもしれないが、こういう違和感を持ってる人間はあまり居ないだろう。
「さて、ここまでが前置きだ。何故私が今年の『降臨祭』をそこまで重要視するのか、それは『ソルティリア王国』との関係改善という点にあるのだ」
関係改善……さっき「友好関係」って言ってなかったか?
この場に居る人間の殆どが疑問を抱いた表情になっていた……全て分かった様子のラプラスと、アホ面を晒しているペレーを除いて。
「君達が『何故?』と思っているのが伝わって来るね。関係改善が必要な理由……それは、ここ数年で国外情勢が悪化したことによって、ソルティリア王国との関係も連鎖的に悪化していたからだね」
リキエル王が目配せしたのか、おもむろにラプラスが喋り始めた。
「もう少し具体的に、私から補足しよう。東国での紛争が近年激化し、多くの国が滅んでいっている……そのせいで、大通商国である我が国は経済的大打撃を受ける事になった。増え続ける失業者の問題も、元を辿れば国外情勢が原因だ。ソルティリアとの関係が悪化したのも、我が国が自国の産業を保護するためにかけた関税が原因とされている」
なるほどね。「戦争はカネになる」なんてのは有名な格言だが、度が過ぎれば何事も毒になるように、東国の戦争が周辺諸国の経済を破壊しちまったのか。
「補足ありがとうラプラス。戦争の魔の手が隣国のサン=ダキアまで迫っている今、国防を強化するためにはソルティリア王国との協力が不可欠なのだよ。だから、今回の『降臨祭』を関係改善の足がかりにしなくてはならない」
ここまでで「今回の『降臨祭』が重要な理由」は理解できたな。だが、まだ肝心な「何故俺達がそれに参加しなければいけないのか?」という質問には答えていない。
流石に王様も分かっているようで、続けて口を開いた。
「例年、『降臨祭』では騎士団の1師団を動員してパレードを行う事になっておる。そして、その場では大体ランサー君が旗手を務めていたのだが……知っての通り、彼は今年参加できない。かと言って、『フィスタリア王国側が手を抜いた』などとソルティリアの教皇に思われるような事態は避けなければならん。だからこそ……」
リキエル王は俺達を見た。
「諸君らを『未来を担う騎士団の新星』として出席させたいのだよ」
なるほど、名物の英雄の代替として、俺達を『降臨祭』の目玉枠にしたいんだな。なんか見世物にされてるような気がしなくもないが……
そんな事を考えた矢先、ローラが相変わらずの無愛想な表情で口を開いた。
「それってつまり、ウチらを客寄せパンダにするつもり?」
「ッ……無礼だぞ、ローラ」
「まぁ落ち着きなさいラプラス、構わんよ……確かに、悪く言えばそうかもしれないね。その指摘は長年ランサー君を使ってきた私の耳にも少々痛いがな」
王様は苦笑した。
「でも陛下、良く言い換えれば『今回は僕達に花を持たせてくれる』……とも言えますよね」
「うむ、君たちはそう理解してくれて構わない。ありがとうカズヤ君」
王様は立ち上がり、窓のそばまで歩いて行った。
「今回の『降臨祭』は絶対に成功させなくてはならん。我が国の命運すら左右しかねないからね……」
そして、彼は振り向いた。
「君達が一部で『非正規の部隊』だと罵られている件は知っている。だからこそ、このような重大な仕事をこなしてくれれば……君達の名誉を回復する一助になるかもしれないのだよ。くだらないお節介に思われるかもしれないが、どうかやり遂げてくれたまえ」
王様は元の玉座の位置に戻った。ラプラスがしきりに王様に何かを訴えかけている。
「慣習とはいえ、我が愛息子もうるさいのでな……一応やらせてもらうよ」
王は咳ばらいを一つ、一際張った声で言葉を発し始めた。
「ここに第7代フィスタリア国王、リキエルより、『第五星軍』6名に『降臨祭パレードへの参加、及び国王の身辺護衛』の任を命ずる!」
「「「「「「御意のままに」」」」」」
俺達6人は跪き、慣習の通りに国王からの任を拝命した。
良かったぁ、練習しといて。いきなり抜き打ちテストでやるもんじゃないだろ、こういう儀式って!
『聖女降臨記念日』
聖女が降り立ちし日、世界は不浄の争いに満ちていた。
聖女が分けし甘露を以って、世界の不浄は除かれた。
しかし、世の不浄は絶え間なく湧き上がる。それは穢れた泉の如く。
故に、聖女が常世に楔を打ちし黎明……我ら人の子の心に刻まん。
以上の文言が、「St.サラ記念公園」の石碑に刻まれている。
因みに「クリスマス」という呼称の由来は諸説あるが、最も有力なのは「聖女が自身の降臨日をそう呼称していたから」だとされている。




