動中に動かざるは……
数日後……
「折角の休日だってのに、わざわざ『第五星軍』全員お城に呼び出しなんて、どういう風の吹き回しだぁ?」
「ウチらみんな解雇される、とか?」
「ちょっ、ローラ……縁起でもない事言わないでよっ」
小サイズの兵員輸送車に5人で乗っている。俺の横にはカズヤ、ペレーの二人が居て、向かい側にはライラ、ローラが居る。俺は人混みが好きなタイプではないのだが、人数が多いと、その分喋らなくていいから楽だ。
次にカズヤが口を開いた。
「『第五』全員って……ラプラスが居ないと思うんだけど」
「ラプの字はどうせお城に居るんじゃねーかな。だって、アイツの家みたいなもんだろ?」
「まぁプリン君、王子様だからね~」
第五星軍のリーダーを自称してる、ラプラス……アイツが王族って事は前にライラから聞いたが、こうやって喋ってる限り周知の事実なんだろうな。
そうこうしているうちに、輸送車は城の門に入った。跳ね橋が作動し、輸送車がその上を走っていく。車両が屋内に入ったかと思えば突き当りで停止した。前に俺が城に来た時は、こんなルートは通らなかったが……
「そういえば、このリフトってメンテナンスしてるのかな……ちょっと老朽化怖くない?」
「分かる。確かに前来た時、揺れが強くなってた」
「ええ、怖いよそれ!」
眉をひそめるカズヤをよそに、輸送車が揺れる。いや、正確には輸送車が乗っている「床」が揺れているのだった。どうやらこの設備は車両用昇降機らしい。結構古い城に見えるのに、内側は割と機械化されてるっていうか、便利なようだな……というか前に俺がこれに気付いていたら、クソ長い階段を上る必要も無かったのでは……?
30秒程ゆっくりと上昇すると、昇降機は安全に停止した。確かに少し揺れたがまだ故障してはなさそうだ。
「ふう、怖かったー」
「相変わらずビビりだなぁ、あたし等なら最悪飛べるんだし何とかなるくない?」
「『最悪それができる』からこそ、心の準備をしなきゃいけないんだよ……ほら、僕の能力ってちょっと発動に準備が要るし……」
車両は少し上層の敷地を進むと、謁見の間がある棟の目の前、中庭まで来た。ここから先は徒歩で進むらしい。
* * *
今回行く場所は謁見の間とは別のようだ。道を知っている様子のライラ達について行きながら、建物の奥に向かう。そこそこ長めの廊下を歩くと、前方にひときわ大きなドアが現れた。
「玉座の間……?」
「わっ、さっきまでダンマリだったニコっちが喋った!?」
「そっか、ニコル君はここに来た事無いもんね。まぁ僕達もそんなに来る場所じゃないけど……」
「やっと来たか貴様ら」
背後から声がした。そこには眼鏡黒髪の、最近やっと見慣れてきた人物が立っている。
「げっ、プリン君もいつの間に!?」
「先程から居たのだが、気が付かなかったのか?」
「まぁまぁ、仕方ねぇよ。なんせラプの字は影が薄いからなー」
「ふん、明らかに誉め言葉ではないな。このクソアホ筋肉は後で処すとして……」
ラプラスは不機嫌そうにしながら一行の前に出る。彼はデカい両開きドアの前に立つと、振り返って口を開いた。
「私が付いているとはいえ、これから陛下に謁見するんだ。いつも通り、それ相応の節度をもって臨むように」
「分かってるよラプラス、わざわざ毎回言わなくても大丈夫だって」
「あたしら、それ耳にイカが出来る位聞いたってば」
「ライラ……『イカ』じゃなくて『タコ』ね」
ラプラスは心底不安だと言いたげに、ため息を吐いた。
「まぁいい、準備ができたなら扉を開けるぞ……陛下! 第五星軍、ここに参上いたしました」
「おう、入り給え」
扉が開け放たれる。玉座の間は謁見の間よりもひと際大きかった……例えるなら、謁見の間が会議室くらいの大きさだったのに対し、玉座の間は教会のメインホールくらいはありそうだ。リキエル王は一番奥の玉座に座って待っている。
「うむ、ちゃんと6人いるようだな。立ち話をするのは何だし、君達にも椅子を持ってこさせよう。本来は謁見の間で話しても良かったのだが、ラプラスが『儀礼行為を兼ねるのですからちゃんとしてくれ』と聞かなくてな……」
王は使用人に命じて、人数分の椅子を持ってこさせた。謁見の間で座ったのと同じ、ちゃんと高価そうな椅子だ。
とりあえず、俺達はそこに座った。だだっ広い大広間に椅子が6つ並んでいる様は、傍から見れば少しシュールだろう。
「わざわざ諸君らを呼んだのは他でもない、大事な連絡事項ととある任に就かせるためでな」
王は憂鬱を湛えた目で、窓の外の曇り空を見た。
「結論から言おう。隣国の『サン=ダキア』でついに戦争が始まろうとしている……それに対して、我々は最低限だが条約に基づき支援を行う事になった」
「支援っていうのは……『緋戴友好条約』に基づいた……」
「そうだ、その通り」
『緋戴友好条約』……政治に疎い俺でも聞いた事があるレベルの条約だ。
『緋』ってのは俺達の国『フィスタリア王国』を表す文字で、『戴』ってのは隣国『サン=ダキア大公国』を表す文字だ。簡単に言えば二国間の友好条約って訳だが……確か具体的な条項が細々とあるようで、流石にそこはあまり覚えていない。
覚えているもので言えば、例えば「フィスタリア王国での連発銃生産禁止、及びサン=ダキアからの銃器等輸入の制限」って条項があったりする。サン=ダキアは世界有数の工業国で、兵器産業も活発だ。現在世界で連射銃もとい「機関銃」を大量生産する技術を有しているのは彼らだけである。その技術が世界最強格の騎士団を持つ我々に渡ってしまうと、世界全体の均衡が危うくなる……だからそれを防ぐために作られた条項ってわけだ。
大昔、フィスタリア王国とサン=ダキア大公国は戦争をした事があるらしい。どちらの軍隊の規模も大きく、勝敗が簡単には付かず、結局戦況は泥沼化したようだ。この友好条約はその反省から作られたもので、基本的に両国の安全保障を目的としている。
「今回は『サン=ダキア』から直々に救援要請が届いてな、既に議会の承認を通してある」
「意外……ですね、てっきり議会は反発するものだと思ってました」
「いくら脳の足りん議員連中でも、流石に他国を敵に回す真似はしないはずだ。金に目のくらんだ政治屋としては妥当な判断と言える……そうですよね、父上」
「やはり君は鋭いな、ラプラスよ」
王は笑顔で頷いた。見た感じ、割と親バカの類らしい。
「それで……王様があたしらを呼んだのは、その戦争にあたしらを送り込むためだったり?」
「いいや、諸君らを前線に送るのは時期尚早だからね。援軍に出す師団はランサー君に任せようと思っている」
へぇ、騎士団長を直々に送りつけるのか。王はこう軽く言っているが、東国の戦況は実際ヤバい事になってるのかもしれないな。そうでもないと、騎士団の統率の要なんて「切り札」を出そうとは思わないだろうし。
「だから、今日はそれに関連した頼みがあるのだ……」
リキエル王は俺達の目を一人ずつ見てから、言葉を続けた。
「諸君らには、1ヶ月後に迫る『降臨祭』の式典に、ランサー君達の代わりに出席してもらいたい」
『サン=ダキア大公国』
フィスタリア王国の隣、真東に位置する工業国。
山岳をくり抜いたような地形に位置しており、古くから天然の要塞として恐れられてきた。
とある時期の技術革新によってオーパーツと呼べるほど銃器系技術が発達しており、近代兵器で固められた軍隊は高い戦力を誇る。
フィスタリア国内で使われる家具や車両には絶対と言っていい程、何かしらサン=ダキア産のパーツが使われている。




