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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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翠の開眼

まさかまさかの深夜更新です

突如現れた筋骨隆々の男の写真を前に、ツッコミどころは色々とあったが……


「なんでボディビル雑誌(こんなもの)がここにあるんだ……?」


紫髪の女もといローラは、目を背けたまま喋り出した。


「それ、ウチの私物なの。誰にも見られたくないし、かと言って自分の部屋に置いてても……ライラとか入ってくるし。だからここに隠してた」

「まぁ、確かに……こんな書庫に来る人間は滅多に居ないだろうが」


なんだ、その……話を聞けてはいるんだが、ローラは一向に襟から手を放してくれない。というか手が離れる気配が無い。振りほどくように少し身体をねじってみても、掴まれている部分はびくともしなかった。例えるなら、めっちゃ出力の強い掃除機で吸われてるような感覚だ。


「それを君は盗み見たの。他人の秘密に易々と踏み込んで……君をこのまま帰す訳にはいかないよね」

「……」


俺はこの筋肉雑誌に欠片も興味が無いというか、そもそもローラに言われて初めて存在に気付いたというか……どう考えても勘違いされているみたいだ。

この状況に既視感があった。そうだ、ハリーの部屋に隠されてたエロ本を初めて見つけた時、アイツもこんな風に自分から説明して墓穴を掘ってた気がするな。それ以来吹っ切れたのか、変な露出癖でも発現させたのか、スケベ心を隠す事すら無くなったが……


とりあえずは、だ。説明したら分かってくれるかもしれない。


「待ってくれ。俺は調べ物に来ただけであって、お前のプライバシーを侵害しに来た訳じゃない。しかも、お前が来るまでこの雑誌に気付いてすらいなかったし、見つけたとしてもお前の私物だとも思わなかっただろう」

「……」

「それら全ての情報は、お前が今自分で説明したんだ。だから、俺は秘密に踏み込んだというより、むしろ開示されたっていうか……」

「……そっ」


首元を掴む力が小さくなった。よし、やっと解放され……


「そんなのっ、し、信じられる訳無いし……!」

「おわっ!?」


さっきまで掴まれていた首元に、一陣の強風が吹いたような感覚。俺の身体は後方にすっ飛んで、前屈する寸前のような姿勢で背中から壁に衝突した。身体が痺れる……


「ッ……テテ」

「……ああっ、もう!」


ローラは地団駄を踏んだ。顔合わせの時にずっとダルそうな顔をしていた彼女だったが、その面影は今や消し飛んでいる。彼女の怒りの対象は俺……というより、理不尽な世界の運命の方だろう。


俺はそのままそこで座って、本棚に雑誌を押し込むローラを見ていたが……


「どっか行って!!!」

「あ、はい」


鬼のような形相で叫んできた。


俺はそそくさと書庫を去り、鉄扉の外に出た。




* * *




「ありがとうございました~って……あれ?」

「あの人、いつの間に中に……いや、気のせいかな?」


ヤベヤベ、早く出よう。


勢いのまま1階まで駆け下り、受付をすり抜けて、無事兵営図書館を脱出する。結局、俺の不法侵入はバレずに済んだようだ。


あの女(ローラ)に見つかった時は、徽章を持ってない事を看破されるかと思ったが……杞憂だったな」


それどころか、アイツ、焦って自分の弱点を晒しやがった。正直あんな雑誌、恥ずかしがる程のもんでもないような気がするが……それは似たようなオカルトジャンキーの(メリッサ)が身近に居るからだろうか。

まぁ、少し『龍腕』の事を探りに来ただけなのに、棚ぼただな。いつかこの知識が役に立てばいいんだが。






* * * * *






「教主、伝令です」


同日の11月15日……某所にて。


「……ふむ、結構だ」


強面の男は、薄暗い部屋で座りながら伝令書を確認した。瞑目しながら頷いた後、彼は立ち上がる。彼は背後の円卓に座る幹部たちに向かって、語り始めた。


「諸君、ついに運命の(とき)がやって来る。我々の苦節10年……全ての事業は、この瞬間の為にあるのだ。『跋扈す強者を除き、弱者の為の桃源を創る』……我々の理想が……」

「あのぅ、教主様。また演説癖が出てますよ~」

「さっさと会議を始めてくれよなー、頼むぜー」


すみれ色の髪の少年と、赤髪の男性がぼやいている。

幹部の声を聞いて我に返ったスキンヘッドの男性は、いくつか咳ばらいをして円卓へ向き直った。


「失礼した。気を取り直して、本日の教団会議を始めさせてもらう。本日の議題は、一ヶ月後に迫る『特別巡礼』についてだ」


教主に合わせて、幹部の4名も首元のネックレスに手をやった。そこには同じネックレスが着けられていて……その宝石の色は、教主の眼と同じ翠である。


「決行日は12月25日、聖夜の『降臨祭』だ。この日を世界は記憶に刻む事になるだろう……」


教主を名乗る男性の翠の目が、薄暗闇の中で怪しく輝いていた。


「我ら『宗教結社マラカイト』の血塗られた革命と、反撃の夜明けを……ッ!」

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