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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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本の虫、火中の虫

それからしばらくして。


「どうやら、ここの事件資料にはもう役に立つ情報は無さそうだな……」


ここに置いてある中では最新の記録まで辿り着いてしまった。遡ろうと思えば、100年以上前の「類似事例」を探す事も可能ではあるんだろうが、流石にキリが無いというものだ。そんな事するのは、時効直前の未解決事件を死ぬ気で追う刑事くらいのもんだろう。


結局、手掛かりになりそうなのは「『龍腕』と『ドラゴニアの龍神』の類似性」くらいか。

一番理想なのは、俺直々にドラゴニアまで出向いて、『龍神』のねぐらまでカチコミをかける事だが……さしもの俺も、一国を敵に回すような行為はしたくない。最悪、辿り着くまでに俺の首が飛ぶだろう、物理的に。そもそも現在進行形の戦争で征服下にあるなら、まともに入国する手段も無いかもしれないし。


せめて何か書物でもあればいいんだが。ドラゴニアに関する史書を探すなら、この図書館の1階に置いてあるかもしれない。


「……ッ?」


封鎖書庫から出る為に、入り口の鉄扉まで戻ろうとした俺……しかし、何か物音がした事を感知した。鉄扉が閉じる音、近付いてくる足音……

丁度、誰かがこの区画に入って来たのだ……!


すぐさま身を隠す俺。


「あれ、棚が……動いてる。誰か居たの?」

「……」


女の声がする。


第五、第四星軍くらいしか入れないんなら、そうそう他の人間が来る事も無いだろう……なんて高を括っていたが、見事に当てが外れた。

今の俺が見つかるのはマズいかもしれない。なんせ、徽章なしで不法侵入した訳だし、万一それがバレたら叱責は避けられないだろう。いや、叱責はどうでもいいんだが、こう……連続して問題行動ばかりしていると、今度こそラプラスに何かしらの処罰を下される可能性がある。


落ち着け、ニコル・オーガスト。お前はなんだかんだ今まで上手くやってきた。お前にとっちゃこんなピンチ、ガス室に閉じ込められた時に比べりゃ屁でも無いだろう。

そうだ、どうせ逃げられないんなら、奴に認識される前に顔面ぶん殴って気絶させ……いやダメだ。そんな事したら処罰どころか刑罰が下る。


「ま、いいや」


女の足音がどんどん近付いてくる。


認識されるより先に、逃げ去るしかないか。

この書庫に来た以上、女は何かしらの書物を目当てにしているに違いない。こんなにたくさんの棚があるんだ……目当ての書物の為に右左折して、本棚に気を取られるタイミングが生まれるはず。その隙を突いて逃げ去れば、少なくとも俺が何者なのかがバレる事は無い……と願いたい。


「あれ、まさか……」


何かに気が付いた様子の女の声。足音は早く、どんどん近付いている。


おいおい、100架も棚があるってのに……まさかピンポイントでここに来る訳……!?


駆け寄る女の、紫の髪が見えた。


「……ホントにここに誰か居た……?」

「ッ……」


さっきまで俺が居た所を紫髪の女が覗き込んでいる。咄嗟に本棚の物陰に隠れたが、角度で見えなくなってるだけで、このまま女が前に進めば見つかるのは時間の問題だ。

しかし、幸運な事に、女の注意はすぐに本棚に向いた。


「……はぁ、良かった。持ち出されたりしてない」


女は本棚をガサゴソと漁った後、何か本を手に取って安堵したようだった。そのままそれを開き、読み始める。よし、逃げるなら今だ……!

俺は、足元に落ちていたファイルに気付かなかった。


「あっ……!」


立ち上がり際に思いっきりファイルを踏んづけた俺は、そのまま後方へと重心を崩し、したたかと腰を打ち付けた。そして、いきなりの轟音転倒に女が気付かないわけが無い。


「誰!?」


こうなりゃヤケだ。走って逃げるしかない。俺は再び立ち上がって走り出そうとするが、身体が後方に引き摺られる感覚を覚えた。この感覚、前にも……

女の手に引き寄せられ、捕まった。俺の顔を見ると、女は安堵したとも、不快に思ったとも、どちらとも取れる複雑な顔をした。


「……なんだ、誰かと思えば。新入りの」


紫髪の女は、同じ第五星軍の女の無愛想な方、もといローラだった。

最悪のパターンだ。まだ会った事のない第四星軍の人間ならまだしも……第五星軍の連中は俺の顔を知ってる上に、俺が何か問題行動を取った場合確実に上に報告が行く。今から他人のふりで誤魔化すなど、階級閲覧制限のある封鎖書庫内では不可能だ。


「何してた?」


ローラの冷たい声が語りかけてくる。掴まれた襟首はまるで接着剤で接合されたかのように、恐ろしい力で彼女の手に吸い付いている。振りほどこうとしても無駄だろう。一体どういう原理だ……これがコイツの「能力」か?


「す、少し散歩を……」

「……んなワケないでしょ。まぁ、そんなのウチからしたらどうでも良いけど」


咄嗟に口をついて出た頓珍漢な言い訳に、ローラはため息を吐く。まさか「『龍腕』の手掛かりを探すために来ました」なんて言えるわけも無いからな。それはそれとして、言い訳のチョイスはミスったが。

真面目な調子で彼女はそのまま続けた。


「そんな事よりさ、君、まさかとは思うけど『見てない』よね?」

「な、何をだ……?」

「『見てない』かどうかを聞いてんの、質問に質問で返さないで!」


この女は何を言っているんだ。一切分からん。って、俺の襟首を掴む力がどんどん強くなってる……このままじゃ首が締め上げられるだろう……!

とりあえず何か答えよう。さもなくばこんな所で窒息死だ。


「も……もし、『見た』って言ったらッ?」

「え……見たの?」


揺さぶるつもりで曖昧な回答をしてみる。すると、ローラの表情が見るからに動揺した風に変化した。そして、さらに掴む手の力が強くなる。


「ちょっ、イタタタ……ッ!」

「『見た』んなら、残念だけど、生きて返す訳にはいかなくなる……ッ!」


ちょ、逃げられない。待て、コイツ本気(マジ)に首を絞めにかかってないか!?

流石に命の危険を感じ、能力あるいは『龍腕』で抵抗しようかと思ったが……俺の思惑とは逆に、掴む力が次第に緩まっていった。


「はぁ……いいや、諦める。だけど、これだけは約束して。ウチがこっそり書庫に隠してるコレの事……誰にも口外しないで!」

「これって……」


とんでもない機密文書、あるいは諜報員の極秘命令書……そんなものを想像して見たそれは……


「『筋肉月刊』……???」


ボディビル雑誌だった。


うん、なんだこの、何……?

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