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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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龍の古傷

毎日投稿努力週間です

報告書には次のように書かれていた。


「『非合法医療カルテルに所属する46名の死体が発見、11名が行方不明』……『現場の破壊痕から魔力残滓は検出されなかったため、衝突には大規模破壊兵器が用いられたものと推定』……なるほどな」


いや、正直期待はしてなかった。だろうな……ってのが俺の感情だ。


『龍腕』の機能はシンプルで、「魔力を消費しない物理破壊」と「圧倒的な防御力」……つまり滅茶苦茶強い腕ってだけだ。現場証拠から分析しても、爆弾か何かを使ったのと大差ない破壊痕しか残ってない。最初から『龍腕』を疑わないと、選択肢にすら入りえないのである。


現場痕跡から頑張って捜査もしたようだが、証拠不十分って事で事件は迷宮入り、報告書の種別も「未解決」に分類されたようだ。


「はぁ……」


自分のしでかした悪行が、治安維持組織にバレていないのだ。ここは安心しても構わない場面のはずだが……俺の心持ちは少し複雑だった。




* * *




619年12月3日。「『ガルフライ』壊滅事件」が起こった……いや、俺が起こしたという方が適切か。


「『ゼロ』、貴様ッ……何勝手な事してくれやがった……ッ!」

「若頭ッ! さっさと逃げましょう、警察(ポリ)が来ますッ!」


目を閉じれば、今でもその時の惨状を思い出せる。存在しないはずの声が、俺の脳内をガンガンと叩いているようだ。


「ハハ……ッ……フフッ、ハハハ……ッ……」


手術台の横で、ガキの死体を抱えたまま、血みどろの床にへたり込む俺。その口から漏れ出るのは、やりどころのない無力感と自嘲の笑いだけだった。

首元を掻っ切られた少年は、既に失血で即死していた。今となっては不可抗力だったかもしれないが、俺が罪のない幼い命を自ら奪ったという事実に、変わりはない。


その少年の死に顔が、今は亡きかつての親友に重なって見えた。


その時気付いたのだった。俺と「血鴉」(ヤツら)に……何の違いもないと。




裏社会で幅を利かせていた「臓器売買カルテル」、その名も「ガルフライ」。取引相手となるはずの彼ら70名程度と、1人の民間人のガキを……その日、俺は皆殺しにした。

動機は大した事ない、俺の個人的感情だ。それ故に、俺は「自分の本心」から取り返しのつかない事をしでかした。


俺の世界から「正義」という信念が消え失せたのは、その日からだ。




* * *




我に返ると、俺は書類のファイルを床に落としていた。


「……しっかりしなきゃな」


諦めるにはまだ早い。気を取り直して、ファイルの前後で気になる情報が無いかを探していく。

しかし、一度過去の傷を直視したからか、脳内に響き出した声が止むことは無かった。


思い返せば、俺が『龍腕』を本格的に使うようになったのは、619年11月10日以降……師匠が死んでからだった気がする。

それまで何をするべきか、自分の信じる「正義」を導いてくれる人がいた。だからこそ俺はどんな逆境に追いやられても、自分自身の心を信じて戦う事が出来たし、間違いを犯したときはそれを間違いだと叱ってくれる人がいた。


でも、もうジグ先生は居ない。


自分の全ての責任は、自分の命で代価を支払わなければならないのだ。


「事件番号620-0103-03……『未解決』。620-0106-40も『未解決』か。どれも同じような内容で、『破壊痕は619-1203-54事例に酷似』……」


さて、620年に入ってから、流石の騎士団も違和感に気付き始めていたようだ。『龍腕』という名前は依然として出て来ないものの、この調子だといずれ手掛かりの一つや二つ見つけてもおかしくない。


「事件番号620-0822-23……去年か。確かに、この時俺は首都(ティアーズヒル)に居たはずだな。どれどれ……」


報告書の末尾には、こう書かれてあった。



『破壊痕αを調査したトミオ・アラタメ教授によると、旧ドラゴニアの龍神の足跡に亀裂パターンが近似するとの見解。検証の必要性有り』



「へぇ、ドラゴニアって……つい最近滅んだ国だったよな。確かに『龍神』って名前は聞いた事あるな」


俺は政治に明るくないから、フィスタリア王国の東でずっと国家間紛争が起きてる事くらいしか理解してないんだが……聞いた話によると「一体の『龍神』の帰属を巡って」一生争いを続けてるらしい。

そもそもドラゴニアって国自体が「一体のドラゴン」への信仰から成った国だったっけ。権力闘争だか、相続問題だかは忘れたが、ひょんなことから分裂した国同士がここ数百年間ずっと戦争を続けているのだ。「信仰」って行為に理解のない俺からすれば、そんな事で殺し合う理由が分からないんだが……


俺がその『龍神』を見た事は一度も無い。写真すらもだ。どうやら『龍神』の神聖性を保つためか、ドラゴニア侯国はその情報を最高機密に指定してるらしくて、写真を撮るだけで死罪だったか……そういう重い戒律があるらしい。


まぁそもそも、ドラゴニアって国の話を聞くまで、そんなファンタジー生物の存在なんて信じてなかった。「永遠を生きる、巨大な翼の生えた火を吹く爬虫類」……一般的にドラゴンと呼称されるそれについて、「恐竜が絶滅してんだから、そんなの居るわけ無いだろ」とか幼心に思っていた昔が懐かしい。


『龍神』の見た目こそ知らないが、俺が『龍腕』と呼称するこれと何か関係があるかもっていうのは、理にかなった推論だな。問題は、件のドラゴンについて調べる手段が一切無い事だが……

『ドラゴニア侯国』


つい最近、とある国によって征服された「龍の国」。

炎龍信仰による国民意識の統合を行っている、という特殊な組成の国で、その歴史は非常に長い。「神」に等しい存在が身近に居るため、他の宗教は全くと言っていい程浸透しておらず、何ならやんわりと他の宗教を見下してすらいる。

国家の根幹が「龍神」の機嫌に左右されるため、政情は割と不安定。竜盟四選帝侯による時代遅れな貴族政を取っていたり、王権が「龍神」関連の儀礼に従事する「象徴」としての役割に落ち着いていたり、何から何まで異質。

その様を見たパルムジカ共和国の学者には「人ならざる龍の治める国」とディスられている。

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