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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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抜き足差し足勇み足

彷徨う事5分、階段が入り口に近い所にあった事にやっと気付いた俺は、堂々と2階へ登っていく。受付の2人からも見えてないはずだし、今の所不法侵入がバレてはいないはずだ。


なんだろう、こんな侵入はいつも裏の仕事でやってるっていうのに……俺は今、心地よい緊張を感じている。絶対にバレてはならない環境でやるからこそのスリルだろうか、と分析するも、俺自身変な癖に目覚めたんじゃないかと不安になって思考を止めた。

それって路上でリトルブラザーぶら下げてる露出狂の思考じゃんよ。


「……2階も広いな」


売り物でもないのにこの量の本……流石、歴史ある騎士団の書庫って感じだ。階下の一般書籍の類でも相当昔の本が置かれてたりしたもんな。焼損とかした事がないのかもしれない。兵営の中にあるからか他の図書館に比べてセキュリティが万全なのはそうだろうが、それでも凄い事だ。


さて、普通に読書して1時間を無駄にしてしまった俺は、さっさと目的を達成しなくてはならないと内心焦っていた。今にも通信機がアラームを吐いて、犯罪者の鎮圧に駆り出されるかも分からないんだからな。暇な時間は今だけだ。


「それに……今の俺がやろうとしてる事って、ある意味『悪魔の証明』だもんな……」


騎士団が俺の『龍腕』についての情報を持っているかどうか、それを調べに来たのだ。だから当然、書庫に来てみたところで本当に資料があるかどうかも定かではない。つまり完全に調べ尽くすつもりなら、この量の書物を全て読破する必要が……


ダメだ。先程気が付いたこの事実に、俺は眩暈がしてきた。


「とりあえず今日の所は、何か見つかればよしとするか。情報が見つかりそうな書類にアタリを付けよう」


確か、聞いた話によるとこの書庫では「騎士団が鎮圧に参加した事件」に関する報告書を纏めて保管してあるらしい。この前、俺がコンビナートの工場で戦闘した時にも報告書が書かれていたが、アレと同じようなモノが大量にあるんだとか。


本音を言えば警察庁本部に置いてあるだろう資料の方を調べたかった所だ。騎士団が関わった事件より、警察が関わった事件の方が当然多いだろうしな……その分あっちの方が数も多い。当然『龍腕』について書かれてる資料がある確率も、あっちの方が高いだろう。


「ま、そんな贅沢は言ってらんねぇよな……警察なんか出入りがもっと面倒だし」


そんな事を考えながらフロアを歩いていると、目当ての区画に着いた。


「ここ……だよな?」


目の前には格子と綺麗な鋼鉄の門があり、道は閉ざされていた。取っ手を引いてみても、びくともしない。少し力を強めてみたが……破損するのが怖いので止めた。


「鍵が必要なのか……あった、ここに入れるらしいな」


腰あたりの高さに鍵穴のようなスロットが3つあった。内側をよく見てみると、それは通常の鍵穴とは違う、奇妙な形をしていた。この形を俺は見た事がある……


「真ん中のスロットは、『第五星軍の徽章』と同じ形だな……」


左のスロットが第四星軍、真ん中のスロットが第五星軍の徽章の形になっている。右のスロットの形は見た事が無いが……おそらくその他の人間が入るための鍵なのだろう。


確かに、事件記録資料の閲覧に相応の権限が必要なのは道理だ。特定の人間しか入れない様に、わざわざ区画を切り離しているのか。

幸い俺も第五星軍だから、中に入る権限を持っている。第五星軍は一部の部隊に「お飾り部隊」と愚弄される事もあるが、騎士団内で最高位の権限を持つのはれっきとした事実だ。ただ……


「また『徽章』かぁ……」


肝心の徽章がねぇ。どうすっかな……


無意識のうちに通気口を探すも、見つからない。流石にここは図書館の外壁と違って、一段と厳重に守られてるらしいぞ。いっそのこと門を壊して……


「いや、別にここが無人ならそんな事する必要無いか」


俺はスロットに手を当てて、魔力を起こす準備をする。


「【氷細工(アイスワークス)形状(シェイプ)……」


記憶を辿り、割と気分次第で持ち歩くかどうか決めてる、あの大切な徽章を思い浮かべる。五本線で描かれた五芒星。中心の円錐状の隆起。土台の楕円形は縦直径4.2cm、横直径2.6cmで大体黄金比。最高高度と最低高度の差は……


「よしっ、開いた……!」


精巧に作られた徽章のレプリカにより、スロットがカチッと回る。門の固いロックが外れ、取っ手を軽く持っただけで開くようになった。

誰も見ていないだろうが、一応気配を殺しながら中に入る。


「外からじゃ見えなかったが、よく見たら非常用アラームまで付いてやがる……無理矢理突破したら作動してただろうな。危なかった」


こんだけ苦労させたんだ、何にも収穫が無かったら恨むからな。


先程までの図書館面をした本棚たちと違って、ここの棚はすべて金属製だ。下にレールもついている。書物の量が量だからか、こういうスライド式の本棚を採用しているのだろう。確かに、このタイプの棚は多くの書類を保存できる。


「ただ、多いとその分探すのに時間がかかるんだよな。どこから見るべきか……」


騎士団が『龍腕』の事を知っているとしたら、それはどういう経緯か。「俺が証拠を残していて」かつ「その事件鎮圧に騎士団が関わっている事」が条件となる。逆に言えば、この二つを満たしてさえいれば、何かしら騎士団に記述が残っている可能性が高い。


ロべ爺にも再三注意されているから、常日頃から証拠を残さない様に気を付けているんだが……どうしても痕跡を残してしまう事はある。心当たりがあるとすれば、619年……


「事件番号の最初の三桁は、新聖暦だったはずだ。619、619……あった。この棚だ」


俗に「『ガルフライ』壊滅事件」と俺達が呼称するそれは、かつての事件、そして俺にとって指折りの「やらかし」だ。この事件があったのはいつ頃だったか、確か冬頃だった気がするんだが……

そうして探す事10分、目当ての報告書を見つけた。


「事件番号619-1203-54、これだ。種別は……『未解決』」


619年、俺の全てが終わりを迎え、同時に俺の「復讐」が真の意味で始まった年だ。

俺は、あまりこの年を思い出したくはない。

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