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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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時代の描き手、人それを英雄と呼ぶ

こう見えて俺は、実のところ結構本を読むタイプである。師匠の教育方針が座学中心だったからなのもあるだろうが、昔からの習慣で活字に向き合うのは慣れているのだ。


今手に取った兵法書も……まぁ何処かで読んだことがあるような内容だ。そもそも兵法書に限らず世の心理に関する本の類は、内容を突き詰めれば「生死、人間関係、自己啓発……」だの、どれも似たようなテーマばかり扱うものだからな。衝撃を与えるような書物になかなか出会えないのも、仕方のない事かもしれない。


「お、これは……」


そんな中で割と目を引く書物が一冊あった。


「タイトルが無い……出版されてないタイプの本か……?」


しっかりと製本されているものの、背表紙にも出版社表記が無い本が一冊。割と新しめだ。おそらく王家の研究員が書いた論文を保管しているものだろう。なぜそんなものがここにあるのかは分からないが。

パラパラと中を見てみると、凄い量の文字がびっしりとあった。これを全て読むのは骨が折れそうだな……と、俺は目次を見てみる事にした。


なるほど、ざっくりと纏めると我が国の国防に関する歴史分析書のようだな。だが、目次の時点で奇妙な章が一つ存在していた。それも……


「『ランサー・ガノーシュの登場』……?」


ランサーってあの、第四星軍所属の、入隊試験で戦ったクソ強いおっさんの事だよな……?


この手の兵法書で、特定の個人名が出てくるのは極めて珍しい事だ。それも存命中の人物だというのだから、なおのこと。

試しにその章の前後を流し読みしてみる事にした。内容は大体、次の通りである。






遥か昔、「能力者」の登場によって戦場のバランスは大きく変わり、どちらがより多くの「能力者」を有しているかで勝敗が決まる程だった。「能力者」は文字通り一騎当千の戦力を持つため、無能力の兵士では太刀打ちできない存在だった。


しかしある時、魔石を利用して「無能力者でも疑似能力を使う事を可能にする杖」を開発した者が居た。フィスタリア初代国王ユーゴ・アンドレの側近、エマ・トルビオン女史である。現在その技術は「汎用魔法」として兵器化され、素質ある無能力者の兵士を中心に大量配備された。


こうして生まれた新たな潮流は戦場を劇的に変化させていく。魔導騎馬兵の登場、魔法銃の発明、空挺用魔導砲の開発……時代と共に新たな戦術が生まれては廃れていく。しかし、魔法杖の開発からずっと「汎用魔法兵で前線を固め、後衛の能力者を守る」という「射撃戦」の様相が変わらなかったという点においては、大きな変化が無かったと言えよう。


そんな状況が百年以上続いたが、一人の男の登場で、戦場のパラダイムシフトが起こる。そう、ランサー・ガノーシュの登場である……

ランサー将軍は無能力者ながら、若くして従軍した「ロブズ・ランパート動乱」から本稿執筆現在に至るまで、長槍一つで輝かしい戦功を挙げてきた。彼の類まれなる身体能力は研究の対象となり、結果として「波導力」が原因と分かった。そしてなんと、その高効率の生命エネルギー運用には再現性がある事が判明する。


ルーダン・エトワル博士により確立された「身体強化法」は、魔法の才が無く戦場で肉盾にしかなれなかった一般兵達に新たな役割を与えた。騎士団参謀本部もこれを見て、従来の「射撃戦」型の布陣から、兵士による白兵戦を主軸とした「電撃戦」型の布陣への転換を図る事になる。以前まで「砲台」として後衛に配備されていた「能力者」が、今日では最前線で「破城槌」の役割を果たし、戦場で機先を制する役割を果たしている……






「要するに、昔から『遠距離チクチク戦法』で戦ってたのに、兵士の身体が途端に強くなったもんだから『近距離ゴリ押し戦法』が通るようになって、メタが変わった……そんでそのきっかけは一人の英雄(イレギュラー)が原因だよ……って事か」


そんな歴史があったとは……ってか、改めて見ても凄い話である。あのおっさん、名前だけは前から知ってたけど、こんなヤバい人だったとはな。そりゃ試験の時、ぽっと出の俺が引き分けまで持ち込んだのにビビられた訳だ……


というか、文中に出てきた「ルーダン・エトワル」って……なんだ、何処かで聞いた事あったような気がするが……クソッ、人名を覚えるのは苦手なんだ。覚えてるわけがない。


「兵営の書庫なだけあって、結構面白い本が置いてるもんだな……」


そうして、俺は次々と面白そうだと思った本を手に取って、パラパラと読んでいった……




* * *




どれくらい経っただろう、少なくとも一時間は経過しただろうか。


「いや、本来の目的忘れてんじゃねーか!」


我に返ると共に、思わず叫びそうになって、慌てて自分の口を押さえる。図書館ではお静かに。


読書に夢中で「騎士団の『龍腕』にまつわる書類を調べる」ってミッションを忘れていた。俺とした事が、なんという失態。自分の興味や心理を優先して道から逸れてしまうってのは、俺のずっと治らない悪い癖だな。


「何でもいいんだ、書籍や雑誌に限らずとも、事件関係書類とかでも……」


この辺りはおそらく書籍しかないコーナーだ。それよりももっと重要な書物を探さないと。ロビーでフロアマップを一瞬見た時、2階の奥側にそれらしきエリアがあったのは見たが、そもそも2階への階段は何処にあるんだ……?

『ランサー・ガノーシュ』


英雄。人外人間。ついた二つ名が「千軍騎兵」。

「鬼に金棒」と同じ文脈で使われる、「ランサー将軍に長槍」というスラングがある。また、漫画「仮面騎士レッドヘルム」の主人公のモチーフだったりもする。


「単体で1個師団以上の戦力を有する、代えがたい戦力」という要件がある「第四星軍」の6名の中で、唯一の無能力者。それでかつ、王国騎士団全てのトップの団長でもある。

全盛期はとうに過ぎてしまったが、それでも未だに前線で槍を振るっている豪傑であり、彼に憧れる者は騎士団内外を問わず数え切れない程。

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