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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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未知を求めて

出かけたのなら、帰り道もある。予定より早かったが、メリッサが俺を心配してばっかりでお散歩どころじゃなくなったので、BARに帰る事にした。


俺は隣のメリッサを見た。彼女はいつも通り、何が楽しいのかさっぱり分からないが……変わらず笑顔で歩いていた。その足取りは軽やかで、誕生日に玩具を買ってもらったガキの帰り道のようだ。

俺はそもそも他人の気持ちを推し量るのが苦手だ。しかし、この女に関しては輪をかけて読めないというか、理解不能が行き過ぎてある種恐ろしくすら思っている。これは思わぬ収穫だ……俺にはまだ、自分で気付けてすらいない弱点が残っているのだろう。


「馬車を取らなくていいのか、今日はずっと歩いてただろう」

「ニッ君は疲れてるの? それなら馬車でもいいけど」

「いや、そういう訳じゃない。ただ、お前が疲れてるんじゃないかと思っただけだ」

「大丈夫、全然まだまだ歩けるよ。君も大丈夫なら……一緒に歩いて帰ろ?」

「……」


分からない……


そう思って視線を落とした先には、先程路上で貰ったバルーンアートの四足獣が、腕の中からこちらを見ている。犬だか馬だか分からんそれは、自己存在に疑義を呈する事も無く、そこにただ確実に存在していた。


しばらく歩いていると、メリッサは雑誌屋に興味を示したようだった。


「ニッ君……ちょっと買いたいものがあるんだけど」

「どれだ、払うぞ」

「えっと……」


メリッサは若干口ごもった。なんだ……?


数秒して、彼女は一冊の薄い雑誌を手渡してきた。


「これ」

「これは……?」


なんだ、『怪奇月刊パラノーム』……?


「お前こんなもん読んでんのか?」

「ちょっ、『こんなもん』って……い、いいじゃん別にっ!」


メリッサは顔を赤らめて目を逸らした。


この雑誌、名前なら聞いた事がある。眉唾な都市伝説や怪談、場合によっちゃタイムリーな陰謀論をお茶の間にお届けするジョーク雑誌だ。

俺も情報収集のために新聞を読む事はあるが、こんな虚飾にまみれた怪文書を読もうと思った事は無い。時間の無駄にも程があるからな。


まぁ、それはそれとして他人の趣味嗜好に口出しするつもりは無い。金ならあるしな。


「分かった、買うよ」


金を払って、俺達は店を出た。


「ミステリーサークル……館に響く泣き声……黒魔術……」

「ちょっ、勝手に読むのは……!」

「いいだろ、俺が金払ったんだから。ただ、何が書いてるのか気になったってだけだ」


目次をパラパラめくっていた俺から、メリッサは雑誌を強奪した。頬を膨らませて起こった風をしながら、彼女は恥ずかしさを誤魔化そうとしている。


「正しい情報だけとは限らないけど……結構……面白いんだから……」

「いや、別に俺はお前の感性を否定するつもりでは」

「その目、疑いの目っ!」

「……」


実際、俺はその手のロマンを解せない人間らしい。ハリーから「アニキはセンスがね……」みたいな謂れなき誹謗中傷を食らった事もある。もしそうだとしたら、それは多分、『龍腕』と関係のない俺個人の問題なのだろうが……


「ほら、怖い話とか聞いたらワクワクしない?」

「……」

「……し、しないかぁ……でもさ、こういう本って自分の知らないものに出会えるから。なんというか……自分の住んでる世界が広がってくような感じがするっていうかさ」


メリッサは、俺に対してロマンを説くという世界一無駄な奮闘を始めた。

その感情は、きっと「好奇心」というものだろう。「知らないものを知る事の高揚」……俺がそのような感情に出会う事は極めて稀な事だ。近く記憶を遡ってみても、思い当たる出来事が無い。


彼女はパラパラとページをめくっていた。すると、次の瞬間メリッサは衝撃的な言葉を口走った。


「うーん……ほら、『龍腕』の噂とかもさ……」

「!? なんだと……!」

「え、ちょおっ!」


雑誌を読み始めていたメリッサから、俺は再度それを強奪する。

『龍腕』……だと……!?


「裏社会の義賊……正体不明……ほう……」


さっと読んだ印象では、連中は俺の事を世直しの御旗にでもしたいのか、謎に包まれたダークヒーロー的な人格を提唱していた。そんな役回り、痛すぎて御免だが。

なるほど、正否を問わず発信するジョーク雑誌ならではだな。書かれている内容は根も葉もない荒唐無稽な噂に過ぎないが……普段新聞じゃ報道されないような事が載っている。

リサーチしてない死角に、こんな風に俺の事を言及してる媒体があるとは……正直、便所の落書きと同等の物だと舐めていた。


「ニッ君……ニッ君……?」

「ありがとう、メリッサ。重要な気付きをくれた事に感謝する」


内心興奮しつつメリッサの肩をガシッと掴み、俺にしては珍しく真っ直ぐ謝意を伝える。


「っ!? ……や、役に立てたなら……良かったけどっ」


メリッサはまた目を逸らした。


確かに、一般の人間にとって俺の存在が「都市伝説」みたいになってるのだとしたら、各勢力が俺の存在をどう思ってるのか……それこそ、騎士団は治安維持組織である故に、単なる噂以上に何かを認知しててもおかしくない。

そこまで考えが至らなかったが、思えば危険な綱渡りをしているものだ。騎士団の共通認識を知らない事には、潜入任務など難易度爆上がりというのが道理だしな。

これは今度休み明けに兵営に戻ったら、ちゃんと調べてみるべきだ。


久しぶりに「好奇心」に似た高揚が心に灯った気がした。

『怪奇月刊パラノーム』


マニア向けオカルト雑誌。細く長く続いてるタイプの雑誌であり、かれこれ創刊から40年。

近年「能力」を発現させる人口が増えた事によって「怪奇現象に準ずる超常現象」が増え、オカルト誌としての存在意義を揺るがした事もあったが、その度にジャンルを広げながら生き残ってきた。

他業界人から見下されている事は否めず、しばしば蔑称として「ゴキブリ並みの生命力」と言われる。

彼らの取材方法や情報源は不明。

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