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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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託された使命

「嬢ちゃんは、ニコルの師匠の事は知ってたんだっけよ」

「ジグ・グラジオラスさんの事ですね。ニッ君本人や、北に居るハリー君から聞きました」


ジグ先生とニコルが呼んでいた彼は、2年程前に亡くなった。ハリーによると、ニコルは「先生が死んだ後、不自然に頑張るようになった」とか言ってたっけ。


レオは瞑目してため息を吐いた。


「ジグ……はぁ、アイツが居た頃は良かったよ。おかげで何もかも変わっちまった。バッハはアジトの居心地が悪いのか、遠征ばかりするようになって……その影響で今度はニコルが本格的に前線に出なきゃならなくなってよ……まるで負のスパイラルに閉じ込められたみたいだ」

「……やっぱりみんな言ってますけど、凄く大事な人だったんですね」

「大事なんてもんじゃねぇ、アイツは組織の土台にもなり得る人間だった。腕っぷしばかりの馬鹿しか集まらない傭兵組織にとって、『軍師』タイプの人材は貴重だからなぁ……それだけに、失ってしまったのが何よりも痛いんだ」


何故そんな事に、と口にしそうになった。が、それはどう考えても彼の古傷に触れる行為だと思い、踏みとどまった。そうやって言葉を選んでいる私に、レオから話を切り出してきた。


「嬢ちゃん、君は今後しばらくニコルと行動を共にするだろうから、教えてあげようか……ジグがオレに託した『使命』を」

「私に……そんな大事なものを?」

「どのみち俺一人じゃ抱えきれないからな。これはニコルや……アイツ(ジグ)本人の為でもある」


レオは水が入ったグラスを呷ると、再び喋り始めた。


「ジグは生前、ニコルの師匠としてあらゆる事を教えたんだ。技術面も、学問的な面でも……アイツは元々学校の先生だったからなぁ。その能力は確かだった」

「学校の先生……!? そんな人がどうして傭兵に……」

「オレも理由は聞いた事無いな。ま、人生いろいろってヤツよ。それで、話を戻すが……ジグが一番考えていたのは、『ニコルを死なせない』事だ。復讐の道の中で、数えきれないほど危険な目に遭うだろう事は明白だ……だから、ジグはそれを切り抜けられるだけの知識と力を、ニコルに与えた。しかし……」

「……代償があった?」


レオは頷いた。


「人間の生育にとって一番大事な少年期を、殺戮の為の修行に費やしたからな……出来上がったのは純朴な青年じゃなく、血に飢えた戦闘兵器だった。人間性を代償に強くなった、と言っても良いかもしれんな」

「ニッ君はだからあんな感じに……」

「別にジグに悪意があった訳じゃない。想定外だったのは、戦闘の面においてニコルがあまりに『完璧過ぎた』事だ。教えられた知識を完全に吸収して、想定以上のスピードで世界の『残酷』を理解していった」


私は、ニコルの冷たい眼差しを思い出した。確かに彼の面影こそあれど、そこにはかつての彼からは感じ取れなかった感情が宿っていた気がする。それは憎悪と、それと同じくらいの諦念……


「まぁ、それで済んだら良かったんだが……さらに不都合だったのはジグが死んだ事だ。あの時期、どんな心境の変化があったのか分からないが、確かにニコルの眼に宿る光が変わった。絶対的に信じていた心の支えをいきなり失ったんだ、当然路頭に迷ったさ……だが、彼は迷いながらも一心不乱に走り始めた」


レオはまた勢いよくグラスを呷る。そこに酒は入っていなかったはずだが、彼は少しだけ酔っているようにも見えた。もうすぐお客さんが来る時間なのに、大丈夫だろうかと内心心配になる。


「そしてすぐに、行き止まりにぶち当たって……壊れた。感情の柔軟性を損なったからか、折れるのも早かったんだ。そしてニコルは……考えるのを止めた。今では、依頼と命令にただ従って、復讐を誓ったブラッディレイヴンと終わりのない抗争を続けるだけの機械になってる」


レオはついに飲み干し、グラスを置いた。


「最初に戻ろう。ジグが死に際にオレに託した使命、それは『ニコルを正しい道に導く』事だ」

「正しい道……具体的にそれはどういう?」

「……オレにも分からない。だが、ジグは死に際になって後悔していたんだ。どうしてニコルを普通の人間として教え導いてやらなかったのか……どうして死地から救おうとするあまり、逆に死地に追いやってしまったのかってな」


ニコルの復讐を後押しすべきか、手を引いて連れ戻すべきか……レオはそれに悩んでいるらしい。


「オレにはニコルが文字通り『死ぬまで戦おうとしている』ようにしか見えない。だから一度立ち止まって欲しい気持ちはあるんだが……奴の道に立ち塞がる行為は、奴のこれまでを全て否定するようなものだ。オレには出来なかった……」


彼は私の眼を真っ直ぐ見た。


「ハリーも嬢ちゃんに『ニコルの友達になってやってくれ』と言ったらしいが、オレからも今一度頼ませてくれぃ。ここ数日見てて気づいたんだが、嬢ちゃんの存在はアイツにとって『心が残ってた頃』を思い出すきっかけになりそうでな。なんとなく、君の存在がアイツに何か良い変化を起こせるような……そんな気がするんだよ」

「そんな事で良いなら……聞くまでも無いです、私はニッ君の友達ですよ。これまでも、これからも変わらず」

「……すまんな、君はこんな世界に関わるべき人間じゃないのに」

「そんな、巻き込んだのはこっちなのに! 私が身柄を狙われてるのを、あなた達が守ってくれてるから今があるんです」


こういうやり取りをするたび、頼られてるのに自分の無力さを感じる。別に、私はこの人達と深いかかわりがある訳でもないのに……何か頑張らなきゃならないような衝動にかられる。

私が出来る事はまだ少ないけど……(ニコル)となるべく話す事、今はそれを出来る限りをやるだけだ。


そんなこんなで話をしていたら、ドアが開く音がした。


「お、いらっしゃい」

「マスター、いつもの頼むよ」

「よし、ウォッカのジンジャービアカクテルに……レモンだったな。今準備するから待ってろぃ」


今夜も営業が始まる。

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