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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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戦う為に生まれた男

偶に入れたくなる別視点のコーナー

腹ごしらえを済ませた後、ニコルはすぐにでも私を連れ出して出発しようとした。しかし、「症状に自覚が無くても、今日は流石に休んだ方が良い」と必死にレオに説得された結果、彼は渋々休む事にしたのだった。


「自分の口で大丈夫とは言ってたが、アイツ平然と嘘つくからなぁ……手がかかる奴だぜ全く」

「ねぇ、レオさん……」


彼が倒れたと聞いた時、私は凄く恐ろしかった。「せっかく再会できたのに、こんなに早く別れる事になったら……」なんて思いが脳内をよぎって、居ても立っても居られず走り出した。

準備せずに病院に向かったせいで、受付で書く個人情報について困ったのを覚えている。だって、家出中の身で正直に住所書いたりすれば、警察に情報が渡って連れ戻されるかもしれないし。


ニッ君、部屋に向かいはしたけど……あの人の事だから眠れなくて天井を仰いだりしてるかも。


「私は、ニッ君に何があったのか、まだ良く知らないから聞きたいんですけど……彼は過去にもこんな風に倒れたりした事はあるんですか?」

「オレが知る限りは……無いな。だから初めての事だ」


安心するような……かえって心配なような……私は変な気分がした。


「アイツ、前から無茶苦茶だったとはいえ……オレが見てなかった1年間に、必要以上に無理する癖でも付いたのかぁ?」


私は、彼の組織の人間が彼に対して取っていた言動、雰囲気を思い出していた。頼るにせよ、諫めるにせよ、出会った人すべてに共通して、彼の実力を深く信用している様子だったが……私の記憶の中の彼は、まだ無邪気な子供時代の彼のままだった。


「私は……分からないんです。私が知ってる彼は、まだ何の使命にも縛られてない子供時代の頃で……数日一緒に居る今でも、彼が命を懸けて戦ってる理由が分からない……」


レオは眉をひそめた。


「このろくでもない世界に入ってくる理由なんて、人それぞれあって……そんでどれもクソみたいな経緯だ。それについてオレはあれこれ詮索した事も無いし、知らねぇ。だからオレ達は、『今そいつがどう生きて、どう死のうとしてるか』だけを見てるんだ」

「……」

「嬢ちゃん、ニコルの事が心配なんだろぃ? 安心しな……奴は強いんだ」


黙ったまま話を聞く私に、レオは言葉を続ける。


「そもそもおかしいと思わなかったか? あの若さであの無鉄砲……余程の事が無い限り、組織の若頭、No.2に据えるには不安過ぎる人材だろうってぇ。それを説明する唯一の理由こそが『強さ』なんだ」

「でもニッ君は、自分の他にも強い人がたくさん居るって……」

「今現在に限ってはそうかもなぁ。だが……断言する、アイツは誰にも追いつけないくらい強くなるぜ。何しろ、『素材』が違うんだからな」


素材……?


「嬢ちゃんは非戦闘員のカタギだから知らねぇと思うが……戦闘能力には二つ、独立した物差しがあるんだ。片方は『能力』、もう片方は『体術』だ」

「能力、体術……ニッ君がよく使ってる『波導力』っていうのは無いんですか?」

「おっ、割と知ってんだねぇ。細かく分け始めたらキリ無いんで、これはあくまで大枠だ。オレとしては、『波導』は『体術』の延長線上にある拡張技能エクストラスキルみたいなもんだってイメージだな」


能力。ニッ君の能力は「氷を出す」アレで、本人は『凍結』とか言ってたのを覚えている。

体術。格闘技場で見たように、彼は能力無しでも十分強い。後から『波導』を使ったと聞いたけど、正直私は目で追うのが限界だった。何をやってたのか分からない。


「常人は『能力』『体術』、その才能次第で、得意な方を伸ばす奴が多い。下手にバランスよく伸ばそうとすると、器用貧乏になっちまうからなぁ。だが、ニコルに関して言えば……奴はどっちも驚異的な才能を持ってるんだよ」


レオは指を2本出して説明を始める。


「ニコルの特にヤバい点は『体術』……それも『波導』関連の技術がずば抜けてるんだ。そもそも常人じゃ発現しない、才能依存の特殊技能『第六感』を持ってるのがヤバい。でも、それだけじゃないんだ……奴の真価は、変幻自在の『波長』にある」

「ちょっ、ちょっと待って下さい……『第六感』『波長』って、聞いた事無い単語がいきなり出てきて、頭が……」

「落ち着け嬢ちゃん、ちゃあんと説明すっから。まず『第六感』ってのは……ま、端的に言えば認識拡張だな。見えないはずの物が見えたり、聞こえないはずの音が聞こえたり。人によって才能は様々だが、ニコルの場合は『殺意が視える』ようになる」


確かに、列車で襲われた時も、私には見えない何かに気付いたように、彼は戦ってた。「殺意」ってものがどんな形をしてるのかは分からないけど、それが見えてたって事なのかな。


「で、『波長』についてだがぁ……これは人間の『声』をイメージしてもらえれば分かりやすいと思う。嬢ちゃん、今ここで『こんにちは』って言ってみな?」

「え、『こんにちは』……これでいいんですか?」

「じゃあ今度は、オレの声を真似て、言ってみな?」

「ええっ、そんなの無理じゃ……ご、『こ゛ん゛に゛ち゛は゛』……」

「ふはは……おじさん、そんなダミ声で喋ってたかな……んま、それはいいんだ」


無茶振りに応えた私の奮闘をスルーして話を続けるレオに、私は抗議の意を込めて若干頬を膨らます。レオは笑いながら続けた。


「『波導』も『声』と同じ、それぞれの人間に特有の『波長』があるんだ。それは生まれ持ったもので、普通なら変えられない。だから『波導』を学ぶ時は、自分の特性に合った流派を見つけて師事するんだ」

「もしかして、『だが……』って言います?」

「だが……ニコルは他者の『波長』を完璧に模倣できるんだ。さっきの『声』の例えでいうなら、『他者の声を完璧に模倣できる』ってのを想像すると良い」

「え、そんなの出来るんですか?」

「そう思うだろ。その通り、普通はできないんだ」


レオは立てた2本の指を示しながら話を続ける。


「他者の技術を、素質を無視して模倣できるってのは、実戦で大きな武器になる。出力できる選択肢が、覚えた技術の数だけ増えるんだ。だからアイツは遠距離だろうと近距離だろうと、どんな相手が来ても一定の『回答』を出し続けられる……」

「だから強い……って事ですか」

「いいや、そう単純な話でもない。所詮素質があるだけだ、すぐに技を使えるようになる訳じゃない。この才能を強く使うためには、他人の数倍の修練が必要って事よ」


レオはニコルが休んでいるだろう二階の方を見た。


「んで、奴はそれを現状成し遂げちまってる。全く、諸々の生活能力だの対人能力だのはからっきしの癖に、こと『戦闘』に関してはセンスも忍耐もピカイチだ。正に、『戦う為に生まれた』ような人間さ」

「……この10年の間に、彼はそんなに頑張ってきたんですね」

「ああ、嬢ちゃんが知ってる頃とは随分違うだろうな。本来、普通に生きる事ができてりゃ、アイツもあんな風にならなかったんだろうな」


レオの表情は、自分の部下を自慢する上司の顔から、いつの間にか何かを後悔するような郷愁で曇っていた。

『第六感』


魂は物質界に囚われぬ精神の檻。故に、波導は知覚できないはずのモノを知覚する。

波導の源流は、生命、あるいは魂。其の道を究めし魂は、五感の壁を越える。

殺意、感情、理性、記憶……いずれも、見えず聞こえないだけの現象に過ぎないのだ。

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