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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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何気ない日常の喜劇

「お疲れライラ、今日は忙しかったね」

「おつー、どこ行ってたの?」

「警察署。警部の長話に付き合わされてたら、こんな時間になっちゃったよ」


緑髪の男、名はカズヤ。対して金髪の女、名はライラ。お互いの激務の後、互いにねぎらいながらいつものお喋りをしていた。


「そういえばローラが愚痴ってたよ。『一般暴走能力者くらい、2人居るんだからやっつけんかい』って。被害規模からして凄い敵だったみたいだけど」

「そう、それそれ! マッッッジでヤバかったのっ!」


ライラは興奮気味に喋り出した。


「鉄の波がブワァって押し寄せてきてね、あたしの『花火』でも押し返すのがやっとだった。最後っ屁に放った自爆みたいな攻撃も凄くてさ……正直、ローラと新入りのニコっちが居ないと危なかったかも」

「ニコっち……ニコル君の事だよね」

「そう! イカした名前でしょぉ~」

「……ライラって変な呼び名付ける癖あるけどさ、いい加減僕の渾名も作らないの?」

「えぇ?」


少々の沈黙、カズヤは少しだけ焦ったような声色で弁解を始めた。


「ほら、ラプラスだったら『プリン君』だし、ペレーだったら『胸筋』『上腕二頭筋』とか……なのに僕だけ『カズヤ』ってさ……?」

「もう、カズヤは『カズヤ』でしょ? 何、どうしたの、嫉妬でもした?」

「い、いや別にそういう訳じゃないって!」

「ふーん?」

「何その目……ちょっと、一応言っとくけど、心覗くのは止めてよ!?」


ライラは口角を上げると、いたずらっぽく笑った。


「残念でした手遅れでーす、あんたの心は現在『紅色』……つまり恥ずかしいんでしょ~?」

「っ……本当に卑怯だよそれ……!」


カズヤは顔を赤らめながら、からかうライラから小走りで逃げている。しばらくして、カズヤはライラに向き直って口を開いた。


「いやさ……別にこれは本当に嫉妬とかじゃ無いんだけど、ニコル君の事について……ライラはどう見てるの?」

「『見てる』って……?」

「そのままの意味さ、君は波導力で『人の心を読める』だろ? だから本当に『ニコル君が信用に足る人物かどうか』について、君の中で決断を下したのかなって」

「……それねー」

「分かってる。君のその波導の権能が万能じゃないって事も……だけど、ラプラスにも再三再四警告されたじゃんか。考えなしに仲良くする訳にはいかないって」


ライラはしばらく考え込んだ。


「あの子の心の中、変なんだよねぇ」

「変……っていうのは?」

「薄いっていうかさぁ、何もかも……霧の中にあるみたいに色が薄くて、分かりにくいんだよね」

「うーん……筆洗に落とした水彩絵の具みたいな感じって事?」

「あ、その例え分かりやすっ。さっすが~」


カズヤは自慢げにしながらも、気恥ずかしさからライラと目を合わせようとはしなかった。


「あたしもびっくりしたんだよね、ここまで色がない心を覗くのは初めてでさ。何かしら揺さぶりかけたら、誰でも反応は示すはずなんだけど……ほら」

「っ……どうしたの、いきなり手なんて握って」

「『紅く』なったね」

「また僕の心覗いてるッ!!」


蒸気が湧き出ん程に紅潮した顔を背けつつ、カズヤは震える声で言葉を発する。


「……そういうので明確な反応示すのって、特定個人というか……それは、僕だからっていうかさ」

「そんな事無いと思うけどな~?」

「……まさか、他の人にもやってるのそれ?」

「触ったりするのは滅多に無いけどね、それでもお喋りしたりとかだけでも『色』が出る人が多いから」

「はぁ……ねぇライラ、そういうの止めた方が良いと思うよ。なんていうか……そういうのって『勘違い』が増えるだろうから」

「勘……違い? なにそれどゆこと?」

「分かんないなら良いよ……忘れて」


カズヤは机の上に置かれたグラスを見た。何の変哲も無い水に、何の意外性も無い氷が浮いている。


「いずれにせよ、警戒はした方がいいって事だね」

「何の事?」

「ニコル君の事さ。ラプラスが話してくれた事だってあるでしょ、『元老を殴った』って話」

「マジな話していい? あたし、あの話信じてないんだよね。最初は疑ってたけど、別に任務でも問題なく協力してくれたしさ。今では上層部がでっち上げた嘘なんじゃないかって」

「実は……僕も。ちょっと関わった限り、ニコル君がそんな事しそうな奴には見えなかったんだよなぁ」


ライラは身を前に乗り出すと、楽しげな表情で笑った。


「でもさ、ホントのホントだったら面白くない?」

「……いや怖いよそれ。平気で上官殴るような奴が、無害装って僕らの近くに居るの」

「昔の冒険家が言ったっていう格言にもあるじゃん、『最も危険な毒蛇は、牙を見せびらかす事をしない~』みたいな」

「ああ、マカダミア伯爵ね。幻想諸島を発見した人でしょ……でもあの人、死因も毒蛇じゃなかったっけ」

「え、マジで?」


二人のお喋りに終わる気配は無く、まだまだ続きそうだ……

稀代の大馬鹿『マカダミア・ゼーゲル』


幻想諸島を発見した、大昔の冒険家。冒険好きの貴族として有名で、変人だったと言い伝えがある。

彼の旅行記「南方海見聞」は現在も出版されている。

『最も危険な毒蛇は牙を隠す』という格言を残しているが、当の本人が毒蛇に噛まれて死んでいるため『教訓が身にならない事もある』という文脈で持ち出される事もある、残念な人。

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