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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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苛烈、狂奔、暴走……

ほんますまん、待たせたな。復活更新じゃい!

言い訳は活動報告欄で聞いてやってくれや……後、しばらく毎日更新するつもりでございます。いつまで続くかは分からんけど。

階下に飛び降り、生成した片手剣で連撃を加える。斬り払った三発が腕、胴体、首元に命中し、裂創から血液が流れ出る。間違いなく致命傷だ。

恐るるに足りない。能力さえ割れてしまえば、素人の制圧など赤子の手をひねるようなもの……

正直言って、俺は油断していた。


致命傷を受けたにも関わらず、初老は怯む事無く能力を発動させ、俺を遥か後方へ跳ね飛ばした。激しく出血する首を庇いながら、彼は口角を釣り上げた。

よく見ると、その手には何やらシリンダー状の物が握られている。


「強者必滅……建世桃源……!」

「アイツ……何をするつもりだ」


初老は迷わずシリンダーを首筋に突き立て、内部の緑色の液体を体内に注入した。

瞬間、先程までとは比べ物にならない規模の殺気を感知する。


「あの薬品……?」

「ライラ、下がれ! 嫌な予感がするぞ!」

「教父よ……見ていろ……このハーマン・アトラスの、貫く誓いと生き様を……ッ!」


次の瞬間、先程とは比べ物にならない程に無数の鉄柱が発生し、地面がボコボコと沸騰するように鳴動し始めた。


「まさか、能力強化の薬剤……馬鹿な、アレはそんなに簡単に手に入る代物じゃ……!」


まして、明らかに裏社会(こっち)の人間じゃない、人生にくたびれたような初老には……

だが、事実、相対す初老は目を爛々と光らせながら咆哮し、荒れ狂う魔力で大地を蹂躙している。それはどう考えても、外的要因抜きには考えられない事だった。


狼狽している場合ではない。殺到する鉄塊の波は目前に迫っていた。水平方向の回避は不可能と判断して、咄嗟に波を飛び越える様に跳躍する。一瞬にして眼下に広がった鉄の絨毯……獲物を飲み込まんと破砕機のように蠢いているそれに向かって、俺の身体は落ちていく。


「ハッ、大人しくやられるかっての……【氷細工(アイスワークス)形状(シェイプ)……ッ!」


あの金髪ギャルみたく便利な飛行能力は持ち合わせていないんでな。俺ができるのは一つ、お前の能力を利用させてもらう事だけだ!


「=巨大(コロッサル)戦槌(バトルハンマー)】ッ!」


振り上げた諸手に氷の棒を生成、それを芯として先端に俺の身体の十倍にも近い大きさの氷塊を追加する。出来上がった即席の特大ハンマーは密度不足で薄氷のように脆いが、たった一度の衝撃を与えるには十分だ。


俺は空中から鉄の絨毯に向かってそれを振り下ろす。

予想通り一撃でハンマーは砕けたが、狙い通りの衝撃を起こす事はできた。


「鉄柱攻撃は『衝撃に反応して伸びる』……有難く足場にさせてもらうぞ!」


ハンマーの重撃に反応して、鉄柱が俺を目掛けて高速で伸びてくる。何とかそれに着地し、天井に挟まれる前に跳躍で待避する。空調装置のパイプに取り付いて、そこでやっと戦況を俯瞰する事ができた。


「ニコっちは大丈夫そー!?」


声の方向を向くと、炸薬で器用に空中ジャンプするライラの姿があった。対して俺は木登りする猿のような体勢でみっともないと感じたが、仕方なくそのまま返答する。


「ああ、こっちも何とかなってる!」

「でさ、どうしよう、アレ! 完全に()()してるよ!」


能力の暴走……それ自体をこの目で見るのはかれこれ数回目だが、未だかつてああいうケースは見たことが無い。


一般的に、能力とは「精神力が起こす奇跡」だとされているが、正確には「精神力が制御する、魔力による奇跡」と呼ぶべき現象である。そして稀に、溢れる魔力が制御不能となる状況が発生するのだが……これが能力の暴走だ。


能力の暴走はいつでも誰にでも起こる現象じゃない。主に挙げられるのは、特定の二つの状況下だ。一つは、精神が未成熟の幼年者がふとした拍子に能力を覚醒させる場合。もう一つは、戦場で能力者が死に瀕した時だ。

これらの状況下でもなお、暴走状態になる可能性は低いはず。だからこそあの初老……二つのどちらにも該当しない奴が、一般人の能力の閾値を超えた暴走状態になっているのは限りなく不可解な現象といえる。あの薬品が原因だろうか……?


「今の奴の能力……最早弱点とか以前の問題だな……」

「あーもう! 警戒レベルもうちょっと上がれば色々できるのになー!」


ライラは器用にも空中で地団太を踏んだ。


考えを巡らせる俺の横を掠めて鉄柱が伸び、また天井に突き刺さった。鉄柱の増加はなおも勢いを増しており、天井を絶え間なく叩いている。その度にパラパラと天井部の破片が落ちてくるのだった。


「……悠長にはしてられないみたいだぞ。このままだと建物が崩壊するのが先だ。一度撤退も考慮すべきか……」


にしたってあの初老、さっきから能力をぶっ通しで使い潰してるのに、よく魔力の「息切れ」が起こらないもんだな。暴走状態であるとはいえ、最大魔力量自体は変わらない。常人があの頻度で能力を使い続ければ、余程省エネじゃない限りはそろそろ体内の使用可能な魔力が底を尽きるはずだ。


間違いなく首の血管を深々と斬り付けたのに、まるでダメージリアクションが無いのも気になる……ここからじゃよく見えないが、もう血が出てるようにも見えない……


「……ニコっち、今なんて?」

「え? 撤退すべきかどうか……」

「その前!」

「あー……天井が崩落しそうだから急いだ方が良いって……」

「それじゃん!」


ライラは何かを閃いたような表情をした。


「建物の崩壊……何も待ってあげる必要ないじゃんか!」


彼女は直上に片手を掲げた。マズい、また何かやるつもりだ……

俺は空いている方の手で、どうにか片耳を塞いだ。


掌の上に生成された火薬玉が、小爆発で打ち上がり……


「【打上花火・(キク)】!」

「!?」


崩落しかけの天井に命中、色とりどりの炎を振り撒いて炸裂した。とどめを刺された天井は瓦礫をボトボト落としながら、曇り空を覗かせる吹き抜けになった。

俺が掴まっている空調装置にも激震が走る。


「落ちる……ッ!」


金髪女の突然の凶行に内心ビビりながらも、落下しそうになる身体を支えるため、咄嗟に鎖を生成してぶら下がった。


「ったく、いきなりどうした爆弾魔ッ……テロリストの片棒でも担ぎたくなったのか……!?」

「ニコっち落ち着いて……考えならあるから」


ライラは通信機のスイッチを入れ、外の連中に何かを聞き始めた。


「建物の損耗率、今どんな感じ~?」

『え、ちょっとここからでは……』

『ええい、分からんなら喋るな。上空から見た感じ、損耗率はおよそ30%だ』

『さ、30%だそうです!』

「30かぁ……もうちょっとやろっか」


ライラは引き続き、壁や天井を問わず、四方八方に花火を発射し始めた。また建物が鳴動する。

工場外壁は穴だらけになり、崩落も時間の問題だ。


「まさか……警戒レベルを自分から引き上げるつもりか……!?」

「正解! 警戒レベル5になれば、大量破壊攻撃の許可が下りるからね!」


工場を荒らす犯人を倒すために工場を破壊する、自作自演作戦……いやそれって本末転倒なんじゃねぇのとは思わなくも無いが、果てなき鉄柱攻撃の暴走を止めるのには相応の「能力」が要るのは事実だ。確かに、このまま奴の暴走がエスカレートすれば、被害は工場にとどまらないかも知れない。一種の破壊消火法だな。


ついに工場の天井部が崩落を始め、どんどん曇り空の鈍い光が差し込んでくる。


『損耗率40%を超えました……警戒レベルの引き上げを申請します!』

『許可する! 警戒レベルは5……全面作戦の展開を許可!』


ライラはニシシッと笑みを浮かべると、先程までの小爆発とは比べ物にならない火力で爆発を起こし、地面を覆う鉄の絨毯に突っ込んだ。

着地と共に起きた爆発とその衝撃で、何本もの鉄柱がまた発生する……が、爆発の威力があまりに強かったのか、爆心地から半径数メートルは鉄の絨毯の方が綺麗に吹き飛んでいた。


「よしっ、じゃあここからは全力でいくよーっ!」


ライラは両腕を前方、鉄柱群の先の初老に向けて構えた。途端、彼女の能力の影響か、空気が揺れ始めたような感じがする。


『支援分隊、準備完了! いつでも突入指示を!』

「あー……少なくとも、今は止めた方がいいぞ」


天井からでも分かる……火薬の臭いだ。それらは彼女の周りで形を成し、幾つもの「星」を形成する。殺気とも違う、鮮烈な破壊の衝動のようなものが……その火を灯し、放たれる。


「【烈火連華(スターマイン)】ッ!」


炸薬の星々は色とりどりの光芒を曳き、流星となって鉄の津波に向かっていく。それらは命中と共に大爆発を起こし……

能力の『暴走』


魔を以って神性を模倣するのが「能力」とするならば、凡人に溢れん程の魔を注いだら……

自明、魔に堕ちる。

精神はやがて彼の者自身の物では無くなり、敗れた夢に溺れる。

心の敗者は、力の限り暴れるだろう。その器が骸と化すまで。

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