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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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鉄も叩けば埃

コイツ……攻撃の瞬間まで殺気を隠していただと……!?


相手を戦闘の素人だと内心見くびっていた俺は、初老が土壇場で放った隠し玉に面食らう。殺気は先程のように大雑把で、薄い。これでは防御すべき部位も絞れない……!


即座に初老を突き放し、パイプから落下する方向へ回避を始める。しかし、俺の眼が捉えたのは、既に膨張を始めた鉄片だった。この向き、この方向……このまま行くと、伸長した鉄片は槍のように俺の胴体を貫くだろう。

一か八かで氷の障壁を生成し、できるだけ被弾部位を急所から遠ざけようと身体をねじる。


しかし、そんな覚悟を決めていた俺に、思わぬ助けが入った。


「【花火星(ハナビボシ)(キク)】ーッ!」

「おごっ……!?」


落下していく方向、氷の防御部位とは正反対の横腹に、衝撃。巨人に殴られたかと思うほどの激震と共に灼熱を身に受ける。俺は反応する間も無く、高速で反対方向に吹っ飛ばされていた。壁で受け身を取り、出っ張りにぶら下がって状況を把握する。

初老の放った不意打ちの鉄槍は、俺が数刻前居た場所に伸びていたが、こうして吹っ飛んだので掠りもしていなかった。俺の右横腹には、新しい衝撃痕と火傷があった。


「間一髪! 危なかったね~!」

「随分と手荒な救助方法だが……助かった、感謝する!」


さっきの爆発はライラの投げた爆弾……もとい花火玉だったようだ。痛い事に変わりはないが、鉄槍の致命傷に比べれば数段マシである。


この俺が「助けられる」とは……それも騎士に……


俺は傭兵として、今までほぼほぼ個人技でやってきた人間だ。ミッションの中で他人と協働する事はあっても、戦闘面で他人にミスをフォローしてもらえる事はほぼ無かった。鉄砲玉にとって、自分の身を保証できるのは自分の実力だけだからな。


「だが、今の俺は『騎士』だ……」


見つめた先、階下ではライラがサムズアップで笑いかけてきている。

立場が違うと戦闘の前提もここまで変わってくるとは……戦闘に関して今まで俺は、様々な師から様々な知識を得てきたが、まだまだ知らない事はあるという事だな。


さて、初老はまだパイプ上を走っている。あの不安定ながら確実な足取り……おそらくどこかへ向かっているのだろう。ライラもそれに気づいたのか、初老の行く手を塞ぐように攻撃を仕掛ける。


「はぁっ! 【炸華蹴(サッカシュウ)】ッ!」

「小娘……邪魔をするな……!」


ライラが炸薬による加速を受けた蹴りを放つも、初老は器用に避けて見せた。踵落としは初老の目の前のパイプに命中し、強い「衝撃」を発生させる。初老の能力の発動条件を満たした。


「【打ち上げろ】!」

「わ、ちょっ!?」


パイプに食い込んだ踵が、逆再生されるように鉄柱で押し返される。ライラの身体はそれに伴って、空中で高速回転を開始してしまったようだ。彼女はもがきながら、階下まで落下してしまった。


「その位置で生成した鉄柱、自分で道を塞いだようだな……もう逃げ場は無いぞ!」

「チッ……」


初老は作業着のポケットからキラキラ光る球をいくつか放り出した。あれは……鉄球……!

また敵の殺気が全身を駆け巡るが、今回はそれに頼らない。眼で見極める。脚に波導力を込め……解き放つ!


「ローグ・コンバット……【パンクバースト】ッ!」


金色の波導が衝撃を放ち、俺の身体は通常の倍近く高く飛び上がる。伸長した鉄球の殺人ワイヤー達は、俺の足元を掠めて外れた。初老はすかさず俺が跳んだ跡……「衝撃」を受けたパイプから、俺を追撃する鉄柱を伸ばしてくる。


「だろうな……そうするだろうと思ったよ!」

「何……!?」


衝撃を起こせば、奴は必ず鉄柱を伸ばして攻撃してくる。なぜなら奴に、それ以外の攻撃手段が無いからだ。


能力がいくら強かったとしても、それしか手札が無いと「動きを読まれ」やすくなる。能力に慣れた頃の初心者が陥りやすい、悪癖の代表例だ。俺も昔は「サボらず体術を鍛えろ」と口酸っぱく言われたな。


足元まで殺人威力の鉄柱が迫っている。俺は空中で、避ける事は出来ない。ならば……


「【パンクバースト】ッ!」


向こうに()()()()()()()いい。


伸びてきた鉄柱を、波導の籠った拳でサイドから叩く。すると鉄柱は俺に命中する直前で伸長方向を急激に変更し、叩かれた方向へ伸び始めた。向かう先は、当の能力者の初老。初老はこのままだと鉄と鉄でサンドイッチにされると気付き、とっさに階下へ身を投じた。素人にしては良い判断だ。


「お前の能力、領域型の衝撃感知までは分かってたが、『壁や床が伸びる』ってとこが不可解だったんだ……衝撃で質量が増加、あるいは変形させる能力なのか……」


俺は足元の鉄柱を叩きながら、階下の初老に向けて言葉を続ける。


「そして、観察して気付いたんだ。さっきから金属しか伸ばしてないって事にな。お前の能力は『壁や床を伸ばす』んじゃなく……正確には『金属を大きく変形させる』能力だ」


あらゆる金属は共通して「展性」という特性を持つという。叩かれれば質量そのままに、形を変える……どう見ても物理法則に逆らった能力だが、その能力の「根拠」は法則、あるいは常識に縛られているものだ。

「衝撃」の出所がどこであれ、変形する金属はその力を受け入れ、歪まされた物理法則の通りに律動する。


初老は図星だったのか、その顔の表情に皺を増やした。


「ネタが割れたなら、ここからはこっちのターンだ……!」

「はっ、オレの能力が分かったからって、それが何だというんだ……見せてやろう、永く虐げられた弱者の足掻きというものを……!」


『超展性』


窮境の失業者、ハーマン・アトラスの能力。鉄も金も銀も、金属は例外無く、叩けば変形する。そんな当たり前の法則を、少し「大袈裟にする」だけの能力。

それはちょっとした特技に過ぎないものだった。

決して人殺しの道具になど、できるはずがない才能だった。

しかし今、彼の権能は……暗く穢れた外的要因によって、歪んでいる。

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