掌に欠片の衝動
足を踏み出して床を蹴る、その度に地面が脈動する。地面が揺れる度、侵入者を排除せんと鉄柱が暴力的な勢いで生えてくる。伸びる方向は毎回ランダムみたいだが、殺気でタイミングが分かるから何とか避けられている。
「ニコっち……ひょっとしなくてもコレ、伸びるスピード早くなってない!?」
「俺達が敵に近付いてるからかもな……!」
未だ視界は悪く、敵の姿は視認できない。進むほどに鉄柱と瓦礫が増えており、路面状況は悪化の一途を辿っている。このまま攻撃速度が増加していけば、流石の俺も避けるのが難しくなるかもしれないな。
「……まただ」
段々と敵の攻撃の条件が見えてきた気がする。なら……試してみるか。
「ライラ、3秒数えたら急停止するぞ」
「え、うん、分かった!」
1秒、また足元から鉄柱が伸びて、俺とライラは横跳びで回避する。
2秒、瓦礫を蹴って移動方向を反転し、追撃の鉄柱をさらに躱す。
3秒、受け身を取って手から接地する……できるだけ衝撃を殺しながら。
俺の言った通り、ライラもしゃがみ体勢で停止している。
攻撃は……来ない。
「やはりな……おそらく奴の能力は『視認』じゃなく『衝撃』で発動する、『条件発動型』だ」
「えぇっ、ニコっち……もう敵の能力特定しちゃったの……!?」
「まだ特定って程じゃない、発動条件が絞り込めたってだけだ」
試しに能力で氷の球を生成し、遠投してみる。地に落ちた氷塊はひび割れ、ツー……と床を少し滑った。その直後、落下地点から例のごとく鉄柱が生えた。ビンゴだ。
自身を中心とした領域内、「衝撃」による条件発動、床や壁から柱を伸ばして攻撃……これで敵の能力の全貌とはいかないだろうが、少なくとも奴に近付く為の情報は手に入った。
「手あたり次第に瓦礫片を投げるぞ。敵は今、無差別に衝撃を探知している……能力を誤作動させ続ければ、どんな能力者でも魔力の限界が来るはずだ」
「了解、それなら……」
ライラは頷くと、両手に何やら黒い玉のようなものを生成した。
「あたしに任せてっ!」
彼女が投げた玉は、壁や床にぶつかると大きな音を発しながら炸裂した。その衝撃で何本も鉄柱が発生する。
「ば、爆弾……?」
「【癇癪玉】ね! まー、火薬の塊みたいなもんだよ!」
ポンポン火薬玉を生成して投げ始めたライラを見て、急に彼女の能力が恐ろしく見えてきた。いや、『花火』って名前だとちょっとファンシーなイメージがあるものだが、実際の所「花火を作成する能力」って「火薬、金属、それを覆う外殻を様々な形状で作り、自力で着火もできます」みたいな事を言われてるようなものだ。
「花火」って確か外国から伝わってきた文化で、俺自身もそこまで詳しいわけじゃないんだが……それでも対人使用の危険性くらいは分かる。
どう考えてもぶっ壊れ能力というか、それ以前に治安維持組織よりもテロリスト然としてるっていうか……
「なに、じっと顔見たりして……どうかした? ひょっとして、あたしに見惚れちゃったとかぁ?」
「いや、な、何でもない……これなら十分、カモフラージュになるな」
今は考えるのをやめよう、コイツら第五星軍と敵として対峙するのは遥か先の予定だ。それまでの間に攻略法でも、弱点でも見つけていけば良い……気持ちを切り替えて、俺は眼前の脅威に向き直った。
敵もいきなりの爆破祭りに困惑しているのか、それとも魔力が尽きてきたのか、鉄柱の発生頻度が落ちている。今なら俺達を正確に狙って攻撃するのは難しいはずだ。
「ニコっち、次の爆発と一緒に出るよっ!」
「了解。位置について……」
「よーい……」
バンッ!
癇癪玉の炸裂音と共に瓦礫から飛び出す。敵も「明らかに頻度が違う衝撃」が二つ飛び出した事に気付いたのか、こちらに殺気を向けてきた。しかし、周囲の炸裂の衝撃が干渉したのか、鉄柱は明後日の方角へ伸びていき、俺達の行路を塞ぐ事は無かった。
瓦礫と鉄柱をパルクールしながら前へ前へ進む。3つ目の瓦礫の山を越えた所でついに……
「見~つけたっ!」
「交戦距離に入った。観念しろよクソ犯罪者ッ!」
「チッ……!」
両手を地面についた体勢の、初老の男が一人。今回の制圧対象だ。
犯人は俺達を見るなり、舌打ちしつつ後方へステップした。俺は氷刀を生成し、即座に斬りかかる……がしかし、犯人は足元から生えてきた鉄柱に乗って、2階のパイプラインに跳び移ってしまった。
「逃がすか……! 【氷細工:形状=柱】!」
足元に氷柱を生成、カタパルトジャンプで俺も2階に跳び移る。初老は追いかける俺の姿を見て、顔を引き攣らせている。
初老も追跡者を排除せんと動いた。
「ふんッ!」
「パイプを叩いた……道を塞ぐ気だな」
衝撃を受けたパイプがぐにゃりと像を曲げたかと思えば、次の瞬間、分厚い鉄板が俺と敵を隔てて生えた。
初老はトタトタとパイプ上を走って行く。
「【氷細工:形状=鎖】!」
手すりに鎖を巻き付け、終端を掴みながらパイプから身を投じる。振り子のように、あるいはグラップリングフックの要領で、鉄板の障害を迂回して再びパイプ上に戻った。
「若造が、しつこいぞ……!」
「ガキに追いかけっこで勝てると思ったか、このクソジジイが!」
ついに追いつき、初老の後ろ襟を掴み上げた。
「大人しく投降しろ、そうすれば命は取らない……まぁ、こんな被害を出してれば、どっちみち死刑は避けられないだろうがな」
「……」
掴んでみて初めて分かったが、この男……思ったより軽い。小柄な事もあるだろうが、おそらくこの軽さは極度にやせ細っているのだとしか考えられない程だ。
初老は黙っていた……そして数秒の後、少し身じろぎをして、何か言葉を放った。
「分かった、大人しくしよう」
初老は力んでいた全身の力を抜き、首を少し回して俺の目を見た。
ふん、今回もあっけなかったな……と思いながら、俺はその色のない瞳孔を見つめ返す。
しかしその瞬間、階下のライラが大声を上げた。
「ニコっち、その犯人……っ!?」
「……!」
殺気。
よく見ると、その手には鉄片が握られている。老人の口角は今、不気味に歪んでいた。




