突入
復!!!活!!!!!
お待たせしました、お待たせし過ぎたかもしれません……
「なぁに、これ……?」
「工場……というより、最近流行りのモダンアート彫刻作品っていうか……」
目の前にそびえ立つ工場……だったであろうものから、大量の鉄柱が思い思いの方向へ突き出した謎オブジェクト……そのあまりにアヴァンギャルドな造形を前にして、俺とライラは唖然としていた。
作戦範囲内に入ったことにより、耳元の無線通信機が音声を吐き出し始める。どうやら既に大規模な交戦が起きていて、中では半ばパニック状態になっているらしい。
『本部、応答をッ!』
『第3作戦小隊全滅、我々にも撤退指示をッ!』
『ええいっ、臆するな! 相手は能力者一人だ、援軍到着まで前線を死守せよッ!』
ライラは苦い顔をしながら俺に目配せすると、通信機のスイッチを押して音声を乗せた。
「第五星軍のライラ・ナターリア、ニコル・オーガスト、現着しました。突入で良い感じ?」
『おお、待ってたぞ能力兵! さっさと犯人をぶっ飛ばしてやれ!』
無線越しでも、現場指示の男性の声が興奮で上ずっているのが分かる。
『ちなみに警戒レベルは4だ!』
レベル4……って何だ?
なんて首をかしげていると、察したかのようにライラが補足してきた。
「警戒レベルってのは本部で犯罪の分類に使われてる指標みたいなヤツ! レベル3からは能力者の本格動員、レベル4で犯人の殺害許可、レベル5で周辺諸共の破壊許可って感じだよ~」
「へぇ、流石都市部……作戦が大規模故のシステムか」
つまり今回俺達は、犯人を生きたまま拘束する事は考えずに、最悪殺害して無力化しても構わないって事だ。俺としてはありがたい。『龍腕』を使っちゃいけない事以外、普段の暗殺と何ら変わりないからな。
俺は吐き気を抑えながら、ライラの後ろをついて歩いていく。
全く、なんでこんな空路で移動せにゃならんのだ……普段は乗り物酔いも一切しない俺ですら、今日に限っては頭がくらくらする。昔やった耐毒訓練を思い出すな……
二人で見上げた先、工場のメインゲートは著しく破損していた。
「入り口は……」
「崩れちゃって入れなさそうだねぇ」
先に行った部隊はどこから入ったんだろうか。外壁に大穴が開いているが、あの高さを登るとは考えにくいし……後からメインゲートが崩落したと考えるのが自然か。俺達は氷で階段でも作って、あの大穴から入ればいいだろう。
「ライラ、あの穴から……」
「あ、ニコっち、念のため耳塞いどいた方がいいよ~!」
「え、は?」
振り返ると、既にライラは両手を前に突き出した姿勢を取っており、塞がれたメインゲートに相対していた。耳塞げってそれ……と考える間もなく、彼女の両手から火花が迸り始める。
あれ、これ、昨日の閃光のデジャヴ……
「【芒花火】ッ!」
とっさに耳を塞いで眼を細めたが、なんか思ってたのと違った。両手から激しく噴出した燃焼片がススキの形となり、金属瓦礫に激突する。爆発的に耳をつんざく轟音……というよりも断続的に続く爆音だ。単純にうるさいヤツ……!
解き放たれた炎は瓦礫を熱し、徐々に溶断していく。
「よーし、開いたー!」
「……終わったか?」
「うん、ここから入れるはずだよ!」
「……」
せめて今度から事前に言ってくれ……と言おうとしたが、直前で飲み込んだ。
第五ってやっぱり協調性のない問題児集団なのか……?
* * *
「援軍か、後は頼んだぞ……俺達は退かせてもらう!」
「ちょっと待て、敵の能力と被害状況を言え」
「……チッ、面倒な」
そそくさと退散しようとしていた騎士をとっ捕まえて、最低限の情報を引き出そうと試みる。
「敵の能力は……床だの壁だの伸ばしてくる能力だ。こっちの戦力はそれでもう10人はやられてる。俺達はヤツの射程距離から離れてお前ら援軍を待ってた……これでいいか?」
「射程距離って……安全範囲はこっからどこまでだ?」
「ヤツが動いてたら分からん、だが仮にさっきの場所から動いてないなら……あのベルトコンベアまでくらいじゃないか? それを超えりゃヤツの能力が飛んでくる……かもしれん」
「了解、下がっていいぞ」
聞いた感じだと長射程の能力者、それも領域型っぽいな。列車で戦ったあのカメレオン男に似た系統だ。面倒な敵を引いたものだな……
解放された騎士は負傷痕を抑えながら、そそくさと出口へ歩いていく。だが、最後に何か言おうとして、俺達の方を振り向いた。
「時間経過で射程距離が広がってる可能性もあるからな、気を付けろよ!」
分かったよとハンドサインで返して、バリケード越しに工場内を眺める。崩れた外壁や倒れた機械類で中はぐちゃぐちゃになっており、先の景色は見えない。さっきの話が本当なら、犯人はあの障害物群の真ん中に居るのだろう。
ライラは俺と同じように目を凝らしていたが、何かに気付いたように声を出した。
「あー……ホントだ、居るね」
「……見えるのか?」
「ま、まあね。あたし目が良いからっ!」
ライラは若干動揺の色が見える声で誤魔化した。能力でも使ったのか……いや、この金髪ツインテギャルの能力はさっきの炎を出すヤツのはずだ。本人は『花火』だとか言っていたな。
俺が殺気を読めるみたいに、コイツも波導力で何かが見えるのかもしれない。
「で、どうするよ?」
「どうするも何も……捕まえるしか無いんじゃないの?」
「……つまりこちらから敵の能力の射程内に出向かなきゃならんって訳だな」
「そうだねー……警戒レベルが5まで上がってたら、あたしも能力でやりたい放題できたんだけどなぁー」
ライラはつまんなそうにため息を吐いている。
まぁこんな所で雑談してても事態は進展しない。長射程能力者の相手をする時は、さっさと俺達の交戦距離まで近付くのが得策だ。俺はバリケードから身体を出して、ベルトコンベアの方へそろりそろりと歩いていく。
「……」
まだ攻撃は来ない。ベルトコンベアまで到達した。ライラも後ろからついて来ている。
「……」
コンベアに慎重に足を乗せ、瓦礫を乗り越える。視界がまた開けたが、まだ敵は見えない。
そもそも領域型かも定かじゃない以上、まずは相手の能力の発動条件を見極める所からだ。俺から敵は目視できていない以上、向こうも俺が見えてないと考えるのが自然だ。視認できていないなら、能力も飛んでこないと考えるのが自然だが……
いや、実際、能力者相手の戦いはそこまでシンプルじゃないな。
「……来るぞ!」
殺気……それも全身にぬるま湯をぶっかけられたような、薄く広い殺気。こういう大雑把な殺気が示すのは、飛んでくる攻撃が銃撃や刺突とは違う、「範囲攻撃」だという事だ。
地面が蠢くように揺れた。俺が横跳びで回避動作を取ると、1秒後俺が居た場所の地面が高速でせり上がり、大きな鉄柱と化した。
「ニコっち、大丈夫ー!?」
「ああ、こっちは平気だ。おそらく俺達は奴の射程距離内に入った……いつ攻撃が飛んできてもおかしくないからな!」
敵は視認せずとも攻撃が可能らしい。なるほど、これは相当面倒な敵を引いてしまったようだ。
となれば、俺が取れる選択肢は一つ。
「攻撃を避けながら、突っ走る!」
慎重な足取りから一転、俺は姿も見えない敵を目指して走り出した。




